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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第弐話 図書館塔の占星術師
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14:T2荷電粒子砲定格出力!

 予定時刻になった。かぐやは「んーっ!」と背伸びをすると、図書館塔最上階の外壁上に広がる花壇へ出た。車椅子を駆り、艦砲から伸びる極太のケーブルをうなじに挿し込む。導光素材で出来た虹彩と光ファイバー製の髪が、淡い金色に染まった。


「せっかくの花が燃えちゃったって、あの子たちなら騒ぎそうだなあ」


 そのままライフルを模した高分解能照準機を構え、片目でスコープを覗き込んだ。


「まあいいや。しくじるんじゃないわよ――錬金術師」


 驚異的な視力を誇る金色の瞳には、仲良く湖畔上の廃墟都市を駆ける少年と少女の姿が映っていた。ホムンクルスの彼女が言うところの錬金術師――久遠といのりだ。






 図書館塔の外で二人を待ち受けていたのは、青い獅子のオシラサマだった。完全に待ち伏せされていたようだ。久遠といのりは今にも死にそうな表情で、雑居ビルくらいの体長はある巨大な獅子のオシラサマから逃げまどっていた。


『うわーん! 久遠くんもうダメです! 食べられちゃいます!』


「うっさいわ! 泣いてる暇あるなら走れ! 走れってば!」


『食べられちゃうんだ! わたし食べられちゃうんだ! あっ待って! 足がほつれる!』


 獅子のオシラサマは怒り狂ったように猛り、ビルの廃墟をなぎ倒しながら二人に迫る。身体を包む青白い霊毛が、まるで邪気のようにおどろおどろしく揺らめいていた。逃げまどう久遠のトランシーバーに、かぐやの声がノイズ混じりに届いた。


(フライホイール接続、コリオリ偏差修正マイナス五。じゅう、きゅう、はち、なな――)


「ちょ、待っ――やばい、来るぞ! いのり、伏せろッッ!」


『え? うっひゃあ!』


 二人が伏せた次の瞬間。ビルの隙間から見える図書館塔の最上部がきらりと光り……。


(――チェレンコフ光観測、T2荷電粒子砲定格出力!)


 二人の上空を、凄まじい熱量の蒼白い奔流が擦過していった。星々の間を旅した方舟だったという図書館塔。その遺構に備わった艦砲が、数万年という歳月を超えて火を吹く。


 獅子のオシラサマの進行方向を塞ぐように、艦砲射撃は着弾した。だがオシラサマは並外れた運動能力で、直撃を免れる。そのまま進路を転換し、別の道路へ逃げ込んだ。焦りからか数々の廃ビルにその巨体をぶつけ、薙ぎ倒していった。


 すかさず、図書館塔からの第二射が飛んでくる。構造体と鉄骨で出来たメガフロートの地面をごりごりとえぐりながら、蒼白い奔流はオシラサマを沿岸部へと誘導していく。


 伏せたいのりが『これが、天の方舟の威力』と呟いた。


(あたしと久遠くんで神獣を誘導する! いのりはさっき話した施設に急いで!)


 二人は土煙のなかで立ち上がると、頷き合って二手に分かれた。


 久遠は、オシラサマが向かった沿岸部へ。いのりは、かぐやに指示された廃ビルへ。目標となる廃ビルの屋上には、一基の白いパラボラアンテナがそびえている……。


 いのりは一旦立ち止まると、『久遠くん!』と踵を返した。


 足を止めて振り向いた久遠に、いのりは言葉に詰まったような表情を浮かべた。そしてまるで恋心を伝えるのを逡巡しているかのように、言った。


『……ご武運をっ!』


「そっちこそ! しくじんなよ師匠!」


「はいっ!」


 久遠の不敵な笑顔に勇気づけられるように、いのりはふたたび走り出した。

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