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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第弐話 図書館塔の占星術師
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10:星に思いを馳せる人に

 久遠は根を詰めた。集中を切らさぬよう、場所を変え、手掛ける品を変え、図書館のあちこちで作業をしているうちに、外壁上の花壇に行き着いた。ホタルが飛び交っている。夜空と花を眺めながら休憩していると、いのりがあくび混じりにアルマの太刀を地面に突き刺し(重力鋲を使わないぶん魔力を温存できるのだ)て、久遠の隣に腰を下ろした。 


『眠らないのですか?』


「眠れないんだ。だから、ちょっとだけ星を眺めてたんだ」


 久遠は魔法瓶に注いだ柑橘風味のルイボスティーで喉を潤しながら、月明かりで透けたの霊体に視線をやった。地面に突き刺さった太刀の血流しから、桜色に滲む液晶霊素が絶え間なく湧き出す。太刀が霧に指向性重力波を照射して、幻想的な霊体を描き出しているのだ。


『星を見るのが好きなんですね』


「職業病だろ。おれ、ここに来るまでは、別の星にいたっぽいから」


 久遠は「……それに寝ると、またあの悪夢を見るかもしれない」と続けた。


『別の星? 悪夢ですか?』


「ああ。おれは白い部屋に浮いていて、アルマの器みたいな白い球体と星を眺めてるんだ」


 いのりが少しだけ目を見開いた。


 久遠が悪夢のことを打ち明けるのは初めてだった。


「……悪夢を見るたびに、記憶が鮮明になっていく気がするんだよ。でもおかしいんだ。星とか星座ってさ、毎年同じ位置に登るだろ。暮らしてる街並みとかさ、自分のこととかさ、そういうのは目まぐるしく変わっていっても、星の速度だけは変わらないはずなのに……」


『夢で見る星空と、このトゥルドの星空が違うってことですか?』


「うん。神獣の台頭で全人類が逝去し、無数の墓標と花畑に覆われた墓所惑星。氷のマザランや知らない星座が浮かぶ見知らぬ星空は、夢で見るそれと違う。だからおれは、この星の人間じゃないのかもって……そう……思ったんだ」


 久遠は夜ごとに見る悪夢を、自分の失くした記憶だと考えていた。


 悪夢は見るごとに明晰さを増していく。


 そういうわけで久遠は少しだけ、帰りたいと思った。


 でも、記憶にあるその星がこの夜空のどこにあるのか。それがわからない……。


 胸中を知ってか知らずか、いのりは膝を抱えて物憂げに囁いた。


『あなたを見てるとわたし、思います。いつか光速の壁を超えて、時間も空間も超えて、遠い星の人、すべての人と手を取り合える、そういう時代が来てほしいなって』


「そのために、墓所を守り続けるのか? こんな誰もいなくなった惑星で、モノにも触れないような幽霊の身体で、何万年も、ひとりぼっちで」『わかりません。だから今は祈るんです。永遠平和のために、って』


 久遠は縫いかけの黒い布地とレースに手を伸ばすと「あんたは……」と問い戻した。


『いのり』


「いのりは、眠らないのか?」


『付き合ってあげます。星に思いを馳せる人に、悪い人はいませんから』


 新月の夜が更けていく。

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