10話 秘密の共有
翌日、俺は次の講義までの時間を使い、颯介と学食で昼飯を食べていた。その時、息を切らした月見里さんが俺を見つけるやいなや、服の襟を掴んできた。
「ちょっとツラ貸しなさいよ」
そのまま外へ連れていかれると、月見里さんは周りをキョロキョロと気にしている。
「…あんたの部屋に私のスマホ、置いたままかもしれないんだけど」
「なんだそんなことかぁ」
ついに俺の魅力に気がついて、いても立っても居られなくなったのかと思ったのに。
「なら、帰ったら俺の部屋入って探してていいよ。どうせ、雛実ちゃんがゲームしてるだろうし」
朝大学へ向かう時『行ってらっしゃぁ〜い、雛実はもう少しゲームしてるねぇ』と言っていたので、おそらくまだ部屋にいるはずだ。
「あんたはすぐには帰らないの?」
「今日は毎週恒例、浠柑の『愚痴を聞く会』があるからな」
どうせ今回も数時間はかかるだろう。
「あっそ」
「もしかして、俺と一緒に帰りたかったのかなぁ?」
そんなことを話していると、先に学食を食べ終えたのか、颯介がこちらへ向かってきた。
「2人ともまだ話してたのか。…やっぱり何かあるんじゃ」
全力で否定した月見里さんは、友人を見つけたのか手を振る。
「じゃあ私もう行くから、あんたの部屋勝手に探させても……あっ」
「幽太、お話しようか」
月見里さんが口を滑らせたせいで、颯介がおびただしい殺気を放っている。
俺は目配せをすると、ため息をつきながら月見里さんは説明を始める。
「ほぉ〜つまりあれだ、幽太はこんな美人+美少女とゲームをして、あげく一緒にお酒を飲んだと」
颯介は『うんうん』と頷きながら、どこから出したのかバットを握っている。
「おい早まるなっ!俺は全く何もしていない!!なんなら正座してたから足が痛いぐらいだ!!」
「正座ねぇ、四十八手にそんな体位あったのか」
こいつにはもう話を真っ直ぐ聞く脳が無い。ますます怒りが強まった颯介に月見里さんが声をかける。
「これは内緒にして欲しいんだけど、実は部屋が隣同士なの」
先程の説明では省いた部分だが、仕方がないと悟ったのか、月見里さんは付け加える。
このことは他人に知られたくないはずだが、俺の命を考えてか暴露してくれた。この感謝は永遠に。
「私はこいつとはただ部屋が隣なだけ。分かってくれたかな?」
月見里さんは眩しいほどのスマイルで颯介に問いかける。
「月見里さんが言うなら本当か。……にしても、こんな美人とお隣同士なんて羨ましいヤツめ」
「あと、殴るならバットは短めに持つといいわよっ」
月見里さんが遠ざかると同時に、バットが俺の目の前に近づいてきた。
「意外と俺女子と話せるのかもしれない!」
「へぇ〜、颯介が女子と話せるなんてすごいじゃん。で、なんで幽太はこんなボロボロなの?」
颯介にボコボコにされてから数時間後、今まさに浠柑の愚痴を聞く会が開かれていた。しかし、今回は題材がいつもと違う。
「でもまさか、幽太と霊華ちゃんがお隣同士なんてね」
スマホを回収した月見里さんから『どうせそのうちバレるから、浠柑ちゃんには言ってもいいわよ』と言われていたため、颯介のような誤解をされないために、浠柑にもこの秘密を共有した。
「これで全部の合点がついたわ。だからといって、霊華ちゃんに手出したら、浠柑許さないからね?」
なぜ俺の周りには保護者面をするやつが多いのだろうか。余程信頼がないのだと、再確認していると颯介は扉を指さしてくる。
「せっかく美人と同じ屋根の下に暮らしてるんだし、この人生最後のチャンスを大切にしろよっ」
俺のことをボコっておいて、良い奴ムーブしてくるな。だが、早くゴロゴロしたいのは事実なため、お言葉に甘えさせてもらう。
「浠柑は俺が引き受けるから先に行け!」
「…浠柑のことゾンビかなんかだと思ってる?」
アパートに戻ると、外から子どものはしゃぐ声が聞こえてくる。
「あ、幽太君おかえりぃ〜」
雛実ちゃんは子どもたちと遊びながら、1人暮しではなかなか聞かないセリフを放ってくる。
「ただいま、この子たちは?」
俺の問いに、雛実ちゃんは2人の少年少女にコソコソと耳打ちをする。
すると遊びを中断し、2人は俺の元へ駆けてくる。
「あたし杏奈!」
「僕が神太」
双子なのか、息ぴったりだ。俺も自己紹介をすると、2人は顔を見合せる。
「あ、ママが言ってた人だ!」
「あれ?幽太君、雪那ちゃんともう知り合いだったの?」
つまり、杏奈ちゃんと神太君が雪那さんの言っていた子どもなのだろう。確かに、面影がある気がする。
「ほら、神太!ママが言ってたんだから謝りなさいよ!」
「えぇ……だって、杏奈もうるさくしてたじゃん」
少し揉めたあと『せーのっ』とうるさくしていたことを謝罪してくる。
「この子たちもこういっていますし、幽太君?許してあげてはいかがですかぁ?」
「なんで保護者面っ?元々、迷惑とも思ってないから気にしないで大丈夫だよ」
『へへっ、やってみたかったんだぁ〜』とおちゃらける雛実ちゃんは、2人を追いかけ遊びを再開する。
「なら、次は幽太お兄ちゃんが鬼ね!」
「お、いいだろうっ。鬼のお兄ちゃん、本気出しちゃうぞ〜」
僕はキメ顔でそう言った。




