6話 反省会
影が薄いとは言うが、今までの出来事を例とするならば、そんな言葉では言い表せない程だ。
「だから…1人でお買い物できないんだぁ〜」
先程までの重々しい口調と違い、もう既に諦めているかのように、テーブルに突っ伏している。
こんなに可愛い子に気づけない人がいるなんて、人生の10割以上損しているに違いない。
「でも、もうどうでもよくなったんだ」
「…と言うと?」
俺の質問に口角を上げながら、いじらしい笑みを浮かべる。
「だって、私に気づいてくれる人がまた1人増えてくれたからっ」
昨日の雛実ちゃんとのデートは、あの笑顔を見てから記憶が無い。そういえば、雛実ちゃんの年齢を聞くのを忘れていた。早いうちに聞いておかなければ、一線を超えた時、どんな死刑を執行されるか分からない。
「あぁ、またデートしたいなぁ」
今はまさに大学の講義を聞いているのだが、右耳から左耳へと最速で流れていく。
「じゃあ講義はここまでで、出席は今から渡すミニレポートの提出でつけるからな〜」
まずい、今日は朝からバタバタしていたため、パソコン以外を持ってきていない。こんな時に限って、知り合いも周りにいない。いや、1人いた。
「月見里さん、ペン貸してくれない?」
前に座っていた月見里さんの肩を叩くが、無言で肩を払われる。
「…愛妻弁当は作ってくれたのに」
「っそんなもの作った覚え無いわよ!」
月見里さんの怒号が教室内に響く。しかし、清楚そうに見える月見里さんが叫ぶとは思わないのか、またすぐに静寂な空気になる。
「あのねぇ…私、大学では結構大人しめな立ち回りしてるんだから」
ほのかに頬を染める月見里さん、とても美人だ。
「あんた、ちゃんと話聞いてるぅ?」
顔は笑顔だが、怒りマークが月見里さんの髪を埋めつくしている。
「あんたとはたまたまっ!部屋が隣だけの他人!分かった?」
周りに聞こないようにか、至近距離で怒りを露にするが、いい匂いと顔面が強すぎること以外何も入ってこない。
「とりあえず、ペン貸してくれない?」
月見里さんは自分の分を書き終えたのか、こちらにペンを投げつけてくる。
「月見里さんありがとうっ」
「…死ね」
顔面も強いが言葉も強い。レポートをどうにか書き終え、借りたペンを月見里さんに返しに行くが、どこを回っても姿が見えない。
「てことで、浠柑から渡しといてくれ」
「浠柑のこと雑に使いすぎじゃない?まぁ、この後ゼミだから別にいいけどっ」
喫煙所にいた浠柑にペンを渡し、軽い雑談を終え、俺もゼミに向かった。
家に帰る途中、颯介の誘いで前回の合コンの反省会をするため、オカ研メンバーで居酒屋へ足を運んだ。
「集まっていただきありがとうございます。不肖ながら、私門前颯介が乾杯の音頭を取らせて頂きます」
長ったらしい音頭に浠柑は、雑に『全員惨敗〜』と勝手に飲み始める。
「あんたらが浠柑のタバコ止めなかったら、上手いこと彼氏出来てたかもなのに」
灰皿にタバコを押し付けながら、浠柑はこちらをギロリと睨む。
「いや、まず存在がヤニ臭いからバレてんだろ」
当たり前だが颯介に怒りの鉄槌が下された。
「でもまぁ、浠柑を止める以前に潰れちゃダメだろ」
「だって!あんなに可愛い子が目の前にいたら、シラフじゃ保てないだろ!」
情けない発言だが、理解できてしまうのが悔しい。
「浠柑は可愛いからいいとして、2人とももっと自分磨きしな?」
上から講釈を垂れてくる浠柑は、酔いが回ってきたのか辛辣な意見を述べてくる。
「まず颯介は〜自信無さすぎ!シャキッとしてたらそこそこなんだから〜」
「え、浠柑…俺の事…」
再び鉄槌が下された。
「そしてぇ幽太!あんたは女性に対して距離感下手!霊華ちゃん言ってたんだよ?」
ゼミでペンを返す際に話したのか、だいぶ語弊がある切り取り方をされている。
「浠柑、言っていいことと悪いことがあるんだよ」
颯介の優しさが逆に辛い。
「そういう浠柑だって、口悪いしヤニカスだし、胸ないじゃんか!」
俺も酔いが遅れてやってきたのか、思わず口が滑る。
「幽太、言っていいことと悪いことがあるんだよ」
これは怒りの鉄槌コースだと思い、顔を強ばらせる。しかし、その制裁は中々やってこない。
「…うっさい」
浠柑は新しくタバコに火をつけると、明らさまに拗ねててしまう。
颯介と目配せし、浠柑を褒める方向にシフトする。
「そういや浠柑、前髪切った?やっぱり浠柑はどんな髪型も似合うな〜」
「切ってないし」
またタバコが1本消える。
「なんか浠柑痩せたか?いつもより、華奢に見えるぞ?」
「痩せてない。むしろちょっと太った」
このままではタバコが何本あっても足りない。
「どうする颯介」
「ああなった浠柑は、カートン1つじゃ機嫌直んないぞ」
金欠の財布から、カートン代が消えるのはだいぶ痛い。だがしかし、機嫌を直して貰わなければ合コンが開かれることもない。つまり、童貞を卒業出来ないまま大学を卒業と言う、矛盾のような未来になってしまう。
「他に浠柑のいいとこなんて、普通に可愛いぐらいしかないしな」
「っか、可愛い?」
颯介の言葉に、浠柑はこちらに視線を戻す。
「俺、変なこと言ったか?浠柑って、タバコ抜きにすれば坂道系に居そうなタイプだろ?」
お前、そういう事を普通みたいに言うなよ。ほら見ろ、浠柑が顔面真っ赤になってるぞ。
「へへっ、やっぱり浠柑って颯介から見ても可愛いんだぁ〜?」
こうなったらこうなったで面倒臭いが、浠柑は笑っている方がいい。その夜は、タバコの煙が店内を埋めつくした。




