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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第肆話 月に吠える
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9:〝子ども〟を生み、苦しめる

 マザランの能力は、他のトーテムとは一線を画していた。月そのものであるマザランは、宇宙空間から動くことはかなわない。その代わり、無尽蔵の魔力と重力波をもって、トドゥルの大気中の水分を操作。無数の氷の塊を作り出し、重力波で縦横無尽に飛ばすのだ。


 実際、アルマは善戦していた。無尽蔵に生み出され、縦横無尽に飛び交う氷塊に襲われ、山麓や学園都市に集結してきた転生主義のトーテムたちは手も足も出ない。大人しくそこで逃げ惑いながら、トドゥル人の復興の準備を進めていくのを、手をこまねいて見るしかない。


 だが、何事にも転機はあるものだ。順調にペントハウスの操作盤に指を走らせていくアルマにとって、それは操作盤に表示された山頂部の電波望遠鏡のステータスを示す画面だった。


 操作が思うように進まない。


 お父さんの腕があるのに、必要な権限が足りないと繰り返し表示されるのだ。


 しまいには「嘘。もう天文台が復旧している!」と息を呑む。


 復旧が早すぎる。止血したお父さんを置き去りにしたあと、アルマ第三天文台のすべてを壊しきったとは言えないが、学園都市遺構を制圧してトーテムたちを無力化するぐらいの時間は稼いだと思ったのに。今、地球人の観測を始められるのはまずい。計算外だ。


 満天の青空に、基盤模様に似た幾何学模様が拡がっていく。大気や天候を操作して、電波望遠鏡の確度を高める天文台の魔法陣。実際には不可視の斥力で、アルマの網膜には、補正されたコンピュータグラフィックスとして処理されている。


 ……もう、トドゥル人の復元は叶わないかもしれない。ようやく、ここまで来たのに。いまさら、引き返せないのに。


 アルマはOSF棟屋上のペントハウスに駆け戻った。


 彼の腕は機能しているはずだ。その気になれば、観測作業の強制停止信号くらい――。


「待って……きゃあ!」


 頭上に気を取られすぎたせいで、何もないのにつまづき、転ぶ。


 いや、何もないってわけないか。


 わたしはずっと、つまづいたままなんだ。


「なんで、こんなことになっちゃうのかなあ。わたし、悪いことしたのかなあ」


『したでしょ。親の期待裏切って、これまでの積み重ねをぜんぶ台無しにしちゃったのよ?』


 かぐやの声がした。


「あはは、手厳しいなあ」


『仲直り、すればいいじゃない。下手な意地を張るより、ずっといいわ』


「かぐやちゃんはさ、あのとき本当に人類は地球と運命を共にすべきだった思う?」


『思うわよ。あんなヒトたち、滅んで当然よ』


 かぐやは吐き捨てるように言うと、アルマの傍らに霊体を現した。アルマと全く同じ服装で顕現したかぐやは、アルマに寄り添うように腰を下ろした。


『人類の生き延びたいという思いがあたしたちのような〝子ども〟を生み、苦しめる』


 それってやっぱり身勝手なのよ、とかぐやは言った。


「なら、やっぱり進まなきゃ。わたしはこのトドゥルが好きなんだもの」


『だけど、あたしたちにとってのお父さんは? 久遠くんのことは好きじゃないの?』


「……あの子はお父さんじゃなかったから」


 結局、それがこの一ヶ月をともにした生活の答えなのだ。


「あのとき、お父さんは地球で死んだ。ここに来たのはきっと、久遠くんっていう別の子」


『そうね』


「生まれた子にこうであってほしいって押し付ける。わたしは結局、同じ穴の狢なんだよ」


 そう自嘲すると、地上で繰り広げられている神獣同士の争いの音に混じって、子守唄の音色が聞こえてくる。かぐやは呆けたように『歌』と呟いた。


 力が抜けたようにへなへなと床にお尻をつけて、アルマは空から降ってくる歌声に耳を傾けるしかなかった。これも実際に音として聴こえているのではなく、電波干渉計の相関機を通し聞こえてくる電子通信の旋律だ。アルマの側で、かぐやの霊体が言った。


『電子化した旧人類はそれ自体が長大な音楽情報でもある。まるで鎮魂歌のようだけれど』


「これが宇宙の波動の正体……地球を旅立った人たちのデータ」


 星々の海原を旅した歌声が世界中に響いて、新しい世代の幕開けを告げる。


 幾光年の狭間を越えて、電波と化した地球人類がトドゥルの電波望遠鏡に届きはじめた。

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