18:思い出しちゃだめなやつ
いのりは廃ビルの屋上に留まっていた。変身は解け、髪と瞳は桜色に戻っている。ここもじきに崩落して、水に沈むのだろう。
『うあっ』と叫んで、こめかみに手を当てた。脂汗がじっとりと滲んでいる。
突如として、いのりの脳裏に覚えのない光景がフラッシュバックし始めていたのだ。
樹海の中で獅子のオシラサマの子宮にアルマの太刀を突き刺す瞬間の光景。炎上する図書館塔の最上階で無惨に打ち捨てられるホムンクルスの残骸。そして……。
『これは、かぐやちゃんの記憶?』
フラッシュバックは続く。
いのりの暮らす植物園。温室の東屋、いつものリビング。書棚を抜け、錬金炉がある工房を抜け、たどり着いたのは地下室の扉。その先には……。
終わりの見えない地下空洞と巨大なトンネル。そこを突き進む、巨大な土竜のオシラサマ。満天の星空と、荒れ地に広がる無数のパラボラアンテナ。そして最後に幻視したのは、天地の区別がない白い部屋と、青い星が見える窓。
それはまるで、久遠くんが話していた悪夢の内容と完全に一致していて……。
『違う、これは……』
アルマの太刀に備わった賢者の石が、この光景を見せているのだとしたら。これは……。
『わたしの、わたしたちの記憶……?』
だめだ、といのりは呟いた。
『この記憶は、思い出しちゃだめなやつだ……』
いのりは足元に刺したアルマの太刀の柄に両手を添えると、項垂れるように膝をついた。
『だってこんなこと。久遠くんに、なんて説明すればいいの……』
アルマの太刀は魔力を使い果たしたように発光を止め、そこに佇むだけだった。




