20:壱式鋲型誘導石
『結界石の起動が近い。オシラサマを墓所の外へ誘導するのよ、いのり!』
暴れるオシラサマに峰打ちを叩き込みながら、いのりは自分に言い聞かせていた。刃と爪を交えるたびに衝撃波が広がり、色とりどりの花びらを舞い上がる。無数の墓標をなぎ倒して、色褪せた廃墟をえぐりながら戦う一人の幽霊と一柱の神獣。
結界石の再起動が間近に迫っていることをいのりは悟っていた。襲いかかってきたオシラサマのお腹の下に潜り込み、限界まで振りかぶった峰打ちを叩き込む。二十歳前後の少女とは思えない膂力でオシラサマが弾き飛ぶ。
結界石を飛び越え、墓所の域外まで弾き出されたオシラサマは、空中で身を捻りながら最後の力を振り絞り、生体荷電粒子砲の充填に入った。墓所外の砂丘に着地するとともに、久遠に向けて暴力的な光の奔流を放つ。
「うわっ」
間一髪でオシラサマの懐に割って入ったいのりが、オシラサマの首元にアルマの太刀を突き立てる。強引に射線を逸らされた紫色の火線は暴れまわるように墓標を吹き飛ばし、花畑を抉り、レンガ畳の街を切り崩し、雲ひとつない真っ青な空へと打ち上がる。それは暴力的な力の奔流だったが、天を穿つ光の柱は息をのむほどに美しい。
『久遠くん、いまです!』
「天の福音を預かりし、墓所の術者が語りかけん……」
久遠は結界石の側で祈るように指を組むと、見様見真似で祈りを諳んじた。すぐ側の砂をオシラサマの生体荷電粒子砲が抉っていくが、動じない。巻き上がる砂塵の向こう側で、いのりの桜色の瞳が力強く揺れていたから。
『げ――、さ――――。』
いのりの口が、何かをしゃべる。久遠はハッとしたように、いのりの口の動きを目で追った。
「幻燈器、再点火!」
墓所と外界の境界線。等間隔で並ぶ結界石が、幾何学的な桜色の魔法陣に包まれていく。
久遠といのりは、声を張り上げた。
「『賢者の石、読み出し開始! 壱式鋲型誘導石、再展開!』」
二人の祈りが墓所惑星に響きわたる。そして……。
砂丘に花畑が現れた。




