5話 雛実ちゃんとデート!!
「幽太君、おはよ〜」
これは夢の中なのだろう。でなければ、こんな美少女が仰向けの俺に跨っているはずがないのだから。
「土曜日のお昼まですやすやしてる、寝坊助さんはどこのどなたさんですか〜」
柔らかな感触が俺の腹部に伝わってくる。できることなら、このまま一生夢の中でこの重みを感じていたい。
「ま〜だ、すやすやするつもりですかぁ?なら私もご一緒させてもらいますね〜」
心地よい重みが消えるかと思えば、温い触感が布団の中に潜り込んでくる。
甘い香りの正体を確かめるため、まだ夢の中にいてくれという淡い期待を抱きながら、布団をペラりと捲ってみる。
「おはよ〜」
「お、おはよう雛実ちゃん?」
何故、俺の部屋に。さらに言うと何故、俺の布団の中に。
とりあえず起き上がると、雛実ちゃんもつられて身体を起こす。
「とりあえず、色々聞きたいことはあるんだけど。どうやって俺の部屋に?」
「えぇーと…なんか、鍵をガチャガチャガチャ〜って」
雛実ちゃんにはピッキングの才能があるらしい。頼むからこの才能を犯罪には発揮させないで欲しい。
「あ、もしかして勝手に入っちゃダメだった?」
「いやいや、いつでも侵入して俺に跨って起こしてくれ」
少女に言うには少々犯罪的なセリフだが、ピッキングと住居侵入罪という罪により相殺されている。なので、俺は無実。
「あっ、忘れちゃうところだった!幽太君にお願いがあったんだったっ」
雛実ちゃんはお願いを思い出したのか、ふんふんっと鼻息を鳴らすと、俺の手を両手で包んでくる。
「私とデートしてくださいっ」
「もちろんだ」
こんな嬉しいお願いがこの世にあったのか。昨夜のゴキブリ退治と比べると天と地以上の差がある。
早速、着替えると雛実ちゃんとデートへ向かった。
「私行きたいとこ、いっっぱぁ〜いあるんだぁ〜」
「全然付き合うんだけど、なんで俺だったの?」
雛実ちゃんぐらい可愛くて、社交性があれば俺なんかにわざわざ頼む必要などない気がする。
「…それは店に着けば分かるかな」
眉を下げて話す雛実ちゃんは、電車を乗り継いだ先の店へと俺を引っ張っていく。
「俺ここに入って通報されたりしないよね?」
「大丈夫ですよ〜、独房も住めば都ですっ」
この子は独房に入ったことがあるのだろうか。独房に入った先のことは置いといて、俺は春物の服で賑わうブティックに入っていく。
「わぁ〜!この服可愛いっ!!これ私に似合うかなぁ」
久しぶりの買い物なのか、瞳を輝かせながら店内をぐるぐると見て回る。
それに着いて行く俺に、店員らしき人物が声を掛けてくる。
「…おひとり様ですか?」
こちらを訝しそうに見てくる女性店員は、俺の足先から顔に視線を動かすと、裏へ何か伝えに行こうとする。
「ま、待ってください!俺この子と一緒にデートしてるだけなんです!」
雛実ちゃんの手を掴み、店員さんに迫真の顔で訴える。
店員さんは、雛実ちゃんの顔を見つめると、俺に向かって深々頭を下げてくる。
「すみませんっ!私の勘違いで不快にさせてしまい…」
「いえいえ、疑いが消えて良かったです」
俺としては独房に入れられなければ、さして問題では無い。
「本当に申し訳ございませんでしたっ。…失礼を重ねるようで申し訳ないのですが、この子の年齢って…?」
再び向けられた疑いの目に、雛実ちゃんと手を繋いで店を飛び出した。
「ここまで来れば大丈夫か…童貞のまま終身刑なんて、強制的に妖精になっちまう…」
「あの…手」
慌ててたため、繋いだままだった手を急いで離す。
「っご、ごめん!慌てて思わず…」
「いえっ!…ほんとのデートみたいでちょっとドキドキしちゃって」
少し可愛すぎるかもしれない。こんな天使が現世にいたとは。
「ちょっと走って喉が乾いたなぁ。あそこのタピオカ屋さん行ってみない?」
タピオカという単語を久しぶりに聞いた。この子の流行はかなり遅れているらしい。そのうち、こち亀が終わった話を意気揚々と伝えてきそうだ。
2人で入店し、俺が先に注文を終えるとすぐに会計を促された。
「あのこの子の注文は?」
「っあ、失礼しました〜」
少し抜けている店員なのか、雛実ちゃんの注文を遅れてとる。
席へ着き、数分後テーブルにタピオカが2つ置かれた。俺の席に2つ。
「こっちが私のかなぁ」
片方を掴んだ雛実ちゃんは、余程喉が乾いていたのか、ダイソンもびっくりな吸引力でタピオカを吸い上げていく。
「っぷはぁ〜聞いてた通り美味しぃ〜」
一息ついたのか、雛実ちゃんは改まった表情で話し出す。
「今日のデートをしてて分かったと思うんだけどね」
雛実ちゃんが可愛いということだろうか、その事なら初対面の時から理解している。
すると、雛実ちゃんの椅子に通路を通ろうとした人の足が当たる。
「っんぐ」
タピオカが変なところに入ったのか、雛実ちゃんはゲホゲホと辛そうにしている。
「おい、ぶつかったならちゃんと謝れよ」
「は、はい?」
雛実ちゃんにぶつかった野郎は、首を傾けたまま謝りもせず席に戻って行った。
「っあいつ」
「幽太君、大丈夫」
雛実ちゃんはこちらに微笑むと、恥ずかしそうに呟く。
「私、影が薄いんだ」
雛実ちゃんはそう言い終えると、再びタピオカに夢中になっていた。
本当にここまで読んでくださるとは……感無量です!!6話からは、週に3〜4のペースで投稿していく予定です。ですが、いいねやブクマ数が多ければ毎日投稿も考えていくので、ぜひぜひ応援お願いします!




