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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第弐話 図書館塔の占星術師
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15:アルミニウム、過塩素酸カリウム……

 久遠は地図で指定された片側三車線の幹線道路の交差点に辿り着くと、ベルトに挿し込んでいたガラスアンプルを一つずつ取り出し、作業を開始した。封入物分類を示す点字をしっかり確認してから、地面に等間隔で埋め込んでいく。


 手持ちのインパクトドライバーでアンプルを埋め込む穴をアスファルトに開けながら、何度も周囲を警戒する久遠に、かぐやから無線が入った。


(獅子を迂回させて時間を稼いでるわ! 他の神獣がテラノバに着く前に、作業、急いで!)


「こっちは目標地点付近に到着してる。こういう作業なら、昔はよくEVAで……」


(えば? 久遠くん、いまなんて言ったの?)


「EVA(※注釈:宇宙船外活動のこと)……いま、EVAって言ったのか、おれ……」


(あなたまさか、記憶が戻っ……)


 廃ビル街を逃げ惑っていた獅子のオシラサマは、ひときわ強烈な咆哮を響かせた。おもむろに図書館塔の最上階を睨みつけると、四肢の爪を地面に押し付けた。


 オシラサマは顎をぱっくりと開くと、喉の奥にある生体部品を露出。人間のような甲高い悲鳴を響かせ、全身を覆う立体映像が掻き消えると……喉奥から、収束された紫色の奔流が放出される。人類を滅ぼしたオシラサマの雷……生体荷電粒子砲だ。


 紫色の光の奔流は、はじめは狙いが定まらないようにゴリゴリと地面をえぐり、周囲の廃ビルを刃のように切り裂き、やがて青空に打ち上がる。


 その先で貫いたのは、かぐやがいるはずの図書館塔の外壁で……。


 かぐやの(不味いッ!)という悲鳴が聞こえてきた。


 直後、図書館塔の外壁部が爆発する。久遠は血相を変え、腰の無線機に手をあてた。


「オシラサマの生体荷電粒子砲……かぐや! そっちは無事か!」


 ノイズ混じりだが、返事が来る。


(え? ええ! なんとか! 直撃は免れたわ!)


 獅子のオシラサマの関心は、当然のように久遠に向かった。


 オシラサマは雑居ビル三つ四つをやすやすと飛び越え、久遠の目の前に着地した。


(逃げなさい、久遠ッッ!)


 かぐやが無線越しに叫ぶのと、オシラサマが久遠の目の前で吠えるのと、顔面蒼白になった久遠が機材を捨てて逃げだしたのは、ほぼ同時だった。


 寸分の隙も見逃さず、獅子のオシラサマは前脚を振り上げた。


(させないわ!)


 凶悪な金色の爪が久遠を切り裂こうとした瞬間、ガキン! という金属音が炸裂。土壇場で手持ちのT1電磁加速砲に持ち替えたかぐやが、図書館塔から偏差射撃を見舞ったのだ。前脚に直後した弾丸は、T2荷電粒子砲に比べれば豆鉄砲のようなもの。だが弾丸の衝撃でオシラサマの爪は数センチだけ軌道を逸れ、間一髪で久遠を外した。


「アルミニウム、過塩素酸カリウム……」


 アスファルトを砕く、オシラサマの巨大な爪。


 久遠は親指で点字を読みながら、腰のベルトから青いガラスアンプルを抜き出した。


 ひるむことなく、振り向きざまに投げつけた。


「いっけぇぇ!」


 オシラサマの鼻先にあたったアンプルにヒビが入った瞬間、キィイイイイイイ! という高周波音をあげて手製の音爆弾が炸裂する。耳をつんざくような異音でオシラサマも前後不覚に陥り、苦しむようにあちこちのビルに巨体をぶつけた。


 だが、オシラサマはすぐに正気を取り戻す。大気をビリビリと震わせるように吠え、殺意に充ちた眼で久遠の背中を追いかけた。


(久遠くん! 雲野久遠くん! 聞こえてるわよね! しゃんとなさい!)


「痛ってぇ……悪い、かぐや! 耳が痺れてるんだ!」


 久遠はトランシーバーに声を吹き込みながら、かぐやから手渡された地図を頼りに交差点を右に曲がった。息せき切って走る久遠に寸分遅れて、蔦だらけの廃ビルを突き破って獅子のオシラサマが姿を現す。久遠はにや、と笑った。


 図書館で手に入れたジャンク品から組み上げた、即席の有線リモコンを握りしめて――。


「今だ、発破!」


 ボタンを押し込んだ瞬間に、道路に等間隔で埋め込まれていた炸薬が炸裂する。地面を支えていた構造体や鉄骨が破壊され、オシラサマもろとも湖面に落下していく。


 オシラサマの身を包む立体映像が水しぶきで掻き消え、機械で出来た骨格が露わになる。汗だくで息を呑む久遠に、骨格だけとなったオシラサマが牙を剝いて吼える。大気が、湖面が、水しぶきに架かった虹がビリビリと震えた。


「誘導地点にオシラサマを固定した! いつでも撃てるぞ、いのり!」

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