32話 選んだ人
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
白雪はいつもの公園にいた。
「白雪?」
「朱月さん。」
朱月は隣に座る。
それはいつもの事なのに、いつもと違う風が吹いていた。
「私、朱月さんの気持ちに応えられません。」
「え、あ…いきなり過ぎて…。」
瞬きが増える朱月。
「ご、ごめんなさい。」
「ううん。聞かせて。」
白雪は涙を浮かべる。
「ここは私にとって、大切な場所です。
朱月さんが来ると、心が落ち着いた。」
涙がとめどなく出て、言葉が続かない。
そんな白雪を朱月は優しく抱きしめた。
「…呂唖くんがダメだから、風我さんにした訳じゃない。
でも、このままだと、風我さんがダメだから、朱月さんにした事になっちゃう…。
そんなの私が…許せないから…。」
(それでも良いって言ったら困らせるだろうな。)
朱月は抱き締める腕に力を込める。
「嫌な事、吐き出したくなったら、ここに来て。」
「でも、そんなの…」
「――良いよ!」
初めて朱月は声を荒らげた。
「風我の愚痴でも何でも聞く!
俺にとってもここは、大切な場所で無くしたくない。」
「…ありがとう。」
体を離すと、朱月は優しく微笑んだ。
「俺、今かっこ悪いな…。」
「そんな事ない!朱月さんはもっと感情出した方が良いよ!」
「千里にも言われたな。」
クスクスとする朱月な無表情な男ではなくなっていた。
「風我の所に送って行く。俺もあいつに会いたいから。」
「…はい。お願いします!」
朱月の車で風我の元へ走り出す。
「そう言えば7人、仲良すぎない?」
「んー、そうなのか?」
「なんで私だけ風我さんと、連絡つかなかったの…?」
「あー、着拒してたんじゃね?」
「……え。」
白雪はじわじわと頬を膨らませる。
(風我……。)
そこは大きな噴水のある公園。
夕日を浴びて、一人、男がいた。
会いたくてたまらなかった。でも拒絶されたら…そう思いながらこの日を待ち望んでいた。
朱月は風我が元に近寄る。
「よぉ…。」
「おう。」
朱月と風我は言葉は無くても、なにか通じるものがあった。
「終わったら、六発殴らせろ。」
「はぁ?最初から参戦してないやつも居るのに?」
「7人でひとつだから。」
「それなら、一人ずつ…朱月からの六発じゃ俺死んじゃうよ〜。」
軽口を言う風我に、真剣な眼差しで朱月が小声で言う。
「そしたら、俺がほんとに貰うから。」
「はっ!じゃあ死ねないか…。」
「ふっ、じゃあ俺戻るわ。」
「あぁ。ありがとな!」
朱月は白雪の横を通り過ぎる。
「朱月さん、ありがとう!」
振り返りも、声も出さないけど、朱月が何を思っているか、二人にはわかっていた。
そして、朱月の車が見えなくなるまで、白雪と風我は動かなかった。
ベンチに座ると、風我が先に口を開いた。
「俺は、力があればなり上がれると思ってた。だから、暴力嫌い、血見たら倒れちゃう。なんて、温室育ちのお姫様だと思ってた。」
白雪を見つめる瞳は揺らいでいた。
「実物見たら違った…。
怖くて震えるくせに、血を見て倒れそうになるくせに、強くあろうする。
俺と、全然違うんだよ。」
強く握る手を見つめる。
「カイを殴ってた時…楽しかったんだ。
あぁ、これだ!って…。銃口突き付けられたヒリヒリ感。…俺はこの中でしか生きられない…。」
白雪は、握り締める風我の手を、両手で包み込む。
「……風我さんが好きです。
風我さんは?…私の事好きじゃないなら、諦めます。」
今にも泣きそうな笑顔で風我を見つめる。
「でも…いや……。」
「…私、困らせてるね…。」
白雪は静かに立つ。
「違う!俺だって――」
全部言い切る前に、白雪は風我に触れるだけの口付けをする。
「っ!…俺だって好きだよ。白雪。」
吐露するように言うと、風我は白雪の頭を引き寄せ、もう一度、今度は深く口付けをする。
「ん…ふぁ。」
白雪は息苦しさから、胸を押し返した。
「くく。悪い…。」
「もう…。」
真っ赤になる白雪を引き寄せて、膝の上に乗せた。
「きゃ!こんなの、恥ずかしい…。」
「俺は眺めが良いけど。」
「何言ってるのよ〜」
「遅いから…泊まって行くか?」
熱い眼差しの風我に、恥ずかしくて顔を背けてしまう。
「パパに、電話してみる。」
案の定、父親は渋っていたが――
「でも、これから帰ったら、夜遅くなっちゃう…そこから風我さん帰ったら夜中よ?」
『…うちに泊まっていけば良いだろ?』
「パパ…。」
「親父さん、あの、俺…。」
『もう、迷いは無いんだろ?』
「…はい。これから白雪さん連れて戻ります。」
『ああ。頼む。』
通話を切ると、顔を見合せた二人は車へと乗って、屋敷へ戻って行った。
つづく。




