2話 念願の合コン
翌日、机に散乱したティッシュを雑にゴミ箱に投げ入れ、昼過ぎに出かけた。
「颯介、今日なんだよな?」
「あぁ幽太、俺たちの卒業式は今夜行われるんだ」
下世話な話でキャッキャしていると、クシで髪を梳かす浠柑が細かな日程を共有してくれた。
「今夜の合コンは浠柑の邪魔だけはしないでね」
人数は5対5、浠柑も参戦するらしくいつもよりも鏡と見つめ合っている時間が長い。
「もし浠柑がお持ち帰りされそうになってもイケメンだったら止めないでね」
「はいはい、尻軽女の恋路は邪魔しないっと」
『殺し切るよ!?』浠柑は脅し文句にしては怖すぎる事を叫びながら、颯介の顔面を陥没させていく。
「っはぁはぁ…あと浠柑はまだ…そういう経験ないしっ」
「なんでだろう。普通ならドキッとするセリフなのに、全く股間が反応しないわ」
俺の顔面も共に陥没させられた。
形状記憶合金のように元通りになった俺たちwith浠柑は戦場へと足を運んだ。
オシャレな居酒屋の座敷に通されると、既に3対3の構図が出来上がっていた。
「3人とも遅いじゃんか〜ほらほら座って座ってっ」
見た目はチャラそうだが、以外にも親切な男に促されるがままに畳に腰を下ろした。
すると、目の前のギャル味のある胸デカ子ちゃんが呟いた。
「これで男子は全員揃ったっしょ?あとは霊ぴょんだけかぁ」
今の時代では何かしらに抵触しそうなあだ名をつけさせてもらっていると、隣に座った颯介が足で小突いてくる。
「俺あの胸デカ子ちゃんアリ!」
同じ思考回路が組まれている颯介は耳元でそう囁いてきた。
簡単な雑談をしていると、『ごめ〜ん遅れたぁ〜』とヒールのカツカツとした音ともに襖が開かれた。
「待たせてごめんね〜みんな…は?」
襖を跨ごうとした美女の顔には見覚えがあった。それも昨日何度も想像した顔だ。
「あんたは!」
「お前は、昨日のS級美女!?」
『そんな擦られ尽くしたネタやる?』ジト目でツッコむ浠柑の声が静寂の中で静かに響いた。
「2人とも知り合いなん?なら全員揃ったし自己紹介から始めますかっ!」
少し気まずさを残したまま席に座った美女は、こちらと目を逸らしながら自己紹介を始める。
「法学部3年の月見里霊華です。遅れてごめんね?」
その名前を反芻していると、いつの間にか時が経っていた。
「幽太君〜気にせず飲んでいいんだからね?」
「てかみんな飲み物ないよね?適当に頼んじゃうね」
チャラ男AとギャルBはこういう場に慣れているらしく、スマートに場を回してくれる。
名前聞いてなくてごめんな。
「そういやこの合コンって、浠柑ちゃんが提案してくれたんだよね?」
「その通りっ!うちの男子たちに頼み込まれちゃってさっ」
言い草はムカつくが実際めちゃくちゃ感謝しているので、今だけはこの拳を抑えておこう。
「って、てか浠柑と…月見里さんは何繋がりなのですか?」
下手な言葉を紡ぐと、月見里さんはこちらに目線を向けずに答えてくれた。
「ゼミが一緒なの。それで過去問と引き換えにサークルのみんなに声掛けてみたって感じ」
カシオレの氷をストローでいじる月見里さんは、こちらを一瞥するとすぐに視線を逸らす。
「ちょっと尿意が来たのでトイレ行ってきますっ。幽太君たちも行かない?」
これが噂の『お前誰行く?タイム』だろうか。
言われるがままにトイレに連れていかれた。
「とりあえず2人とも」
チャラ男たちは腕を組みながら、俺たちに近寄って来る。これはもしや『童貞2人は邪魔だから帰っていいよっ』的なことを言われるやもしれない。
「おい幽太…俺たち殺されないよな?」
そんな怯えた事を言う颯介の肩をチャラ男Cは軽く叩く。
「いやぁ〜今日は来てくれてありがとね!てか2人とも誰がタイプ?俺やっぱ霊華ちゃんだわ」
「え、殺さないの?」
『え、殺さないよ?』チャラ男たちは笑いながら俺の想像通りの会話を繰り広げてくれた。
ほんと名前聞いてなくてごめんな。
「男子おっそ〜、なになに?作戦会議でもしてたの〜?」
女子は女子で盛り上がっていたらしく、肩を寄せながらニヤニヤとこちらを見つめてくる。
「まぁまぁそんなとこっ!じゃあみんなそろそろ合コンらしいこともしてこっか!」
いいぞチャラ男!お前に俺の貞操がかかってるんだ!
そこから飲みゲーを含めた数々なゲームで盛り上がった。
「二人で抜け出さない?」
合コンが始まってから数時間後、あるものはエロがり、あるものは泥酔し横になっていた。その泥酔しているのが颯介である。
「浠柑ちゃ〜んタバコ行こうぜ〜」
「ナ〜イスタイミ〜ング!浠柑も一服したい気分っ!」
最初は清楚系で乗り切ろうとしていた浠柑であったが、飲みすぎたのかいつもの男ノリが炸裂していた。
「ねぇ」
残された空間でまだ正気を保っていた月見里さんは、俺に声を掛けてくる。
「私合コンとか元々興味なかったから帰りたいんだけど」
声色は変わらないが、頬を染め、眠いのか細めた瞳が妖艶さを引き立てている。
先程までは会話という会話をしていなかったが、いきなりの問いかけに少しドギマギしてしまう。
「私帰りたいなって言ってるんだけど」
「そ、そっかぁ…ならタクシーでも呼ぼうか?」
月見里さんは欲しい回答をしなかった俺に呆れたのか、スっと立ち上がると俺の太ももを足先で踏む。
「タクシーなんて呼んだらお金がかかるでしょ?1人は怖いから家まで送ってよ。せっかくお隣さんなんだから」
これはもしや逆ナンなのか。机に会費を置くと、軽い足取りで2人で店をあとにした。




