19話 大事なもの
本作はフィクションです。
登場する団体・人物はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
物語としてお楽しみいただければ幸いです。
白雪は駅まで走っていた。
(はぁ、はぁ。服選んでたら遅れっちゃったよ〜)
壁に寄りかかる呂唖。
行き交う人たちの視線を浴びていた。
「あの人カッコよくない!?」
「モデルさんかな?」
「声掛ける?」
そんな声が聞こえて、白雪は呂唖の所へ駆け寄った。
「ごめんね!遅くなって!」
「全然平気。遅刻って言っても3分じゃん」
「でも…。」
「じゃあ、手…繋いで?それで許す」
「…うん。」
出された手を、白雪はきゅっと握り締めた。
(っ!これは、ヤバかったかな…)
呂唖は赤くなったのをバレないように、ぷいっと横を向いた。
「電車なんて、珍しいね!」
「あ、うん。赤いスポーツカーじゃ、目立つでしょ?」
「あー…そう言えば…パパにいつも言われてるよね。」
「目立つからそんなの乗るな!ってね。」
呂唖は肩をすくめる。
「だから、いつも家に置いて、黒いの乗って仕事行くんだね。」
楽しそうに、会話は弾む。
「でもスポーツカーがいいんだよ。」
「ふふふ。呂唖くんに似合ってるよ!」
「今度、ドライブ行こ?」
「行きたい!」
白雪は、ふと思い出す。
「でも呂唖くんて、私の事嫌いなのかと思った…。」
「いや、お嬢に近寄れないでしょ?結果、態度悪い感じになってたけどね。でも…
今は、婿候補…だから。」
「そっか…。」
繋がれた手から、じんわり暖かさが伝わってくる。
(こんな積極的だなんて知らなかった!
ドキドキが止まらないよ〜)
白雪は耳まで赤くなってしまう。
ケーキを食べて、街をぶらつく白雪と呂唖は、まるで本物の恋人同士みたいだった。
「あっという間に時間、過ぎちゃったね。」
その言葉に呂唖は、繋いだ手に力を込める。
「……白雪。」
「ん?」
振り向くと――
呂唖は白雪の額に口付けをした。
「…ごめん。」
顔を赤くする呂唖。
「ううん。謝らなくてもいいよ…」
白雪も顔を赤くなっていく。
無言のまま帰路に着く二人。
けれど、手は繋がれたまま…。
━━━━━━━━━━━━━━━
お花の稽古を付けてもらっている白雪は、
千里と一緒に居た。
「んー、白雪さんは…面白いね。」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるよ。僕にはない発想の生け方だもん。」
白雪の生けた花を凝視する千里。
「千里さんは、ほんとにお花が好きなんですね!」
「…はい。出来れば…華道家として生きていきたい…。」
「応援しますよ!」
「でも、父は…白雪さんと結婚して、裏社会の力も出に入れろ。って。」
千里は申し訳なさそうに、目を伏せた。
「私、暴力嫌いなんです。
家を継いで、全く無くすのは無理かもしれないけど、減らしていきたい。」
「…良い。と思います。」
「ありがとうございます!
千里さんも、好きにしたらいいんです!」
「っ!でも、目が、左右違うから、あまり外に出るなって…」
「私は初めて会った時、キレイだな〜って見とれましたけど!」
千里は驚きで、目が丸くなる。
「こんな目…家の人たちは気持ち悪い。って…。」
「千里さんはどう思ってますか?」
「僕は…――嫌じゃない!」
口にした瞬間、千里は息を呑んだ。
今まで一度も、そんな事を口にした事はなかった。
「…うん、やっぱりキレイです!」
白雪は柔らかく笑った。
そして自宅に戻るなり、白雪は父親を探していた。
あの優しい時間が幻だったと思うほど、これから全て変わっていく。
つづく。




