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4話 急なお願い

 翌日、オカ研の教室に入るやいなやや颯介に激しく肩を揺すられた。


「っお前ヤったんか!!?」


 般若のような形相に思わずたじろいでしまう。そういえば先に帰ったことは特に誰にも話していなかった。


「…ここまで俺たち切磋琢磨し合ってきたのに、裏切るのは一瞬かよ!」

「待て待てっ!お前は大きな勘違いをしているぞ!?」


 颯介に昨夜の出来事をまとめて話す。



「幽太、これからも俺たちは親友だ」


 颯介との友情は貞操のみで繋がっているらしい。


「まぁお前の用は済んだし、次は後ろのやつをどうにかしてくれ」


 雑多に物が置かれている机に突っ伏し、哀愁を漂わせているのはどう見ても浠柑だった。


「…浠柑には彼氏なんて夢のまた夢ぇ」

「昨日の合コンで恥を晒したって、朝からずっとあの調子なんだよ」


 浠柑はこちらをチラッと見ると『っへ、童貞継続残念でした〜』と憎たらしい煽りを披露してくる。


「カートンの話は無かったことで」

「っごめんごめん!浠柑が悪かったからぁ〜!」


 縋りついてくる浠柑だが、こいつも合コン失敗組なため温情で許してやろう。


「でも幽太が霊華ちゃんと知り合いだったなんてね。何繋がりなの?」


 浠柑の問いに答えようと思ったが、昨日の月見里さんの素振り的に、ベラベラと喋るのは憚られるため『前に授業が一緒だったんだよ』と適当に答えてみる。


「まぁそんなことだろうとは思ってたわ。幽太は、あんな美人と繋がれるほどのポテンシャル持ち合わせてないもんね」

「やっぱりカートンの話は無かったことで」


 先程の再放送が繰り返された。



 自宅に戻り、のんびりした時間を過ごしていると隣の部屋からドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。


「人にはあんなに静かにするようにとか言ってた癖に」


 俺の部屋は2階の角部屋なため、隣となるとこの音の正体は月見里さんしか有り得ない。

 すると、隣のドアが激しく開け閉めされたかと思うと、呼び鈴が一昨日より激しく鳴らされた。


「アパートなんだから音には気をつけ…」

「っ私の部屋に今すぐ来て!」


 俺はすぐに飛び出した。こんなことなら風呂に入っておくべきだったと反省しながら、月見里さんの部屋へ繰り出す。


「これが女の部屋!」

「バカ言ってないで!問題が解決したらいくらでも見せてあげるわよ!」


 許しも得たところで、その問題についてやらを聞いてみる。


「…出たのよ」

「っまさか幽霊か!?」


 月見里さんは目に入れたくもないのか、俺の裾を掴み、震えながら部屋の壁を指さす。


「なんだゴキブリか」

「っその名前を言わないで!」


 月見里さんはゴキブリをヴォルデモートと勘違いしているのだろうか。

 俺は慣れた手つきで捕まえると、外に逃がしてあげた。


「森へおかえり」


 ゴギブリと別れを告げると、後ろで見ていた月見里さんは、まるでゴミを見るかのように視線を飛ばしてくる。


「とりあえず…助かったわ。でも、今すぐ部屋に戻ってくれる」

「部屋を物色していいって約束はどこいったんだよ!?」


 月見里さんは俺を玄関まで誘導すると、長い足で外へ放り出された。


「悪いけど、汚物は部屋には入れないルールなの 」


 俺の手を見下ろし、月見里さんは扉を冷たく閉めた。


「っ俺の手が汚物って言いたいのかよ!!?」


 せっかく人助けをしてやったのに、こんな仕打ちあんまりだ。酷い扱いを受けたショックと、部屋を物色出来なかったショックを抱えたまま部屋に戻った。


「あの女っ、顔が良けりゃ何したっていいと思ってやがる!」


 むしゃくしゃした思いは、瀬下ジュニアにぶつけられた。



 長い賢者タイムを終え、夕飯の買い出しのためダル着で部屋を出ると、そこにはスーパーの袋に包まれた何(・)か(・)があった。


「俺の家はゴミ捨て場じゃないんだが…って妙に温かいな」


 袋を開けてみると、そこには可愛い絵柄のお弁当が入っていた。


「まさか俺に惚れた子からの手作り弁当かっ!?」


 そんな淡い期待で胸を膨らませていると、弁当の裏から小さな紙切れが落ちる。

 拾い上げてみると、殴り書きで文字が書かれていた。


『さっきはごめん。洗ったら返して』


 その手紙からこの弁当の出どころは、月見里さんだと推測される。

 部屋に戻り、久しぶりの温かい食事に舌鼓を打った。



「まさか美人で料理も上手いなんて、今までの数々の非礼は水に流してやろう」


 食べ終わった弁当を綺麗に洗い、隣のチャイムを鳴らした。

 小さく開けられたドアから月見里さんが手だけを伸ばしてくる。


「ちゃんと洗ったんでしょうね」


 その手に弁当の容器を渡すと、すぐに閉められそうになる。

 それよりも先に俺は声を出した。


「弁当美味かった!作ってくれてありがとうなっ」


 ほとんど閉められきったドアの奥から、小さく返事が返ってくる。


「…そう」


 ピシャリと閉められたドアを見つめたまま、満たされた腹を撫でた。

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