表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第惨話 いのりのアトリエ
52/67

7:なのに此処で目覚めたのは

「なんで、ずっと騙してきた」


「騙していた? 違いますよ。忘れていたんです。地球のことも、この部屋のことも、自分がアルマであったことすら。あの図書館で、かぐやちゃんから賢者の石を受け取るまでは」


「かぐや?」


「わたしは復讐のため、かぐやちゃんに記憶の一部を……賢者の石を押し付けたんです」


 いのりは目を伏せた。


「確かにわたしはひとつ嘘を吐きました。永久野いのりが幽霊として五万年を彷徨ってきたという嘘です。そんなはずありませんよね。いくら時間を減速させたとはいえ、あの植物園の住環境を幽霊が整備できるはずはない。二年前まで、永久野いのりはホムンクルスとして、あの植物園で暮らしていたんです。アルマとしてトゥルド人を滅ぼした自責の念に囚われながら。罪滅ぼしと言わんばかりに、トゥルド人の眠る墓所を神獣から隠し、守りながら」


 いのりは続けた。


「二年前。トゥルドに建てられた天文台は初めて地球人の人工単子を受信しました。チリのアタカマ砂漠で消えた雲野久遠研究員の魂です。永久野いのりは神獣に先んじてこの地下室で雲野久遠研究員を印刷し、あなたが記憶喪失であることを知り、思ったんです。今なら転生主義の計画を無かったことにできるって。墓所には神獣に滅ぼされたトゥルド人が眠っている。それを印刷すれば、トゥルドを復興できるんじゃないかって」


「だから嘘を吐いたのか? 五万年も幽霊だったなんて嘘を。雲野久遠研究員への報復のためだけに、都合よくアルマとしての記憶だけ失くして、トゥルドを復興させたい永久野いのりっていう人格を作り上げて、おれをトゥルド人の復興に利用しようと――」


 アルマはわざと記憶を分割して……賢者の石を使って人格を切り分けて、本当に何も知らないいのりと、真実を知っているかぐやの二人に切り分けた。そして〝善良ないのり〟は、やがてかぐやのもとに辿り着くだろうと踏んだ……復讐のため、おれを完全に騙しぬき、真実で完膚なきまで叩きのめす、ただそれだけのために。


「先に嘘を吐いたのはあなたでしょ! アルマが聞いてたのは、墓所や天文台を守りながら五万年待ち続ければ、お父さんが会いに来てくれるって約束だった! そのために錬金術をいっぱいいっぱい研究して、人体錬成なんて外道にも手を染めた! 信じてくれたトドゥル人を裏切ったという自己嫌悪にも蓋をできた! なのに、なのに!」


 いのりはヒステリックに叫ぶと、久遠が生まれた白いベッドを指さした。


「なのに此処で目覚めたのは、何も知らない、記憶喪失のかわいそうな男の子だった……!」


 今にも泣き出しそうな顔で、いのりは久遠にすがりついた。


「何度も錬金術のレシピを見直した! 錬金炉が壊れてるんじゃないかって! 地球から送信されてきた人工単子の情報に不備があるんじゃないかって! 天文台の電波望遠鏡が壊れちゃったのかもしれないって! だけど、どこにも不足は無かった! あなたは自分の記憶を都合良く人工単子情報から欠落させることで、その重責から逃げ出したんだ! 全地球人類を巻き込んだ、電波望遠鏡型の恒星間惑星播種事業! そのために数万年越しの孤独な使命をわたしに課しておいて、そのじつ自分は耐えることができなかったんだ!」


 いのりは、アルマは叫ぶ。数万年分の思いを吐き出すように。


「だからわたしも嘘を吐いたの! あなたの意識が植物園の扉を抜けるまで目覚めないよう、二年間も薬漬けにして! あなたのデータを奪い返そうとしてくる厄介な樹海の神獣どもを黙らせて! アルマとしての記憶をホムンクルスの亡骸に戻して、アルマとして目覚める前の、無垢な永久野いのりの人格だけをこの植物園に残して! わたしの手足となるよう、あなたを都合のいい錬金術師として育てようとした!」


「それだけ? たったそれだけのために錬金術の力で、地球人ではなくトドゥル人を復活させようと? それがトドゥル人への贖罪であり、神獣への復讐であり、その元凶となった雲野久遠研究員への復讐となると、本気で考えているのか?」


「ええ! 記憶喪失のあなたでも利用価値はあります! 転生主義のかけた保険は完璧で、大量の人間を印刷することができる天文台を動かすためには、地球人本来の生体情報を要します! 数千年かけて変質した、トドゥル人の肉体では天文台を起動できないようにしたんです! だからトドゥル人の復興も、地球人の電波が届くまで待つしかなかった! わたしは待った! 五万年! そしてようやく人類が絶滅した惑星に降り立ってくれたのが……」


 いのりはそう言うと、右手を持ち上げた。


 そう、そのホムンクルスはずっと、アサルトライフルを手にしていたのだ。


 そしていのりは、その銃口を久遠に向けた。


「お父さん、あなたなんです。これでようやく、あなたへの復讐が叶う」


 いのりは引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ