8:トーテムシステム
あっ、これはもう死んだかも……と思って、目をきゅっとつぶっていた久遠が恐る恐る目を開けると、そこは虹色の光に充ちた球体に包まれていた。
神獣に喰われたはずなのに。おれは丸呑みにされ、球体の中の椅子に腰掛けている。
「そんなことあるか?」
『トーテムシステムの操縦席だよ。クセはあるけど、すぐに慣れる』
どこからかともなく、そらの声が届く。
球体の内壁に映る虹色の光は外の様子だった。神獣の視界を映しているのだ。
(フィジカルコクピット内に新たな搭乗者を検出しました。ストレージ上に人工単子ファイルを作成しています。KUMONOKUWON.MNDの保存完了。人体保護用ジェルカプセルの充填開始。加重・損傷からの人体保護のため、操縦者の意識をバーチャルコクピットへ転送します。三、二、一……ようこそ、トーテム=ナラシンハへ)
久遠の座るコクピット内に、ジェル状の液体が注入されていく。五秒とたたずにコクピット内が液体で充たされると、今度は久遠の視界に激しいブロックノイズが奔った。意識と肉体のリンクが断たれ、意識が機体上の人工単子データに置き替わったのだ。
有人制御時の激しい加重から生身のパイロットを守るためのシステム。搭乗者の身体は機能を停止し、安全なジェルカプセルに保護される。電子化されたパイロットは仮想空間上のバーチャルコクピットに移され、肉体や時間といった制約の無い状態から神獣を操れるのだ。
電子情報と化した自らの身体を、久遠は興味深げに眺めた。
(バーチャルコクピット展開完了。操縦者肉体安全保護装置ロック。躯体管制オープン……)
『操縦はボクが助ける。これでもトーテムシステムとの付き合いは長いんだ』
仮想空間上に再現された神獣の操縦席。トーテムの体内は副座式だった。久遠の座席の前に、操縦桿を握ったそらが現れる。
『トーテム=ナラシンハ。それがこの獅子の神獣の本当の名前……』
無数の計器類や文字情報が、二人を包み込んでいく。
トーテム=ナラシンハが夜空に吠えると、白いパラボラアンテナたちが一斉に動き出した。
そらは久遠に目配せし、フットペダルを深く踏み込んだ。




