5:僕たちの明日と彼らの明日
複数の電波望遠鏡を組み合わせることで感度と分解能を高めた仮想的な複眼式の電波望遠鏡のことを、電波干渉計と呼ぶ。久遠の立つ第三天文台は、直径十八メートルの移動式アンテナを数百基ほど組み合わせることで成立する広大な電波干渉計なのだと、そらは言った。
複数のカーボンパネルから構成される純白のアンテナの鏡面は、自動整備機構によって髪の毛の太さの数分の一ほどの精度が維持されてきた。アンテナの角度も振動の少ないリニアモーターによって調整されている。ここで観測したミリ波・サブミリ波と呼ばれる電波は、雑音を防ぐためにマイナス二六九度にまで冷やされた光ファイバーケーブルに乗って、アルマのアトリエの地下室や、OSF棟で処理される手はずになっているのだという。
期せずしてそらは、そのための演算処理用のホムンクルスが、アルマのアトリエの地下室に備えられていたはずだと言った。彼女は「折角だから」と続け、獅子の神獣と鳩たちを外に待たせると、併設された山頂観測装置(AOS)棟を案内してくれた。
『かくして方舟主義の末裔のみならずアルマたちすら移民のことを忘れ、あまつさえ事業の要となるトーテムを狩り、その子宮を私利私欲のために錬金炉へと改造していたのさ』
「だから、トーテムはトドゥル人を滅ぼしたのか?」
『彼らトドゥル人は……文字どおりトーテムの逆鱗に触れたのさ』
そらは二の腕を擦ると、目の前で『おぞましい人たちだと思わないかい?』と言い切った。
だが、どちらをおぞましいと言ったのかは、最後まで明らかにしようとしなかった。
久遠は施設内の観測室で、ぎりぎりと奥歯を噛み締めていた。
『ねえ、久遠先生。僕たちの明日と彼らの明日、どちらが本物なんだろうね?』
「そんなの、決まってるだろ。比べること自体間違ってるよ」
『ほう』
久遠が迷わずに即答すると、そらは少なからず驚かされたように目を見開いた。
くるりと背中を向けると、観測室を見渡した。
『じきに夜が来る。このあたりに生身の人間のための装備があったはずだ。着たほうがいい』
その横顔はどこか、積年の捜し物を見つけたかのように満足げだった。




