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本のスタンダードをもう一度振り返る・読書おすすめ厳選100作  作者: 木島別弥
第二篇 読書おすすめ厳選200作目・101作目~200作目
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13/15

海外文学20作

 今回は、短編集の書評を多めに書くことにした。我が国では短編集はなぜか不遇をかこち、短編集の出版の手を抜いていると思われる節がある。分厚い鈍器本ブームなんて、はよ、終われと私は思っている。芸術的な幻想文学は短編にこそ結実する。そんなわけで、お手本にすべき海外の良質な短編集をたくさん紹介することにした。文学はかくあれと思わせる名短編集をたくさん集めた。

 他に、本格ファンタジーの定番を紹介する。私は、ファンタジーの定番を読み終えてはいないけど、私の知る限りでの傑作たちを紹介する。楽しいんだ、これがまた。



オイディプス王

人間ぎらい

タルチェフ

星の王子さま

「絶対」の探究

アンネの日記

トレインスポッティング

スカ―ラッチ家の遺産(全2巻)

パルプ

ご冗談でしょう、ファインマンさん(全2巻)

コナン全集(全6巻)

黒の碑

ファファード&グレイ・マウザー(全5巻)

紅衣の公子コルム(全6巻)

カリギュラ・誤解

ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇

十二月の十日

ハイファに戻って/太陽の男たち

カンディード 他五篇

珈琲の哲学



ソフォクレス「オイディプス王」


 ギリシャ悲劇の最高傑作とされる戯曲である。「父を殺し、母を犯す」と予言された子供オイディプスは、すでに王になっている。前王の父ライオスは謎の死を遂げ、犯人の捜索がされている。父ライオスを殺した犯人は誰なのか。わくわくとした緊張感で読んでしまう。そして、感動の涙が。



モリエール「人間ぎらい」


 イギリスでシェイクスピアの演劇をしていた頃、海の向こうのフランスではモリエールの演劇が流行っていた。「人間ぎらい」はモリエールの代表作である。宮廷で誠実な批評をして、まわりの貴族から嫌われているアルセスト。彼にも思いを寄せる貴婦人がいたが、恋敵たちが次々と現れ、貴婦人はいつ奪われてしまうのかもわからない。



モリエール「タルチェフ」


 モリエールの戯曲。偽善者の物語。キリスト教への信仰に熱心なタルチェフは、貴族の邸宅に養われ、有望な若者だと接待されていた。モリエールは、義侠心があったのか、上演する演劇が次々と教会に上演禁止にされていったが、「タルチェフ」にはどこか捨て去ることのできない魅力があるといえよう。



サン=テグジュペリ「星の王子さま」


 バオバブの樹がそびえる砂漠に飛行機が墜落して、そこには王子さまがいた。星の王子さまは、星から星へ旅をして、さまざまな星に立ち寄りながら、地球へやってきた。幻想的で抒情的で、たいした教えはくれないように思えるが、読んでいて引き寄せられる物語である。短いし、とりあえず、読んでみよう。



バルザック「「絶対」の探究」


 「理系科学者を描いた文学はないか」と聞かれたので、それで答えたのがこの本だ。時代は十九世紀、元素周期律表も完成していない頃である。科学者が「絶対」を探究している。二十一世紀の現代では、こういう科学者はクォーク理論にでも打ち込んでいるのかもしれないが、元素の探究の頃から人物像が変わらないところに科学者の探究の普遍性を感じる。



アンネ・フランク「アンネの日記」


 世界一売れた日記である。第二次大戦の悲惨な生活をして、不幸な死を遂げた人物の日記という視点もあるだろうが、女子中学生の日記として、女子中学生の本音が書かれている点も重要な要素だ。女子学生も男子学生も、この日記を読んで、まわりの同級生に備えなければ、人生をこてんとやられてしまうかもしれないぞ。



アーヴィン・ウェルシュ「トレインスポッティング」


 ドラッグカルチャー小説の傑作。90年代イギリス小説の傑作。映画とだいぶ内容はちがう。ドラッグ、セックス、犯罪の話。522ページもあってビビったが、1章が短く、読みやすかった。人間不信が強いが、人物描写が楽しめる。90年代の文化は確かにこんな感じをイメージしていたし、90年代の文学はこんな感じであるべきだと思う。



ロバート・ラドラム「スカ―ラッチ家の遺産」(全2巻)


 冒険小説の大家のデビュー作である。この本によって、ラドラムは、凡庸な作家が六人でかかってやることを一人でこなすといわれた。物語について、語られぬ要素があるものの、それが素晴らしく面白く効いている。「ダ・ヴィンチ・コード」のダン・ブラウンに似ているところがあるか。第二次大戦において、もしそうだったら、とんでもないことだという話が背後に隠れている。



チャールズ・ブコウスキー「パルプ」


 探偵ニック・レーンは四つの依頼をこなす。四つの依頼はどれもバカげていて、解決は不可能に思える。物語の展開も、二流雑誌の好む展開であり、バカげているのだが、それを真剣にやるところがどことなくオシャレである。ブコウスキーの遺作であり、物語は、きれいにまとまっているものの、もうひと場面ありえたのではないかという場面で終わる。



リチャード・ファインマン「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(全2巻)


 科学者のノンフィクションの自伝が読みたいという人にはこれを薦めた。ノーベル物理学賞を受賞した物理学者の自伝である。若い頃から数学者をバカにしていたり、物理学を自慢にしていたり、マンハッタン計画に参加していたりと、面白い話題が多い。しかし、これが事実だとすると、ファインマンはとんでもないやつだ。



ロバート・E・ハワード「コナン全集」(全6巻)


 何度も編集されているので、種類ごとに収録順などがちがうだろうが、私が読んだ東京創元社の全六巻の中村融訳で書く。ヒロイックファンタジーの傑作である。筋肉隆々のコナンだが、理知的な印象を与え、毎回、美女が冒険にからんでくる。野心家の性格は、他のファンタジーではあまり見かけない。野心家のコナンゆえの面白さなのだろう。



ロバート・E・ハワード「黒の碑」


 ヒロイックファンタジーで有名なハワードが書いたクトゥルー神話である。ハワードはラブクラフトの生前からクトゥルー神話の執筆を名のり出ていたようで、ラブクラフトの原典から、クトゥルー神話の魅力が現在のものになるまでの過程に重要な影響を与えているようである。絶体絶命の土地でクトゥルーの神々と戦うなんて、ぞくぞくするじゃないか。



フリッツ・ライバー「ファファード&グレイ・マウザー」(全5巻)


 ファンタジーのシリーズものである。「魔の都の二剣士」「死神と二剣士」「霧の中の二剣士」「妖魔と二剣士」「ランクマ―の二剣士」の五冊からなる。これが面白いんだ。まさにファンタジーって感じの盛り上がりを見せて、たくさんの短編からなるこのファンタジーシリーズは傑作だ。



マイケル・ムアコック「紅衣の公子コルム」(全6巻)


 <法>と<混沌>の神々が支配する世界の冒険劇。五つの次元を支配する混沌の神を三体も倒す困難な旅である。ちょっと敵が強すぎないかなと思うが、ファンタジーはこれくらいやってもらった方が面白い。後半の三巻も、何が書いてあるんだかほとんどわからないが、旅の結末は衝撃的なものだった。



カミュ「カリギュラ・誤解」


 二篇からなる短編集である。「誤解」を紹介しないわけにはいかない。不条理文学の傑作である。それぞれの人の思いがすれちがい、やりきれない不幸を生むことになる。ちょっと少しの幸運があれば、きっと望みを適えたであろう人々の、すれちがいの距離はあまりにも堅く遠いものなのである。



クライスト「ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇」


 フランス革命期のドイツで出版された短編集である。どれも人の不条理を扱っていて、特に「ミヒャエル・コールハース」は法律の遵守されることを市民が期待することがいかに大きいかを語っている。森鴎外の全集の最初には、鴎外が訳したこの短編集が収録されている。それくらい文学の重要作だと考えられていた短編集である。



ジョージ・ソーンダーズ「十二月の十日」


 二十一世紀のアメリカの短編集である。読みづらいが、下卑た文体が格好良く、二流アメリカ文化の雰囲気で楽しい。物語も、二十一世紀の人物を上手に切り取っている。傑作な現代文学短篇集である。十編すべてに外れはない。「棒」「子犬」「スパイダーヘッドからの逃走」が特によかった。



ガッサーン・カナファーニー「ハイファに戻って/太陽の男たち」


 パレスチナを描いた短編集。作者がちゃんと考えて書いているだろうなというのが伝わってくる。パレスチナ問題の答えなんてどこにも書いていないが、パレスチナ問題を考えるのに参考になるだろう。それでなくても、神と戦争とそれに関わる人々についての普遍的な物語が書いてある。人々はこれくらい細やかなことを考えている。いつも。



ヴォルテール「カンディード 他五篇」


 フランスSFでも有名な短編集。宇宙人について考える時、我々は人類について謙虚にならざるをえないのはいつでも同じだ。短編「ミクロメガス」は、読んでいるか、いないか、では、宇宙SFへの理解が大きく変わる。こんな宇宙人をヴォルテールはすでに考え出していたんだね。



ディー・レスタリ「珈琲の哲学」


 インドネシアの現代短編集。幻想風味の短編たちであり、とてもきれいで洗練されている。たった二ページの散文に、わくわくする。描かれる人々の感情にどきどきする。こんな短編集がもっとたくさん出版されたら、文学は楽しくなるだろうなあ。なぜ、我が国の出版社はこういう短編集が出版できないんだ。


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