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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第惨話 いのりのアトリエ
51/67

6:あなたが帰りたいと言っていた場所なんて

 錬金術師型電波望遠鏡と銘打たれた部屋のなかには、虹色の繭玉が広がっていた。まるでこの部屋全体がトーテムの子宮の中……錬金炉の中であるように。


『転生主義の計画は周到でした。アルマの人格を分割して、ホムンクルスとしてこの惑星の各地に配置したんです。ホムンクルスの誰しもが、自らの正体に気づかないまま、方舟主義の末裔たるトドゥル人と笑いあい、彼らを守るため神獣と戦火を交えました。だけどそれも、長くは続きませんでした。ホムンクルスの賢者の石を集めることは、アルマの記憶を集めることと同義。墓所には神獣に殺されたトドゥル人たちの記憶が集められていきます。当然、殺されたアルマたちの記憶も。長い時間をかけてアルマは本来の人格を取り戻し、トドゥル人を守る必要が無いことを思い出す。それどころか、彼らは滅ぶべきなんだと知ってしまう』


 虹色の部屋の隅っこには、たくさんのケーブルが繋がった少女のホムンクルスが人形のように座り込んでいた。ボブカットの髪の毛はテラノバで見たかぐやのそれと全く同じ姿だったが、久遠は根拠こそないが、それがいのりのためのホムンクルスであるのだと悟っていた。虹色の繭玉ということは、この部屋自体が錬金炉なのだということ。そしてそれを動かすためのホムンクルスが安置されていることは不自然ではないのだということを。


 それを裏付けるように、いのりはホムンクルスの側に歩み寄っていくと、傍らの床にアルマの太刀を突き刺した。いのりの霊体は光の粒に分解され、ホムンクルスの身体へと流れ込んでいく。光ファイバーで出来たホムンクルスの睫毛が桜色に染まり、ぴくりと動いた。いのりはボブカットのホムンクルスに憑依していきながらも、話を続けた。


『永久野いのりはホムンクルスであり、アルマの一人でした。神獣から産み落とされたいのりは、国定錬金術師としてテラノバから王立第伍霊園へと派遣されました。じわりじわりと時間をかけて、星中に散らばったアルマの人格は墓守のいのりに集約されていったんです』


 ホムンクルスはぱちりと目を開き、『そして……」と桜色の唇を震わせた。


「トドゥル人の味方だったはずのいのりは、アルマとしての使命を取り戻し、戸惑った。トドゥル人は寄辺を失うと、容易くトーテムに蹂躙されて、絶滅しました。トーテムには惑星を整備するだけでなく、動植物の進化や変異を抑制する力もありましたから、こうして地球に似た環境の星が五万年にわたって保たれ続ける条件が揃った、というわけです」


「それが、この星が墓所で埋め尽くされた本当の理由か」


 部屋の中央には、白いベッドがあった。


 誰かが抜け出した直後のようだ。


 久遠は、そこに寝ていたのが誰なのか、気づきたくなかった。


 ここで何が行われたのか、信じたくなかった。


 だがいのりは否応なしに、とどめとばかりに、この話の核心を突きつけるのだ。


「その五万年越しの事業を立案したお父さんは五万年前、南米チリのアタカマ砂漠にあるアルマ天文台の電波干渉計から電波として発信され、消息を絶った。そして五万年間宇宙を漂った末にこの星の電波望遠鏡で観測され、わたしに肉体を印刷されて、目覚めたんです」


「なんのために?」


「これから始まる全人類の観測作業、その先駆けとして、ですかね」


「なんでそれが、今?」


 いのりは「忘れたんですか?」と冷ややかに告げた。


「いまは相対歴五二〇一八年。ちょうど地球が恒星に呑み込まれている頃合いです」


 いのりは「ですから」と畳み掛けた。


「あなたが帰りたいと言っていた場所なんて、もう無いんです」

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