68 分析
16日の予約をすっぽかしておりました。
イレギュラーとして今日奇数日ですが投稿します。
以降、偶数日17時更新です。毎度毎度すみません。
「な……」
待ち構えるルニーを見つけたベイは驚いていた。想い人がそこに居た嬉しさもあるようだが、驚きのほうが勝っていた。
何故ここにいるのか。そのまま行けば圧倒的に有利だったはずなのに。
「勘違いしないで欲しいんだけど! か、可哀想だと思ったからよ!」
「はぁ!? 同情かよ!?」
二人が口論を始めると、生徒達は深くため息をついた。彼らの両片想いを知らぬメンバーはいないからである。
それは今会ったばかりのマルンとジースも同様。だがマルンはそれよりも別の所に興味があった。
「それにしても早かったね、ジースさん」
「あぁ、ちょっと滑ってきた」
「ちょっと難しい頼みがある」
ジースがそう言うと、イリンはごくりとつばを飲んだ。カズヒロの件もあってから、イリンの中ではこの護衛をしている冒険者達を見くびってはいけない、という気持ちが多々あるのだ。
そんな人間が「難しい頼み」というのだから、構えてしまうのも無理はない。
ジースが提案した内容はこうだった。草の生い茂る地面を凍らせて道を作る。そこを滑っていく。聞けば簡単なのだが……。
他の人間も氷系の魔法を使えるとは言え、一番負担が掛かるのは、氷魔法が得意なイリンだろう。三時間の穴を埋めるほどの長時間、魔法を発動していないといけないのだ。
ジースは彼の魔力量は知らない。だから「難しい頼み」なのだ。
「イリンだけに負担は掛けさせらんねぇよ」
「僕達も交互に魔法を使います」
ベイとタディが声を上げる。仲間思いのいいチームだ。“ボード”代わりになるのは、そのへんに生えている木で良いだろう。ジースがいい感じの長さにカットして後は乗るだけだ。
魔力量も問題だが、もっと重要なのは氷の道をしっかり滑れる運動神経があるか、であった。
だがそんな心配をよそに魔法だけではなく体を使った授業も教えていたのが幸いして、さほど支障にはならなかった。一時間は経過してしまったが、待っていた女子チームに合流完了したのだ。
「あの……、多分またチームVがなにかしてくると思うんです」
タディがつぶやいた。チームV。先日魔物の雄牛を三匹解き放った要注意チームだ。アヴィは無事チームに合流したのだろうか、と二人は思った。
闇魔法に特化したメンバーなため、陰湿なことも仕掛けてくるだろう。合流して人数が増えたこともある。より慎重に動かねばならなくなった。
とはいえこの2チームは最下位だ。そんなチームを更に蹴落とすような真似はしないだろう。
そう安心していた。
そんなジースとマルンの願いも早々に打ち砕かれた。闇の魔法で行く手を阻まれていたのだ。壁のような黒いモヤが辺り一帯に敷かれていて、恐らく横に移動しても入り口はないだろう。
この森はさほど狭い森でもないが、それの横一線をカバーできるほどの強さを持った魔法を扱えるのだ。相当な手練と言えよう。伊達に得意な人間が集まったチームではないということである。
「ど、どうすんのよ。うちに浄化魔法なんて、得意な子いないよ……?」
「……俺のところにもいない」
ウェサがあからさまに動揺する。今参加している生徒の中で浄化魔法――光系の魔法が得意なのは、第一位のキリアがいるチームQにのみだ。
女子チームは男子を待ってまで一緒のゴールを望んだのに、これではゴールどころではない。合格が危うくなってくる。
「案はあるっちゃあるが……」
口を開いたのはジースだった。彼の案はこうだ。
弓箭の生成できる矢である――陰陽の矢を打ち、一瞬だけ闇が晴れたスキにそこを通る。闇の壁はさほど厚くはない。だからこそ可能な戦法なのだが――
ジースが試しに一本撃ち込んだ。闇の壁は晴れて、向こう側が見えた――と思えば、一瞬で収束してまた壁へと戻る。この霧のようなモヤのような壁は、想像よりも修復力が高いらしい。
誰かが通るための隙間を生むには、常に矢を放ち当てている必要があるほどだ。
「……ジースさん」
「生徒八人もいれば前のチームに間に合うのも問題ないだろ。何かあったらカ――ログに頼れ。俺は魔法にゃ疎いから、ここにいなくたって問題はない」
「……」
「死ぬわけじゃないんだ。たかが学校の試験だろ」
マルンは酷く落ち込みながら「わかった……」と返事をした。まるで今生の別れのようだ。
ジースは弓を構えて生徒達を一瞥した。走る準備は出来ているようだ。生徒に当たらぬようモヤにだけ当てて、彼らを逃せばジースの仕事は終わる。
「……行くぞ」
*
先程パブリから入った通信によれば、パブリの担当するチームVが敵を減らすために後方2チームを切り離す魔法を展開したと言っていた。念の為精霊を送って様子を見たほうが良いかも知れない。
魔法に関してパブリから詳しい情報を聞かないと。
俺の担当する上位チームであるチームQは未だに一位を走っており、順調に行けば日没までには谷へと差し掛かるだろう。ここに来るまでに魔物という魔物に出会ってないのが少し引っ掛かるが、無事クリアできるに越したことはない。
だが今の問題は魔物ではない。キリア達も気付いているかもしれないが、後方から異常な速度で追い上げをしてきたチームがある。
チームO。アヴィが担当しているチームだ。しかもリーダーはキリアを敵視している少年だというのだから、警戒が必要だろう。
アヴィ曰く召喚魔法で魔物を従えて高速で移動したということらしい。内容を知っているということは、あれから無事に合流出来たのだろう。
『アヴィです。ご主人様のお姿を確認できました』
丁度いいタイミングでアヴィから通信が入る。アヴィから見えるということは、数百メートルから1キロ後方だろう。
まだ魔物を使役しているというから、追いつくのも時間の問題だ。俺達のチームは地道に走ったり歩いたりでここまで来たから、そのまま魔物で来られたら追い越されてしまうだろう。
「ちょっとキリア! 後ろにOがもう来てんよ!?」
「は? クソッ! あいつら召喚術とゴーレム生成が出来るからな……。油断してた」
リラがチームOのを発見したようだ。彼女らにも気付かれる距離まで来たのだろう。あの速度を考えると、日が暮れる頃には先生の元――ゴールまで行けそうだ。
何もなければ。