2話 7人の婿候補
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
「ただいまー。」
大きな門をくぐると、広い庭に池が見える。
「お嬢!おかえりなさい!」
庭を掃除している黒いスーツの男たちが、挨拶をしてくる。
「うん。ただいま!」
白雪が笑うと、ほんの一瞬男たちの動きが止まる。
慌てて視線を逸らす者もいれば、耳まで赤くなる者もいた。
(……またこうなってる)
白雪は気づいているのかいないのか、そのまま門の奥へ歩いていく。
「お嬢。組長がお待ちです!」
「え?何改まって…」
白雪は父親が待つ部屋の前へ行くと、男たちが襖を丁寧なに開ける。
「何?仰々しいなぁ…」
白雪は一歩入ると、嫌な予感がして、後ろへ下がろうとする。
が、もう襖は閉められている。
「おかえり、白雪。」
「な、なんですか?パパ。」
「白雪、20歳になるまでに、この7人の中から、婿を選びなさい。」
父の後ろに立つ男たちが、一斉にこちらを見る。
そこには――7人の男が並んでいた。
「……えっ!?」
白雪は驚きのあまり、声が裏返ってしまう。
「そんな!20歳で結婚しろって事!?」
「行く行くは、白雪がこの近藤組を継いでいくんだ。婿には私の下に着いて、色々覚えて貰わないといけないしね。」
「ちょっと待って!
そんなの、急に言われても…。」
「白雪。これは組全体で決まった事だ。」
受け入れられず、白雪は大きく襖を開けて出ていく。
部屋に戻った瞬間、張り詰めていたものが一気にほどけた。
「……無理……」
ぽすん、とベッドに倒れ込む。
頭の中に浮かぶのは、ずらりと並んだ男たちの姿。
あの視線、あの空気――思い出すだけで息が詰まりそうになる。
その時コンコン、と扉がノックされた。
「……誰?」
少し警戒しながら声をかける。
「俺。」
その一言で、胸の奥がわずかに緩んだ。
「その声……碧?」
扉を開けると、そこには見慣れているはずなのに、少しだけ知らない顔をした幼なじみが立っていた。
「久しぶり、白雪。」
「ほんとに……久しぶり……」
三年ぶり。
変わっていないようで、確実に変わっている。
背も、声も、視線も――少しだけ大人になっている気がした。
「入っていい?」
「う、うん……」
碧は当たり前のように部屋に入り、迷いなく白雪の隣に腰を下ろす。
距離が近い。
昔からそうだったはずなのに、なぜか少しだけ意識してしまう。
「顔、青いけど。大丈夫?」
「……うん。碧も、居たね。」
「そりゃね。夕霧組組長の息子だし。」
あっさりと返されて、白雪は思わず顔をしかめた。
「何あれ……急すぎるでしょ……!
7人から選べって、意味わかんない……!
みんなだって、嫌でしょ!?」
溜め込んでいたものが一気に溢れる。
静かに手が伸びてきて、優しく頭を撫でられる。
「俺は、嬉しいけど?」
「えっ?」
「……他の奴らと、無理に仲良くしなくていいし。」
ふと、声音がわずかに変わる。
「俺がいればいいでしょ。
急に引っ越したから、白雪が寂しい思いをしてるんじゃないかと心配だったんだ。」
「う、うん…驚いたけど…」
優しいのに、どこか逃げ場を塞がれるような感覚。
「……碧?」
「なに?」
ニコリと微笑む碧の顔は、優しさと危うさが混じっていた。
それでも、さっきまで感じていた恐怖は、確かに少し薄れていた。
「じゃあ、また来るね。」
「うん……ありがと、碧。」
扉の前で軽く手を振ると、碧は名残惜しそうにしながらも廊下の向こうへと消えていった。
その背中を見送ってから、白雪は小さく息をつく。
「はぁ…。これからどうしよう。」
ぽつりと呟く。
七人の中から、一人を選ぶ。
そんな現実が、じわじわと迫ってくる。
(……普通に、過ごしたいだけなのに。)
その願いは、もう叶わないのだと。
白雪は、まだ知らなかった。
つづく。




