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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第肆話 月に吠える
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7:満天の星空のどこか

 どうやら、泣き疲れて眠っていたらしい。目を覚ますと、側で獅子の神獣が身体を横たえていた。神獣の脇腹に背中を預け、そらも静かに目を瞑っている。神獣の全身に止まった白い鳩たちだけが、くっくっくっとお喋りしていた。一緒に寝てたのか、おれ……。


 ひどく寒い。気づくと日は暮れ、真っ暗になっていた。限界環境用の軽与圧服をそらたちが貸してくれていなければ、とっくに低体温症になっていたことだろう。


 ふと顔をあげて映った景色に、久遠は「わぁ」と腫れぼったい瞳を輝かせた。


 まるで宇宙空間に放り込まれたように鮮明な星空が、遮る物の無い天球を覆い尽くしていた。


 久遠が起きたことに気づいたのか、そらはぱっちりと水色の目を開いた。


『トドゥルで一番美しい星空だよ。空気が乾燥していて、星の光が揺らがないんだ』


「星が好きなんだ?」


『あはは、生まれが星の見えない土地だったからねえ』


「この満天の星空のどこかで、おれたちの生まれた星が消えかけている」


『うん。だから友達を待ってるのさ、ここで』


「友達って?」


『いまはまだ宇宙を揺蕩っているんじゃないかな。微睡みにも似た波となって』


「そのためだけに天文台を守っているのか? 何万年も」


『僕は居抜きのトーテムだからね。ずぅっとトーテムとして過ごしてきたわけではないよ』


「それでも一人ぼっちじゃないか」


 小首を傾げたそらに、獅子の神獣が頬を寄せ、そのたてがみに白い鳩たちが集まった。


『独りぼっちって?』


 久遠はそのときはじめて、人類が人工単子を発明した理由を理解した気がした。


 緩やかに流れ星が流れる星空を見上げて、続けた。


「アルマは、転生主義であるトーテムを敵に回してでも、トドゥルを復興しようとしている。宇宙を漂う地球人類と同じように、墓所に眠るトドゥル人の魂も、人工単子のフォーマットで保存されてるから。理論上は、地球人類ではなくトドゥル人たちの印刷も可能なんだ」


『それだけ、この星の人々が好きだったんだろうね』


「でも、仮に観測が成功すれば、この星は地球人の土地になり果てるだろ?」


『だからアルマは下山して、天文台で観測した情報を処理する山麓施設(OSF)棟へと向かったのさ。観測した地球人の情報を、墓所に眠るトドゥル人の情報に置き換えるために』


「地球人ではなく、絶滅したトドゥル人を復元するため、か」


 どちらも本当の明日なのに、どうして明日を争わなくちゃいけないんだろう。どうして一緒に同じ星を生きることができないのだろう。墓所の境界を守る一ヶ月を過ごした久遠には、なんとなくその答えはあった。この地上は有限の土地だ。この満天の星空には無数の土地が広がっているのに、おれたち人間が暮らせる土地は悲しいくらいに少ない。魂のかたちが電子情報化しても、おれたちは豊かな緑と花畑を欲してしまうんだ。


「アルマを、追いかけなくちゃ」


『トーテムたちの重力波がここまで届いてる。どうやら下界の山麓施設では、すでにアルマとトーテムたちとの間で衝突が始まってるみたいだ』


「説得したいんだ。あいつに会いたい。会って、話がしたい」


『天文台の修復はまもなく終わって、観測作業が再開する。ここが移民計画の正念場だ。地球人の行く末が、あの可愛そうな機械仕掛けの女の子の一人のこころに依存しているのなら、僕たちはやはりあなたの力を借りざるを得ないだろう。だから、僕はこうして君の前に現れた。転生主義者の雲野久遠博士と、再建主義者のトーテ厶、そしてこの星の無数の墓所に埋葬された方舟主義者たち。その架け橋として』


「おれを連れていって、くれるのか? おれやいのりは、神獣たちと剣を交えたのに」


 そらは『やぶさかではないけれど、そう言うからにはあなたは、肝心の人工単子の作り方を知ってもらわなくちゃね』と折れそうなくらい華奢な腰を上げた。


 久遠は「……へ?」と間抜けな声を出した。


『いや、その身なりで山麓施設まで連れていけないから、あなたにも幽霊になってもらおうか』


「え、やだ……」


 ついそう言ってしまったのは、獅子の神獣がにじり寄ってきたからだ。嫌な予感がする。


 構わずそらは神獣に『やっちゃって』と雑に命じた。


 久遠は、獅子の神獣に喰われた。

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