9話 不法侵入が2人
俺の金欠問題を解決させようと、街中をぶらぶら歩き、求人を写真に収めるだけ収めた。今日は頑張ったということで、電車内でブックマークしていたサイトから、準新作を何本か購入した。
ワクワクで家に帰ると、何故か鍵が開いている。こんなボロアパートでも、施錠はしっかりしないとなと、反省しながら部屋に入る。
「おかえりぃ〜」
雛実ちゃんだ。ついに留守中にまで入り込んでいるとは。
「雛実ちゃんっ!?そのコンボは卑怯じゃないかしらぁ〜?」
月見里さんだ。これに関しては何故?
女に飢えている俺としても、さすがに喜びより理解不能が先に来る。
2人は、俺のゲーム機で楽しげに遊んでいる。
「っ雛実ちゃんはいいとして、月見里さんはなんで!?」
「え、この子が『ゲームしよっ』て言うから」
なんでその顔ができるんだ?まるで『雛実ちゃんの誘いなら、犯罪は犯してもいいわよね?』みたいな顔。
間違ってはいないが、さも当たり前のような顔が腹立たしい。
「また私の勝ちぃ〜。霊華ちゃんの下手っぴぃ〜」
「っぐぐぐ…何回やっても勝てないなんて…」
雛実ちゃんは勝ち誇ると、床に大の字になる。余程楽しかったのか、顔が満足気だ。
その時、俺の手にコントローラーが飛んでくる。
「次はあんたが私の相手よ!」
負け続きで内心イライラしていたのか、その当て付けかのように俺に対戦を申し込んでくる。大人っぽいと思っていたが、意外と子どもらしい一面もあるらしい。
「はい急降下空Nから聖水飛ばして、空下空下っ上B〜」
月見里さんのストックは、あっという間に溶けていった。
「っどうだぁ!?俺のヴァンパイアハンターの底力…は…」
初めて月見里さんに勝ち越し、ドヤ顔をしていたが、その顔はすぐに引っ込めた。
「もう1回よ…。次は勝つからぁ…」
月見里さんは、プルプルと唇を震わせながら、涙目になっている。さすがにやりすぎたか。
「そ、そろそろ目も疲れてきたんじゃないか?暇ならお酒でも」
「やるのっ!私がやるって言ったらやるの!」
ここまで強い剣幕で言われれば、やるしかない。ここは、今までの経験を全て集結させて、接戦を演じよう。
「くっ、くそっ!そこで横スマは卑怯だろ!?」
いいぞ、月見里さんが笑ってる。
だが、ゲーマーとしては、初心者に敗北だけはできない。すまないがここは勝たせてもらうぞ。
「霊華ちゃんいっけぇ〜」
「ひゃんっ!?」
卑猥な声を上げた月見里さんを見ると、後ろから雛実ちゃんに抱きつかれていた。雛実ちゃんは気付いてないだろうが、その手の先は月見里さんの豊満な果実を捉えていた。
「ちょっとっ、どこ触って…っん!」
さらに気になる声を出した月見里さんだが、条件反射かコントローラーを強く握り込む。
「っカキーン!GAME SET!!」
月見里さんのピンク色のキャラは、俺のキャラの当たり判定ギリギリで一撃必殺技を放っていた。
終了画面で華麗な踊りを披露するキャラを見る月見里さんは、感動からか目をうるうるさせている。
「勝てたっ!見て?勝ったわよ!!やっったぁ〜」
無邪気に喜ぶ月見里さんの頭を、雛実ちゃんはヨシヨシと撫でている。
「どうっ?私に負けた気分は!?」
「っぐ、アシストがあったとしても…悔しい」
元々、負ける気は無かったため、うっかり負けてしまったことが素直に悔しい。
「っはぁ〜やっとこの子を1位にできたっ。気分がいいから、打ち上げよ!敗者はさっさとお酒を買ってきなさい?」
不服だが負けは負け。軽い財布を手に、最寄りのコンビニへ向かう。
「私も着いてくよぉ〜」
後ろからスニーカーでとてとてと雛実ちゃんが追いかけてきた。
「くそぉ…まだバイトも決まってないのに痛い出費だ」
「仕方ないから私がおつまみ分は、出してあげるね?」
年下の女の子に財布を出させるのは、男が廃るが、今回ばかりは恥を忍ぶしかない。
両手にレジ袋を下げながらアパートへ帰っていると、横で並んで歩いていた雛実ちゃんが俺の前へ、ひょこっと顔を出す。
後ろで手を組みながら、下から覗き込んでくる姿に、ついドキッとしてしまう。
「私、霊華ちゃんのあんな笑顔初めて見たなぁ」
確かに月見里さんのイメージとは、大きくかけ離れた表情だった。
「これもきっと、幽太君だったからなんだろうねぇ〜」
「そうかな?雛実ちゃんと話してる時も、結構ニコニコしてる気がするけど」
雛実ちゃんは『分かってないなぁ〜』と言わんばかりに、指を振ってくる。
「私の時とは違う、心の底から湧き上がってくる笑顔は、幽太君ぐらいにしか引き出せないんだよぉ?なんか嫉妬しちゃうなぁ〜」
唇を尖らせる雛実ちゃんは、俺のレジ袋を片方掴むと『霊華ちゃんが待ってるんだから、だっしゅだっーしゅ〜』と急かしてくる。
「遅かったわねっ!雛実ちゃんは私の隣で、あんたはそこで正座っ」
この日は最後の最後まで、月見里さんは満面の笑みだった。
足は痺れて使い物にならないが、そこそこ楽しい飲み会だった。




