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アトリエアルマ/錬金術師型電波望遠鏡  作者: 朝野神棲
第壱話 墓所惑星の錬金術師
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19:守りたいんです!

 白いキツネのオシラサマは苛立ったように、前脚でガラスのような砂を掻き立てていた。こぉぉん……と甲高い雄叫びをあげ、砂煙の向こうに威嚇を続ける。まるで決着はついていないと気づいているかのように……。


『せあああッッ!』


 突如、砂煙を切り裂いて、太刀を構えたいのりが一気に飛び出してきた。 


 オシラサマはぎょっとたじろぐ。一瞬の出来事に対応しきれず、いのりの刺突がもろに突き刺さった。衝撃波が広がり、同心円状に舞い上がる砂。


 オシラサマは悲鳴をあげ、そのまま力任せにいのりと太刀を振り落とした。


『踏み込みが、浅い!』


 いのりはオシラサマから距離をとり、久遠の側にふわりと着地した。幽霊らしい、重力を知らない軽やかな足取りで。


「いのり! おれはどうすればいい!」


『結界石を再起動します! あなたが……人類最後のあなたが墓所防衛の要となります!』


 オシラサマは顎を開き、生体荷電粒子砲の充填に入っていた。雄叫びとともに放たれた紫色の熱線は、久遠といのりのもとへまっすぐ伸びていく。


『――依代ほんたいが武器の形をしているなら、わたしだって戦えますから!』


 荷電粒子砲の着弾寸前、太刀の切っ先を青眼に傾けたいのり。『せッ!』という掛け声とともに、襲いかかる紫色の粒子ビームに一閃を浴びせた。太刀の切っ先で二股に分かれた粒子ビームは、二人を挟み込むように後方へ逸れていく。巻き上がる砂煙とオゾンの匂い。残心を取ったいのりの三つ編みが、ふわりと焦げ臭い空気をはらむ。砂煙の中で咳をしながら、久遠は目を見開いた。


「生体荷電粒子砲の火を……斬った!?」


『まぐれ当たりです! もう一回同じことをできる気はしません! 走って! 第二射、すぐに来ます!』


 地面をえぐりながら飛んでくる生体荷電粒子砲の第二射。いのりは地面を蹴ると、紫色の火線をくぐり抜けオシラサマの足元まで一気に駆け抜ける。前脚でいのりを踏み潰そうとするオシラサマ。いのりは軽やかなステップでかいくぐり、背後に位置どった。


 ステップの勢いを殺しきれなかったいのりは、アルマの太刀を砂丘に突き立て、くるりとターン。左足で地面を強く蹴り上げ、オシラサマの懐に潜り込む。視線をひきつけて、結界石を直す時間を稼ぐ魂胆らしい。


 それにしても、彼女の動きは……。


 これは、幽霊が剣を振るってるってもんじゃない。まるで剣が自在勝手に空中を飛び回って、それに幽霊の姿がひっついてるだけ。まさにそんな感じだ。


 オシラサマは大きく跳躍して、いのりから距離をとった。そのまま墓所に向かって一直線に駆け出す。


『そっちには行かせませんってば!』


 いのりは跳ぶように、オシラサマを追いかけた。太刀に埋め込まれた重力鋲の力を開放して、爆発的な加速を得ていく。


『結界石の向こう側にはっ……行かせないんだからぁっ!』


 オシラサマの正面に回り込んだいのりは、顎に太刀を突き立てた。だが、突進の勢いを受け止めきれない。鍔迫りあいのままじりじりと後ろに追いやられる。奮戦むなしく、オシラサマといのりは結界石を越える。――墓所の領域内へもつれ込んでしまった。


「墓所への侵入を許してるぞ! いのり!」


『多少の無茶は織り込み済みです! 久遠くんは結界石の再起動を――ひゃあ!』


 いのりとオシラサマは煉瓦と花畑で出来た墓所の街中を駆けずり回り、丘の斜面に作られた神殿跡に衝突。斜面の階段が崩れ、瓦礫や石材、色とりどりの花びらが弾け飛ぶ。巻き上がった砂煙から、すかさずアルマの太刀が回転しながら空へ向かって飛び出した。太刀が最高到達点に達すると、柄を握りしめたいのりの霊体が再び姿を現す。


 いのりは急降下し、横転したオシラサマの前脚にアルマの太刀を突き刺した。オシラサマは悲鳴をあげて、身をよじらせる。逃さんとばかりにいのりは地面を踏みしめると、太刀を峰打ちに持ち替えた。オシラサマの横っ腹に太刀を叩き込み、吹っ飛ばす。


『……久遠さんは知っていますか? ヒトは二度死ぬんです。一度目は、肉体が死んだとき。二度目は、その人を知る人がこの世界からいなくなってしまったとき!』

 神獣を圧倒するいのり。彼女は残心を取りながら『守りたいんです!』と叫んだ。


『この星にはたくさんの人が生きていて、泣いたり笑ったりしながら、どうしようもなく先の見えないこの世界と戦ってきた! ここにはトゥルド人の名前が全部刻まれてる! たとえ人類が滅んでも、お墓があれば語り継げる! 守りたいんです! 繋ぎたいんです! この星で生きた人たちのことを、いつかこの星で生きるイキモノたちに!』


 壊れてしまった結界石のひとつに手を伸ばしながら、久遠は「……でも、それは人間の自分勝手な自己陶酔だ」と呟いた。砂にまみれたバックパックを漁り、いのりに言われて植物園から持ってきていた日誌をめくる。壊れてしまった結界石を再起動して、最低限の状態で稼働させる手法が示されていた。さいわい、樹海で見つけた素材で事足りるようだ。


 結界石を指でなぞると大理石がスライドして、内部の歯車機構が露わになる。白い冷気も漏れ出している。その中央にあるのは、こぶし大の虹色の繭玉と賢者の石。久遠は「結界石も神獣の子宮で動いてるのか……」と、少なからず驚いた声を洩らした。だけどすぐに気を取り直して、すかさず樹海で採ってきた虫や植物、鉱物を気血水の法則に従って虹色の繭玉に押し込んでいく。植物園から持ってきた日誌だけを頼りに。


「……結界石には要石という周囲の結界石を制御する親機がある。要石の内蔵錬金炉に素材を投下、自己修復機能を走らせれば、最低限の結界を展開できるって寸法か」


 だけど、時間の猶予はあまりなさそうだ。日誌をめくるたびに、樹海や砂丘の彼方から、別の神獣の唸り声が聞こえ始めていた。一柱だけじゃない。猛獣の声、猛禽の声、ひとつの雄叫びはまたひとつの雄叫びを呼んで、呼応するように星じゅうを震わせる。久遠は「錬金炉の稼動は他の神獣を引き寄せるって、こういうことかよ!」と奥歯を噛み締めた。


 かつて人類は、神獣の子宮を摘出するというひとつの罪を犯したらしい。ひとつの罪はまたひとつの罪を呼んで、取り返しのつかないがん細胞のように膨れ上がるなら。そうした罪の累積のうえに人類は滅んで、その末端におれというニンゲンが立っているなら……。


「……お願いだ、動いてくれ」


 結界石の周囲に、無数の魔法陣が浮かび上がる。


 久遠は日誌と格闘しながら、ヘルベチカ文字で書かれた魔法陣に指を滑らせていった。

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