26話 家出の結末は
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
「沙苗が高校生の時、俺は一目惚れだった。」
父親が語りだす。
お茶を持ってきた洸の足が止まる。
「組はこの辺に地上げをかけたくて、お義母さんを脅してたんだ。」
「え!ひどい!」
「…んんっ。…それで何回かこの家を訪ねてたある日、学校から帰ってきた、沙苗に会った。」
「それで一目惚れ?碧のご両親みたい。」
白雪はクスクスと笑うと、廊下に居る洸も笑みを浮かべた。
「俺は…」
――『卑怯と思われても良い!
お前が結婚してくれたら、土地を諦める!』
「て、言ったんだ…。」
「ほんとに卑怯ね…。」
「うっ…。でも沙苗は…」
思い出に触れる父親は微かに微笑んだ。
――『そんなプロポーズじゃ、嫁に行かない。』
「て、言ったんだよ。俺、これでも若頭だぞ?地上げに来てんだぞ?全然怖がらないんだよ!」
クスクスと、笑いながら続けた。
「その後何回もプロポーズした。沙苗が気に入るまで…。8回目だったか…。」
「そんなに!?」
「あぁ、やっとOKを貰った。そしたら沙苗は高校を卒業する月になってた。」
「高校卒業するまで延ばしてたんだ。」
「そうなのかもしれない…。楽しみながらな〜」
「ママ…。」
白雪は涙を浮かべていた。
父親は続けた。
「病気でママが死ぬ直前、白雪を守ってやってくれ。って…自分の分まで愛情を注いでくれ。って言ったんだ…それでその後すぐのお前の誘拐…」
涙を零さないようにと、天井を見上げた。
「過保護になり過ぎたのかもしれない。
こんな家業だ…俺もいつ死ぬかわからない。婿選びも、お前を守ってくれるやつを探したかったのかもしれない。」
「パパ…。」
父親はドアの方を向いて言う。
「洸。お茶くれ。」
ドアが開くと、気まずそうに洸が入って来た。
「洸くん…。」
「ごめんなさい。立ち聞きしてしまって。」
「良いよ。
あいつとの思い出を、知ってる人が多い方が良いんだ…。」
「…パパ。私、大学へ行って、もう少し勉強したい。ためになるかわからないけど、組を継いだ時、暴力だけで解決したくないの。」
「…そうだな。白雪に血は似合わない。
碧と同じ所へ行け。」
「おじさん、また勝手に決めちゃ…」
洸が釘を刺す。
けど、白雪は前向きだった。
「そうね!碧の大学、凄い頭良いところだから、頑張らないと!」
「白雪ちゃん…。俺は無理だからね!」
「洸には期待してねーよ。好きな所へ行け。
俺が金を出す。」
「おじさん…。良いの?」
「あぁ…。」
「やった!俺ね――」
次の日朝、三人は祖母の家を出発した。
たった三日間の家出は、白雪には大切な思い出になった。
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白雪は受験勉強をしていた。
はずだったのに…今は応接間で、風我とお茶を飲んでいる。
「姫。俺ともデートしてよ!」
「デート…」
呂唖の事は吹っ切れたはずなのに、その言葉は棘のように、白雪の心に刺さったままだった。
「……。」
そんな様子に風我が気づく。
手を伸ばすけど、触れられなくて引っ込めた。
すると――。
「きゃーー!!」
白雪が叫ぶ。
その声に、暁斗と組員たちが流れ込んで来た。
「っ!風我…お前!!」
白雪が風我の胸に、しがみついて泣いていた。
「待て、違う!姫が急に!」
「暁斗!ゴキ!ゴキがー!」
振り返ると、ゾワゾワする黒い物体が動いていた。
「お前ら早く片付けろ!」
暁斗が指示を出すと、組員たちは慌てて退治に向かった。
部屋から出て行くのを確認すると、暁斗は風我を睨み付けた。
「早く離れろよ。」
「…はいはい。」
また二人きりになった応接間。
さっきとは違う空気に白雪は顔を上げられなかった。
そんな光景を、父親と祖父は優しい眼差しで見つめていた。
「暁斗も風我も良い顔するようになったな。」
「そうだな。なぁ親父…今気づいたんだが、白雪が他の男のものになるなんて、許せえなぁ…。」
「今頃気づいたのか!?」
「どうしよう親父!」
そんな会話をしながら、二人は去って行った。
「……姫。俺…。」
白雪の背中に手を置くと、じんわり暖かい。
「ごめんなさい!
私、虫嫌いで!特にアレは…。」
白雪は風我から離れる。
お互いの温もりを残して…。
つづく。




