5:頭の文字をとってアルマ
いのりは、今度はあなたやわたし自身の話をしましょう、と言った。
『わたしとあなたの最初の出会いは、地球でのことでした。五万年前に地球で生きていた転生主義者の雲野久遠研究員は、地球人類を電波として宇宙に放つだけでは意味がないと考えていた。全人類を観測してくれる異星文明なんて、期待するだけ無駄ですから』
「だから、方舟主義を利用した?」
『正解です。ろくすっぱ記憶が戻っていないくせに、洞察力だけは衰えないんですね』
階段の終わりは見えない。いのりは幽霊らしくふわりと数段飛び越した。
『結論は簡単です。トドゥルに移住した方舟主義に、全人類を観測してもらえばいい。幸いなことに、肉体を復元する技術は既に確立されていました。わたしたちが錬金炉と呼ぶ3Dプリンタと、賢者の石と呼ぶ情報結晶体、光化学ホールバーニングメモリです」
「長い時間をかけてトドゥルという異星に移住した方舟主義が、そこに電波望遠鏡を作って、地球から発信された全人類の人工単子データを観測する。観測された電波は賢者の石に保存されて、錬金炉で肉体を印刷することで復元される。それが転生主義の移民計画だった?」
いのりは『そういうことです』と言った。
「だけど、そうやって復元された人間は地球にいた頃と同じだって言えるのか? 確かに遺伝子とか身体の状態とか、記憶とか人格とかは再現できるかもしれない。でも本当のおれたちは、もう恒星に飲まれて死んでしまったんだろ?」
『誰がその違いを問題にできるというのですか?』
いのりはにべもなく切り捨てた。久遠は何も言い返せなかった。
『話を戻しましょう。要するに転生主義には、方舟主義をだます必要があったんです。彼らにバレずにトドゥルに天文台を建てる必要が』
「その答えがオシラサマだな」
『トドゥル人が神獣とかオシラサマとかと呼ぶ存在。当時の地球人類はトーテムと呼んでいました。人間が〝憑依〟して操縦できるロボット端末です。転生主義はトーテムに錬金炉を仕込んで、方舟主義に惑星開拓のための重機として売り込みました。時が来ればトーテムの中に保存された転生主義の人工単子が目覚め、観測のための天文台を建て始めることを隠して』
「だからトーテムが作り上げた天文台を管理して、来たるべき全人類観測のときまで隠し抜くシステムが必要だった。地球にいた雲野久遠たち転生主義は、それも方舟主義の移民船に組み込んだんだ。トーテムと、錬金炉と、天文台を守るエコシステムを……」
『〝たち〟ではありません。そのエコシステムを開発したのは〝あなた〟なんです』
やがて階段を降りきると、一つの部屋の前にたどり着いた。
久遠は、その扉に書かれた表札を見て、愕然とした。いのりが淡々と読み上げる。
『錬金術師型電波望遠鏡(Alchemical・LargeMillimeter・submillimeter・Array)、頭の文字をとってアルマ。事業の管理者として、雲野久遠研究員が開発した一連のエコシステム。それがアルマの正体。わたしの正体』
いのりは、その扉に手をかけた。
『言ってしまえば、電波望遠鏡や錬金炉を制御するただのソフトウェア。地球で雲野久遠研究員らによって開発され、恒星間移民船に搭載されてトドゥルに運ばれたシステムです』
いのりは『だからね?』と続けた。
『あなたは、まごうことなくわたしのお父さんなんです』




