3話 真逆な二人
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
部屋へ戻ろうと振り返った瞬間、足が止まる。
廊下の先。
壁にもたれるようにして、一人の男が立っていた。
黒いスーツに、無駄のない立ち姿。
静かにこちらを見ているその視線に、心臓がわずかに強張る。
「……いつから、そこに?」
問いかけても、男はすぐには答えない。
ただ、ゆっくりと身体を起こし、こちらへ歩み寄ってくる。
近づくほどに、逃げ場がなくなるような感覚。
「……え?何?あなたも、なの?」
思わず一歩引きながら、白雪は口を開いた。
男は数秒、白雪を見下ろすように見つめたあと――
「はい。」
短く返す。
感情の読めない声。
「……そう。」
それ以上、言葉が続かない。
碧の時とは違う空気。
優しさで包まれるのではなく、じわじわと圧がかかるような感覚が白雪を襲う。
翌朝。
部屋を出た瞬間、すぐ後ろに気配を感じた。
「……近いんだけど。」
振り返らなくてもわかる。
「護衛です。」
短い一言。
「暁斗…護衛って、ずっと後ろにいる必要ある?」
「あります。」
即答だった。
歩き出しても、足音はぴたりとついてくる。
一歩分も離れない距離。
「……落ち着かないんだけど。」
「……。」
暁斗は視線を逸らす。
「私の事…小さい時から見てるのに、婿だなんて…どう思ってるの?」
「…俺は…すみません。」
口数が少ない暁斗の事をそれなり知ってる白雪は、その距離を拒めなかった。
暁斗は気づかれないように、小さく息を吐く。
――本当は。
ずっと、こうしたかった。
手を伸ばせば届く距離にいることも、二人きりでは会話をする事も、許される立場じゃなかった。
だから、諦めていた。
候補に選ばれたことで、
初めて「隣にいていい理由」ができた。
それでも、それを口にするつもりはない。
ただ、離れないだけ。
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学校へ着くと、芽莉が白雪に近寄ってくる。
「おはよう、白雪ちゃん!」
「お、おはよう、芽莉ちゃん!」
(こういうの憧れてんだよねー!)
一年三組。
二人の教室の前に、女子の集団が黄色い声を発している。
ざわめきの中心にいたのは――
「……え。」
思わず足が止まる。
見覚えのある横顔。
ほんの一瞬だけ目が合うと、彼は人混みをかき分けてこちらへ歩いてきた。
「え、こっち来てない!?」
芽莉が小声で慌てる。
「おはよう、白雪。」
当たり前のように、名前を呼ばれた。
「……お、おはよう……」
周囲の空気が、一気に変わる。
「え、名前呼び!?」
「どういう関係!?」
ざわめきがさらに大きくなる。
碧はそんなこと気にも留めず、ニコニコと白雪を見つめる。
「――っ!
あお、夕霧先輩。どどどうしたんですか?」
「どうしたも何も俺たちは――」
思わず白雪は碧の口を手で塞いだ。
「碧!ここでは組も婿も禁句!
私は普通に学校生活送りたいの!」
小声で言うと、碧は塞がれた手を優しく掴む。
「そうだね。三年間大変だったもんね。
わかったよ…ここでは普通にしよう。」
耳元で囁くと、白雪はドキリとした。
多数の女子の視線が気なったが、チャイムが鳴ると、ちりじりになり、碧も白雪も教室へ戻った。
少しの違和感が、白雪の心に染みとなって残った。
昼休み、白雪と芽莉は屋上でお弁当を食べていた。
休み時間になると、他学年や他クラスの女子の質問攻めに疲れ果てていた。
濁す白雪に怒る女子もいた。
そんな中芽莉だけは、何も言わず、他愛の無い話をしていた。
(本当は聞きたいよね…芽莉ちゃんホント優しい。少しなら…)
「芽莉ちゃん!」
「え?はい!」
「わ、わたしと夕霧先輩の事なんだけど!」
「…言いにくいなら、言わなくてもいいんだよ?私、夕霧先輩に興味ないし。」
そう言ってニコリと笑う芽莉に救われた。
同時に自分を知って欲しいと思った。
「大した事じゃないの…
幼なじみで、私が中学へ入学する頃に、急に引っ越しちゃって…」
「なーんだ、そんな事くらいなら、みんなに説明したらいいよ!
幼なじみなんて悪い事じゃないんだし。」
(そうなんだ…)
友達がいなかった白雪には、話していい事とよくない事がわかっていなかった。
「ありがとう…芽莉ちゃんが居てくれて良かった。」
「ふふふ。大げさだなー。」
そしてその日のうちに、白雪の周りに女子は居なくなった。
つづく。




