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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第弐話 図書館塔の占星術師
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19:あの子って、久遠くんのこと?

『確かめなくちゃ……』


 廃ビルを後にしたいのりは、かぐやが取り残されている図書館塔に駆け戻った。足取りに焦りを滲ませつつ、最上階を目指して階段回廊を駆けのぼる。


 魔力を使い切り、依代であったはずのアルマの太刀は重力鋲の力が弱まっていた。


『はあ、はあ』


 そのためだろう。


 ガリガリと切っ先で地面を傷つけながら、とても重そうにアルマの太刀を引きずっていく。


 図書館塔は大きく傾ぎ、水耕栽培のスイレンやヒヤシンスが流れ落ちていく。


「待っていたわ、いのり。短い間だったけど、楽しかったわ」


 最上階の大温室に辿り着くと、ヒスイカズラのパーゴラの下で、車椅子に腰を落ち着けたかぐやが待っていた。いのりは『教えてくださいっ!』とかぐやに詰め寄った。


 床に放り出された太刀が乾いた音をたてた。


『あの記憶はわたしのものなのですか! わたしは、何を忘れてしまっていたのですか!』


「どーうどう。落ち着きなさい。ほら、深呼吸」


『すーっ……はーっ……はあっ……わたしはっ! わたしはぁっ!』


 いのりは絶望で生気の抜けたような眼差しで、かぐやの華奢な肩にすがりついた。


 天真爛漫でビー玉のような桜色の虹彩から、光が抜け落ちる。


 過呼吸気味だからだろうか。声が震えすぎて、うまく発音できないくらいに動揺していた。


『あの子を、どんな目に合わせてしまっていたのですか?』


「あの子って、久遠くんのこと?」


 まるで妹にでも向けるような眼差しで、かぐやの長いまつ毛がふんわり揺れた。


 いのりは項垂れたまま、こく、とうなづいた。


「そうねえ。まさか本当に〝あんたも記憶喪失だった〟なんてね」


 いのりは両手で顔を覆うと『こんなこと、久遠くんにどう伝えれば』と声を絞り出した。


「見てくれたのね? 賢者の石の中の記憶を。あんたが幽霊になる前の記憶を」


 かぐやは、近くで慌てたように飛んでいたモルフォ蝶に手を伸ばす。モルフォ蝶は信頼しきったように、かぐやの指先にとまった。


 もう片方の手を伸ばし、いのりの頬を愛おしげに撫でた。


 実体のない幽霊と、機械でできた人形。


 交わるはずのない両者は、しかしまるで姉妹のように、しっとりと肌を合わせた。


「あんたがここに戻ってきてくれると、信じていたわ」


『何を言って……』


「ねえ、人生ってやり直せると思う?」


『そんなどうでもいいこと! いまは関係ないでしょ!』


 かぐやはアルマの太刀を拾い上げると「でも大事なことよ」とあくびを噛み殺した。


 急に眠くなったような声音で続ける。


「お父さんが、あんたを探してる。ここから先は、あんた一人でお行きなさい」


『かぐやちゃん! 待って、かぐやちゃん!』


「さすがに魔力を使い過ぎた。ちょっとばかし休ませてもらうわね」


『ねえ、待ってってば! わたしはっ!』


「あんたに預けた賢者の石、上手に使いなさいよ……」


『ねえ、聞いてよ! 勝手に納得しないでよ! わたしはっ! わたしはぁっ!』


 消え入るような声で、かぐやの身体は力尽きた。


 そのときになって初めて、うなじに繋がれたコードは首枷ではなく、図書館からかぐやに電力を伝えるための文字通りの命綱だったのだと、いのりは気づくのだった。


『……わたしは、人生をやり直すものだとは捉えていません』

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