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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第弐話 図書館塔の占星術師
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8:ぞっとしないなあ

 一夜明かしてから、二人は作業に取り掛かった。ここまでの七日間の旅程で、久遠のバックパックは希少な錬金術の素材に事欠かさなくなっていた。花のエキスや虫、水銀のプ(略)まで、いわゆる錬金術における血属性と水属性の配置素材はあらかた揃っている。


 夜営した図書館塔外壁部を下り、二人は無数の恒星間移民船を高層建築に転用したテラノバの中心市街跡地を探索していった。植物園のある王立第伍霊園の街と比べると、なるほど確かに都会だ。ここに暮らしていただろう人々はどこへ消えたんだろうと思った久遠は、すぐにそれが愚問だと気づいた。ここも墓所やべナック廃墟と同じく、ビルの建材や幹線道路のアスファルトに至るまで、夥しいほどの名前と享年が彫り込まれていたのだから。


「ぞっとしないなあ」


『そうでしょうか?』


「ここに住んでたやつら、全員の名前が刻まれてるんだって改めて思うと、さ」


 両手にジャンク部品を抱える久遠に、後ろ手を組んだいのりは軽快なステップで訊いた。


『あと足りないのは?』


「重力鋲の抜錨に必要なスターター、それとギデオン隕鉄がひと塊。うぃぢょ……ウィドマンシュテッテン構造のオクタヘドライト型隕鉄なんて、そう都合よく見つかるもんかね」


『無ければ作ればいいんですよ。代用できるもので』


 やがて二人は湖岸に出た。


『はてさて、錬金炉がまだ生きてそうな遺骸はありますかね?』


 久遠は「こいつが良さそうだ」と、浅瀬に沈むサソリのオシラサマの遺骸に見当をつけた。


「水に潜って子宮の具合を確かめる。使えそうなら、素材と賢者の石を投入しよう」


 そう言うと久遠は、躊躇なくシャツの裾をまくった。

 

 不自然なほどに傷一つない久遠の、あまり鍛えられているとは言い難い腹筋が露わになる。


 ……気のせいだろうか。いのりの寝癖がぴこんっと跳ねた。


『ふむ』


 いのりの視線に気づいたのか、久遠はにやりと笑うと……。


「むっつり」


『……失っ敬な!』


 ぼっ! と燃え上がるように赤面したいのりが、素っ頓狂な声音で抗議した。


 上着とシャツを脱いだ久遠は「はいはい。これがあれば水の中でもある程度の呼吸ができるんだろ?」と希少な錬金水草を口に含むと、水に潜って調査をはじめた。


『はい、は一回で充分ですっ!』


「ほいほーい」


 いのりは『身体が無けりゃそりゃ欲求不満のひとつやふたつ……』とか『わたしはもっと肉付きのいい年上の男性が好みで……』とかぶつぶつと呟きながらも、久遠の呼気が泡となって浮いてくる水面を心配そうに……かなり心配そうに見つめていた。


 数十秒後、水濡れの久遠が「うんうん、いけそう」と湖面に浮上してくる。ほっとしたように胸を撫で下ろしたいのりは、すぐに『ふんっ』とそっぽを向いた。久遠がまた水に潜って作業を進めている間、いのりは岸辺で甲羅を干している亀をじっと眺めていた。どこからかアオムラサキの群れが飛んできて、亀の涙を舐めていた。

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