21:帰りましょうか
日誌によると、王立第伍霊園を取り囲むように埋設された壱式鋲型誘導石は、立体映像や音や匂い、そして指向性のある重力の歪みによって、外部の存在が墓所を認識できなくするための機構らしい。
結界石の修繕が成功し、それらの機構が発動した今。久遠の目の前――すなわち墓所の外側には、立体映像による花畑が広がっていた。見渡す限りの桜色の花。砂漠に咲く霞のような花畑――。
つまりはすべてがまやかし。結界などという大層な名前で全人類の墓を囲っておきながら、その実態は壁一つ隔てない脆い認識の境界線でしかない。この実体のない、薄氷で隔てただけのような境界線が、五万年間も神獣たちの目を欺き続けてきたのだ。
猛り狂ったように生体荷電粒子砲を振り回していた白いキツネのオシラサマは、ゆっくりと正気に帰るように周囲を見渡した。……そしてやがて、何もかも忘れてしまったかのように、首を捻りながら樹海の奥深くへと戻っていく。
あれだけ響いていた神獣たちの呼び声も、すっかり止み、あとには春のそよ風の音だけが残っていた。ほっと一息、久遠は胸をなでおろした。
「間に合って…………ない! いのりがまだ結界の向こう側にいるのに!」
すると結界の向こう側から太刀が飛んできて、慌てふためく久遠の足元のに突き刺さった。そして桜色の燐光とともに、いのりの霊体が太刀の側に出現して、言うのだ。
『結界で墓所との出入りが制限されるのは神獣だけです。一緒にされちゃあたまりませんよ』
「よかった。おれはてっきり……」
『てっきり?』
「……なんでもない!」
いのりは『うふふ』と上品に笑うと、太刀を花畑から引き抜いて、言った。
『帰りましょうか。わたしたちの植物園に』
地面を抉った切っ先から、肥沃な土がこぼれ落ちていく。それが、記憶喪失の青年・雲野久遠と、墓所惑星の錬金術師・永久野いのりの出会い。ふたりの最初の冒険の終わりだった。




