46 半端者の魔術師
当面の目標はこの世界のどこかにある星の孤剣を見つけ出すことだ。マルンの話によればそんな大層な剣が見つかれば国中で騒ぎになるそうだ。だが発見されたという話はなく、誰かが盗んで移動している可能性が大いにある。
見つけるのは至難の技だが、なんとしても手に入れなくては。
それに、パブリが言うには勇者と厄災との戦争は話題になったようだ。戦争が終わり、勇者の剣は人気を博した。それを模した贋作が大量に作られ、世界に散りばめられているという。
精神支配の剣もその一つだ。それぞれが強大な力を持ってはいるものの、星の孤剣には及ばない偽物なのだ。
「どうなさいますか?」
アヴィが俺に尋ねる。この女・パブリをどうするか。仲間にするか、ここで殺すなりするかということだろう。
正直適性研究者という怪しい肩書きからして、信用しがたいが、彼女の持つ情報は欲しい。数百年生きた女が見てきた歴史と知識を得たい。
今後の冒険に関してもそうだが、個人的な探究心で気になるのだ。
「それよりも王様を城に返してやろうぜ?」
……すっかり忘れていた。まだ起きてはいないようだが、そろそろ精神支配も解けてきた頃だろう。リン姫も心配しているだろうし、とっとと城へ戻るか。
これでこの国に恩は売れたし、今後は安泰だろう。
「まだ起きれなさそうなら、私の魔法空間に入ってもらうといいのです」
「!」
そうだ、こいつの魔法。異常なほど正確な空間魔法。人間をも入れることができる管理能力。もしも入れるのであれば、俺も一度踏み入れてみたかった。
もちろん完全な探究心からくる思いである。
俺が頼むと、パブリは「もちろんなのです」と快く了承してくれた。アヴィ達は心配そうにしていたが、いざとなったらなんとかする。できるはず、だ。
空間へ入る覚悟を決めて、王様を抱えた。パブリはそれを見て魔法空間を開く。パブリに誘導され、渦巻き歪んだその中へ足を踏み入れると、別世界が広がっていた。
朗らかな陽気につつまれた、森の中。木々と草花に囲まれて、小鳥がさえずり蝶が舞う空間。そしてその中に一つの小屋があった。
俺の使う空間魔法はいわばブラックホールのようなもので、こんな完成された空間を生み出せない。これが長年生きている故にできる所業ということなのだろうか。
しかもさらに驚いたのが、この小屋、中に入ると全くの別物になる。中は大豪邸だった。何部屋あるのかと問いたいほどの大きさ。ホテルでも営む気か? と思わせるほどだ。
流石の空間魔法だけあって、好きなように次元を操作できるんだろう。
「私が思った通りに改変できるのです」
屋内に入ってすぐ、パブリは更に空間を弄った。すると、扉だけがその場に現れる。その扉を開けると出てきたのは、白く清潔な病室のような空間だ。
綺麗な整えられたシーツに、柔らかな日差しの入る窓。白いレースカーテンに覆われている。
「そこへ寝かせてなのです」
「あ、あぁ」
そっと王を横たわらせると、パブリが話を始めた。俺はそれを黙って聞いていた。
「私が誇れるのはこの空間だけなのです。長いこと生きているのに、ここから出れば杖なしにはまともに魔法を扱えない、魔術師としても半端者」
「それなりの魔力量はあるんだろ?」
黒適性の唯一のスキル、⦅改変⦆。不死故に持つその無尽蔵の体力値を、精神力もしくは魔力に振り分けることが出来る。もちろん相応の苦痛を伴うらしいが。
それならば、ある程度渡り合えるぐらいは魔法が使えるんじゃないのか。
「魔力があっても個人差があるのです! 合う合わないはどんなことにも適応されるのですよ!」
「え、す、すまん」
ここまで怒るとは思ってなかった。見た目の幼い子に割とガチめにキレられて軽くショックを受けた。
しかも聞いた話じゃこの空間に敵を連れ込んでも、無双できるわけではないらしい。なんとも世知辛い。
「それで、こんな私ですが……。仲間に入れてくださる話は前向きに考えてもらえるのです?」
「はあ、ここから出たらアヴィと奴隷契約を結べ」
「それが加入条件ならお安い御用なのです」
正直俺の奴隷にしてもいいんだが、ここまできたらもう管理はアヴィに任せたほうがいいだろう。苦労が増えるかもしれないが、別段何か命令をしているわけじゃないし勘弁して欲しいものだ。
魔法空間から出てパブリとアヴィには奴隷契約を交わしてもらった。
そのついでに気になったのは、パブリの武器だ。一応半端者の魔術師でも、魔術師である。彼女の主武器は魔法用の杖だ。しかもそれ、ちょっと金のある子供でも買えそうなボロっちい安いやつだ。
死なないし普段戦闘はしないとはいえ、俺のパーティに加わったからにはそんな雑魚装備は許さない。
「おい、その杖寄越せ」
パブリから杖を受け取ると、俺の魔法空間に手を突っ込んだ。熟練者に見られているのはやり辛いがまあいいだろう。
あぁ、これだ。ガーゴイルの魔石。取っておいてよかった。
パブリの杖に飾り付けられている宝石を毟り取り、そこへ魔石をはめ込んだ。まぁこれだけじゃぐらつくし、何より見た目が悪い。
物質変化魔法である程度形にして、パブリへ返した。
あまり強いガーゴイルではなかったが、傷もない綺麗な魔石だ。十分な火力が出るだろう。あのミジンコ程度にしか魔力が込められていない宝石よりかはマシだ。
「魔石ですか……。売ればお金になるのに取ってあるのです?」
「幾つか売ったよ。しばらくは生活に困らない程度には金がある」
「失礼したのです。それはそうと、ありがとうなのです」
「この先こき使うからな。頼んだぞ」
「わかったのです!」




