45 真実
「これはどういうことなのです?」
俺達は墓の外に居た。石畳の前にまで戻って来てはいた。
俺達は少女を縛り上げて逃げぬように囲っていた。もちろんこれから尋問が始まるからである。逃さぬ間に全て吐き出してもらわないとな。
「こっちのセリフだ。あの男と知り合いのようだが、知ってること全て話してもらおうか」
「は、話すのですよ、でも縛る必要――」
「大いにあります! カズヒロ様が治して下さったからいいですけど、王様は瀕死でしたし、マルンだって死にかけたんですよ!」
アヴィが声を大にしてぶつけた。怒りと世論だ。
あぁそうだ。そういえば死にかけていた国王だが、なんとか俺の知り得る魔法で蘇生させることが出来た。というかまだ死んではいなかった。
まぁもちろん脈はなかったが、対処するのが早かったから一命を取り留めたという感じだ。医療ドラマじゃないが、もう少し遅かったら本当に死んでいただろう。
軽い電撃を与えるなんて言った時にはマルンは怒り散らしたが、この世界には科学も医療も発展していないから当然の反応だろう。
だがまぁそれで死を回避出来たのだからよしとして欲しいところだ。
アヴィは叫び終えた後、休んでいるマルンと国王の元へと駆け寄った。マルンはもう大丈夫だと言うが、窒息死しかけたのだ。心配するのは当たり前だろう。
国王はまだ目覚めてはいないが、少なくとも生命活動に支障はないはずだ。
「……まぁいいのです。ゴホン、えーと改めまして、私はパブリ・カウスター。透明適性について探求している者なのです。まず聞きますが、貴方は適性が何色あるとお記憶されているのです?」
「そんなのこの世界じゃ常識だろ。赤、黄色、緑、水色、紫、白、それと茶色の八色だ」
「いいえ」
「――……」
「全部で九色です」
*
遥か昔、隠蔽された色の一つ。その色は誰もが適性があるとも言える。元ある色を変色させ、その色になるのだから。
方法は簡単だ。そしてそれ一つ。
人を殺して、禁術を用いた儀式を執り行い、永遠の命を得ること
そうしてなれる色は一つだ。黒。たとえ元が赤だろうが透明だろうが、全てその色に染まる。元に戻ることなどない。
今その色を知られていないのは、その術が封印されたことと、何よりも知っている人間達は死んでいったからだ。
そしてこのパブリも、黒の適性である。とは言いつつも、彼女の場合は特殊で透明に憧れるが故にそれになろうとした。
そうして調べていくうちに、とある青年と出会った。アクトである。
アクト――アクト・ラゴンズは、彼女にこの方法であれば透明になれると教えた。周りから馬鹿だ、やめておけと罵られた彼女にとって、親身になって聞いてくれるアクトは希望の光だった。
しかしながら現実は非情である。アクトの本来の目的は、彼女への親切心などではなく、この世界を破滅へと導くために作っている⦅漆黒会⦆のメンバー増やしでしかなかった。
漆黒会は黒適性のみで編成され、彼が選り好んだ人材だけを集めて作られている。彼に絶対服従を誓い、命をも差し出す覚悟のある者達を。
パブリが真実を知ったのは、儀式が終わってからであった。ステータスを見て絶望した。騙されたのだと悟った。
彼女は漆黒会への入会を断った。アクトは「残念だ」と笑うだけで、こちらに何もしてこない。
それもそうだ。何をしようと殺せない、不老不死なのだから。
しかし漆黒会に所属するメンバー達は皆口々にパブリを「異端者」「半端者」と呼んだ。せめてもの抵抗というか、虐めなんだろう。
初めはパブリも精神がやられていたが、数年、数十年と生きる年数を重ねていくうちに、次第にどうでもよくなった。
*
「――とまぁ、こういうわけなのです。彼は漆黒会のリーダーをしているのですよ」
「漆黒会ねえ……」
「パブリ、じゃあそいつらはあの男以外にもいるんだな?」
「はいなのです。彼が武器を集めている段階ではありますが、徐々にメンバーを収集し始めると思うのですよ」
パブリは漆黒会に所属していないため、正確な情報はわからない。だが王を殺しかけてまで奪おうとしたものがあるというのは、ここ数十年で見なかった珍しい事例だそうだ。
奴はこの世界を掌握せんと本格的に動き出しているのかもしれない。
「私について何もいわないのです?」
「何についてだ? 人を殺したことか? 俺だってこの前殺したし、ジースなんてそれを職にしてる」
口には出さないが、俺から命令されればアヴィは人を簡単に殺しそうだし。倫理観の欠如したこのメンバーの中では、パブリの存在は異常な知識量と不老不死を除けばなんら変哲もない。
「お……お願いなのです! 私も一緒に貴方について行きたいのです!」
「はぁ? って、うおっ」
パブリは縛り上げられたまま、地面に頭を擦り付けて頼み込んできた。あまりの潔さに俺は制止することもできず、ただそれを見ていた。
「もう何百年と分からない間の知識を提供する」だの「お願いです」だのなんだの、頭を上げずにずっと喋り続けている。
これは⦅透明に憧れていたから⦆とか、そう言った理由じゃなさそうだ。
「じゃあお前――パブリは、漆黒会の拠点はわかるか? 奪われた星の孤剣が欲しい」
「拠点は知りませんです。それに、アクトが奪って行ったのは⦅精神支配の剣⦆なのですよ?」
「なんだって?」
いや、その剣も名前を聞いた感じで既にヤバそうだが――勇者の遺物ではない?
俺が呆気に取られた顔をしていると、パブリが察したのか説明を始めた。
勇者の遺物は戦いの後、その勇者達の意見を尊重した場所に安置されることとなった。
例えば、アヴィの戦斧であれば、その持ち主が真面目で厳かだったことから、ああいった石造りの神殿を作るよう指示をしたという。
弓箭は本人が得意としていた隠蔽魔法をたっぷりと掛けたダンジョンへ。
恵の大盾は、財宝が好きだった勇者の希望で、彼の極上の宝と共に洞窟へ置かれた。
そして、星の孤剣は、本人と一緒にある。
――というか、まだ死んでいないそうだ。
何百年前、と聞いたがまだ生きているってどういうことだ! なんていう前に、パブリが答えを言った。
持ち主の勇者は、純血のエルフ。その寿命は数千年と生きる。今も彼が持っていて、剣が次の持ち主と決めた人間が現れるまで彼と共にあるのだ。
「詳しいんだな」
「えぇ、みなさんとお会いしたことがあるのですよ」
長く生きていればそれくらいあるのか。しかしそのエルフは今どこにいるんだ?
「持ち主は、このスイ国の島のうち、活火山のある島で温泉を――」
「え? 活火山なら、三年前に噴火して島民全員死亡で大問題になったじゃん」
遠くから話を聞いていたマルンが口を出した。アヴィ、ジース、そして俺が、パブリを睨みつけた。
あらら、と笑うパブリ。いや笑い事じゃないから。
…………振り出しに戻ったってわけか。




