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1話 S級美女は実在した

 大学三年の春。

 特に何かに散財した覚えはない。

 それなのに、俺の口座残高は笑えない数字を叩き出していた。

 だから俺は、家賃だけは笑えるほど安い部屋に引っ越した。

 いわゆる事故物件というやつだ。



「なぁ、幽太(ゆうた)ぁ〜。どうしたら俺ら童貞じゃなくなるんだろうな〜」

「それ浠柑(みかん)の前でする話?」


 俺こと、瀬下幽太(せしたゆうた)。恥を隠さずに言うが、20歳彼女無しの童貞。目の前のとりあえずで染めたであろう、茶髪を掻きむしるのは、門前颯介(かどまえそうすけ)。彼も童貞だ。


「やっぱり風俗しかないよな〜。浠柑はどうするべきだと思う?」

「え〜、でも風俗で卒業するのは邪道じゃない?って!だから浠柑の前でそんな話すんなし!」


 ぷりぷりと感情を露わにしているのは、夏風浠柑(なつかぜみかん)。身長は低く、胸もない。だがしかし、可愛いのも事実。


「あんたら2人がずぅ〜と童貞なのは、彼女作る努力しないからでしょっ!?あぁ〜もうなんかイライラしてきたっ。喫煙所行くから着いてきてっ」

「はぁ、浠柑がタバコ吸ってなかったら彼女候補にしてやってもいいのになぁ〜」


 颯介に目潰しをする浠柑は、ロリ体型の童顔には似つかわしくないがヤニカスだ。

 少し前に吸い始めた理由を聞いたが『彼氏と別れたきっかけかなぁ。彼氏いたことないけど』と一瞬で矛盾する理由をほざいていた。



「そういえば朗報だぞ幽太!あの天下のヤリサー『Judge(ジャッジ)!!』との合コンに漕ぎ着けたぞ!」

「颯介…お前ってやつは…」


 颯介の肩に手を置き、ポロポロと涙を流す後ろで、2本目に手をかけた浠柑がジト目で睨んでくる。


「それ浠柑が無理言ってお願いしてあげたんだからね?後で約束のカートンね」

「俺らが童貞卒業すんのと、浠柑が死ぬのどっちが早いんだろうな」


 危うく根性焼きをされそうになったが、その摂氏600℃近いタバコは灰皿に吸い込まれて行った。


「俺らのサークルにも女がいれば、とっくに卒業してんのにな」

「浠柑は女じゃないって言いたい訳?というか、こんな『オカルト研究会(仮)』に入ってくるような、物好きいないって」


 俺を含めたこの2人だけの、サークルという名の同好会。仲良くなった勢いで立ち上げたのだが、1年から今に至るまで入部希望者はゼロだ。


「合コン明日でしょ?浠柑はこれからバイトだからもう帰んね」

「やべっ!俺もそろそろレポートやばいわ…じゃあ、浠柑と幽太また今度な!!」


 二人の遠ざかる背中をぼやっと眺め、まだ寒さが残る帰路についた。



 三階建てのボロアパート、築何年なのかは知りたくもないが、そこら辺のご老人と同期ぐらいだろうか。

 これから住むアパートにあまり文句を言いたくは無いが、良い点を1つ挙げると悪い点が湯水のように湧いてくる。


「クッソ!この鍵穴どんな構造してたんだよ!」


 鍵穴の前で卒業間近の男のようにもたつき、どうにか部屋に入ることに成功した。

 この部屋で過ごすのは今夜が初めてだ。荷物だけはありったけ詰め込んだが、春休みは実家に帰っていたため、古びた部屋だが新鮮な気持ちが満ちてくる。


「さてさて、一人暮らしの醍醐味はこれだよなあ!」


 イヤホンを付け、お気に入りの動画を再生する。

 しかし、動画が再生されるよりも前に、不気味な不協和音が外部から聞こえてくる。


「ったく、こんな時にい(・)つ(・)も(・)の(・)のやつかよ」


 実は、俺には人には言いにくい体質がある。それは極度の霊感があるということだ。

 親父が死んだあの日から、俺には見えてはいけないものが見えるようになった。


「…慣れてるとはいえ、これが毎日とか考えたくもねぇ…」


 すると不気味な不協和音の他に、ドスンドスンという重みのある音や、3階の真上から子供の無邪気な笑い声や足音が聞こえてくる。


「っもぉ〜!俺は普通に過ごしてぇんだよ!邪魔すんなら成仏させんぞ!!」


 そんな力は持っていないが、日々のストレスから声を荒らげてしまった。


「ふぅ…またつまらぬ奇声をあげてしまった」


 少し早い賢者タイムに突入したと同時に、部屋の呼び鈴がけたたましく鳴らされる。

 身体をビクつかせながら、恐る恐るドアスコープを覗くが、何も見当たらない。


「っな、なんだよぉ…っひぃ!?!」


 今度は、ドアノブが取れてしまうのではないかという程、激しく回された。


「っいいだろう!この幽太様がお前を逝かせてやろう!覚悟っ!」


 ドアを強めに開けると、その少し後ろに人かどうかも怪しいほどのS級美女が立っていた。


「あ、あれ?幽霊で合ってますか?」

「合ってないわ」


 冷たいツッコミをする美女は、まるで変質者を見るように、胸元を腕で隠しながら訝しそうに睨んでくる。


「あのさ、ここアパートなんだから周りの迷惑も考えてよね?それに初対面の相手にイ(・)か(・)せ(・)て(・)や(・)る(・)とかほんと最低なんですけど」


 少し語弊のある解釈をされているが、そんな訂正をする間もなく隣の部屋に入っていった。

 今のが現実か夢なのかは分からかったが、お気に入りの動画を閉じ、ティッシュを横に常備した。

ここまで読んで頂きありがとうございます!初日ということで、5話まで投稿しているので、良ければ続きも読んで頂ければ幸いです!

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