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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第肆話 月に吠える
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1:この世のすべての時間

 ぴちゃん、という水の弾ける音とともに、久遠は意識を取り戻した。意識はまだ虚ろで、身体から倦怠感が抜けない。このままずっと重力に引かれ、地面に背をつけていたい。


 神獣は動きを止めていた。いや、止めているという表現は不適当だろう。気怠げに首だけ動かした久遠の視界に、神獣の心臓部――重力鋲が壊れた太刀で穿かれているのが映った。太刀は突き刺さったままだ。アルマはどこへ消えたのだろうか。


(第三天文台登山口駅。山麓施設(OSF)棟と山頂観測装置(AOS)棟は――)


 風化した案内板が久遠の居場所を告げる。


 その空洞は地面に空いた大穴といった様子で、ぽっかりと丸い青空が見えた。空洞の縁からは地上の水が滴り落ちている。どうやらこの無機質な空洞の頭上は花畑らしい。水はコンクリートで出来た何百メートルもの大空洞を落下し、ぴちゃんと跳ねる。


 雲が流れていく。


 静かな光景だ。まるで……。


「まるで、この世のすべての時間を集めたような場所だ」


 掠れた久遠の声は、声というよりも吐息に近い。


 それでも久遠は生きていた。


 どうしようもなく、生きていた。


 だけど、死んでいたほうがしあわせなことも、この世にはままあるのだ。


「止血されてる」


 久遠の右腕は肩より下が無かったが、ぐるぐると包帯が巻かれていて、痛くはなかった。


 上体を起こすと、久遠を白い鳩が見守っていた。


 おれの視線に気づいたのか、くるくると喉を鳴らしながら、小首を傾げている。


 こいつが手当してくれたのだろうか。


「まさかな」


 白い鳩は満足そうにくっくっくと鳴くと、コンクリートの上を歩き出した。


 数歩歩いてから、久遠を見る。また歩きだす。まるでついてこいと言っているかのようだ。 


 久遠は立ち上がると、神獣を降りた。


 生きる気力を失ったまま、鳩の後ろを追いかけた。

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