1話 プロローグ―近藤組のお嬢―
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
血の匂いが、嫌いだ。
鼻の奥にこびりつくような、生ぬるい鉄の匂い。
足が震えて、息が浅くなると視界がぐらりと揺れる。
わかってるけど慣れない。
――ここがそういう世界だってことくらい。
「お嬢!…お嬢?朝飯出来ましたよ!」
低い声に呼ばれて、目を開ける。
「…うーん。…っ!やば!」
眠い目を擦りながら起きると、飛び起きて階段を降りると、刺青の入った男たちが朝食を並べている。
焼き魚に味噌汁、卵焼き。
どう見ても“極道の家”なのに、食卓だけは妙に家庭的だった。
「うーん。今日もおいしい〜」
「ははは。白雪は美味しそうに食べるなぁ。」
父親と祖父が目を細めて見つめる。
――【近藤白雪】
春から高校1年。
そして…
近藤組会長の孫。父親は組長。
この事は誰にも知られたくない。
中学の時は、そのせいで友達がひとりもできなかったから。
今日は入学式後の初日。
(今度こそ、笑って話せる友達が欲しい!)
教室へ一歩入ると、にぎやかな声。
別世界な気がした。
白雪は自分の席へ座る。
「おはよう!」
後ろの席の女の子が背中をつつく。
「っひゃ!おはよう。」
(ビックリした…)
「ごめんね。驚かせちゃったね。」
困った顔をするその子に、慌てて笑顔を見せる。
「大丈夫だよ!」
少し沈黙…。
「近藤白雪です。」
「斉藤芽莉て言います!」
二人は目を合わせて笑った。
「めりちゃんって言うの?可愛いね。」
「ゆきちゃんも白雪って書くんだ。
可愛いね!」
「ありがとう。」
「ふふ。色白で頬が赤くなるの、白雪姫みたい。」
白雪はますます赤くなっていった。
そんな会話をしていると、廊下で女子の騒がしい声が聞こえる。
「かっこいい先輩居るって!」
「2年生でしょ?」
「見に行ってみようよ!」
二人の会話が自然と、"かっこいい先輩”の話題になった。
「気になるね!」
「え、うーん…」
「白雪ちゃんは、男子に興味ないの?」
「そういう訳じゃないけど…」
(うちに沢山男が居るし、興味ないなんて言えない!)
「先輩って憧れるよね〜…」
「そう。だね…」
(うちに沢山、年上が居るからなー…)
「白雪ちゃん、好きなタイプは?
私は、明るくてお金持ちがいいな!」
「ふふふ。イケメンとかじゃないんだ。」
「へへへ。顔より…やっぱお金ないと!」
他愛のない話をしてるのが、白雪は初めてで、楽しかった。
放課後、白雪と芽莉は駅まで一緒に帰ることにした。
そして、下駄箱…
「――っ!?」
白雪は視線を感じて振り返る。
(…今、誰かに見られてたような…)
「白雪ちゃん?」
「あ、ううん…。ごめんね、行こうか!」
白雪は笑ってごまかし、靴を履き替える。
けれど、その背中に残る視線の感覚だけは、なぜか消えなかった。
つづく。




