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43 分かれ道

「嘘だろ……」


 早速裏切られた気分だ。街の人間は道なりに、と言っていたが俺達が行く先には分かれ道が存在した。全く何が道なりだ。

どっちかはほぼ使われていないから、街の人間の頭の中から抜け落ちていたかのもしれない。どっちに行っても到達するなんて簡単な話じゃなさそうだし、こんなところでつまずくとは……。

これは戻って街で再度聞くしかないのか、と思った矢先。


「右に行くと湖があるらしいですよ」


 アヴィが道を指差してそう言った。いや、どこから情報を仕入れたんだよ。という目線が、ジースとマルンの二人から飛ぶ。

アヴィはハッとして説明を始めた。もちろん俺の予想通り、動物たちから今仕入れた情報だ。アヴィの動物と会話できる能力は、やはりどこでも役に立つな。

ここが現代じゃないから余計に。


「う、うそだよ!!」


 わなわなと震えながら、マルンが叫んだ。それを見たアヴィがため息をつきながら「本当ですよ」と言う。だがマルンは頑なに信じようとしない。そこまで嫌っているか。


「じゃあ見ていてくださいね?」


 そう言ってアヴィが左手を広げると、木にいた小鳥たちが一気に集まって腕にとまった。それだけではなく、草むらから小動物や猪鹿がぞろぞろと出てきて、アヴィのそばへと集まった。

マルンはそれを見て口をアホみたいに開けたままだ。

アヴィがお辞儀をすると、動物たちもそれに合わせて首を下げたりと動いていく。


「道を教えてくれたのはこの鳥達です。みんなありがとうございます、戻ってもらって構いませんよ」


 アヴィの言葉を聞くと、動物達はまた林の中へ戻っていった。マルンは言葉を発することはない。驚いたままだ。


「早くいきましょう、時間がな――」

「すごい! おばさ――アヴィちゃん!」


 いきなり動き出したかと思えば、マルンはアヴィに抱きついて強くホールドし始める。謎の手のひら返しぶりに、他の俺を含めた三人は驚いた。

年頃の女の子というものは、本当にわからないな。


 *


 徒歩ではやはり距離があるようで、墓へ辿り着く前に夜が訪れた。街に近い場所に王家の墓なんて作ってられないだろうから仕方がない。

 手頃な空き地を見つけた俺達は、致し方なく野宿をすることにした。簡易的なキャンプセットを、あらかじめ物質変化魔法で作っておいてよかった。

とりあえず俺たちのいる一帯に隠蔽魔法を掛けて、奇襲を避けるように配慮した。

俺は眠る三人をよそに、焚き火の番をしていた。


 ……それにしても、短い間にもう遺物がこんなに手に入った。それに、俺の為に人生を無駄にしている三人の仲間も。

アヴィはどこまでもついていくだなんて言っているが、本当にいいのだろうか。あの優しい獣人は無理をしていないだろうか。

もしも次の場所で手に入る剣に俺が選ばれたとしたら、その時は彼らと別れよう。俺が一人でティアフォールドに突っ込んでいけばいい。


 ここまでついてきてもらったけど、そうする他ない。師匠の時も心が晴れてきたピークでドン底に落とされた。また失うくらいなら、最初から無い方がいい。


「カズヒロ様」


 ぼんやりとしていた頭が一気に現実に戻される。横を向けばアヴィが心配そうに俺を見ていた。どうやら起きてしまったみたいだ。

えぇと、こういう時はホットミルクとかでも用意すれば――


「代わりましょうか?」

「問題ない、寝ていろ。明日はまた歩く」

「カズヒロ様も歩くんですよ。ここは寝ないと……」


 ……正論だ。だが俺より遥かに若い少女を火の番でおこしておくわけにもいかない。万が一奇襲された際に、対応出来るかと言えばNOだ。

アヴィは俺の横へ座ると、持っていたブランケットを肩に掛けてくれた。どうしても寝かせたいようだ。


「……悪かったな。」

「なにがです?」

「その、色々と押しつけただろ」

「そんなこと……。いいんですよ」


 アヴィは言った。この命はカズヒロ様に助けて貰ったもの。だから俺に捧げると決めている。例えそれが火山に飛び込めという命令だろうと、笑って受け入れると。

正直重たいが、それくらい信用してくれているということだろう。俺にはもったいない。ありがたいことだ。


「よう、代わるぜ」


 話をしていると、ジースが起きてきたようだ。まぁジースであれば奇襲した際に何とかなるだろう……。

ここはジースに任せて、俺も寝させてもらおうか。


 *


 翌日、昼――

俺達はようやく墓に辿り着いた。国最大の湖、と言われるだけあってまるで海だ。初めて琵琶湖を見た時みたいな気持ちになる。

 そんな湖に石造りの大きな建造物が一つ。王家の墓だ。そこまで到達するには少し浸水したこの石畳の上を歩いていくことになる。

湖は青く透き通り、まるでその水浸しの石畳は水の上を歩いているかのように錯覚させる。

 普段であればこの石畳も人が賑わっているのだろうな。四車線の道路くらいな結構な広さがあり、それだけ広く作らないといけないほど人の量があるのだろう。


 だがこの空間には周りにある林の揺らめく音、風の音。そして水音が響くだけだ。人の声などしない。

話を聞かない観光客の一人や二人、いてもいいかとは思ったが、やはり最寄りの街で足止めを食らうのだろう。徒歩で来るほど熱心な客もいるわけではないし。


「誰かいます」


 また人を捕捉したのはもちろんアヴィだ。俺達も人間だとは認識できるが、やはり数百メートルの距離では形程度しか認識できない。

 歩みを進めていけば、墓の入り口で立ち往生している一人の少女が居た。

140センチとない小さな体に似つかわしくない大きなリュックサック。手にはこれまた大きく見える通常サイズの魔法用の杖を持っている。

少女というよりは幼女に近いその女は、俺達の方を見ながら口を開いた。


「あら、冒険者さんなのですか? 今、お墓は閉鎖中ですって。久々に観光に来たのに残念です」


 声こそ幼かったが、その声で発せられた言葉の内容は幼さを感じられなかった。

 だが今はそんなことどうでもいい。今の問題は閉鎖されているこの中にどう入るか。入り口にはこの世界の文字で「現在閉鎖中」と書かれている。

入り口には魔法で鍵がしてある。……が、まあこの程度なら解錠可能だな。


「閉まってるなんてこと知ってる」


 俺が手をかざすと五つほどの魔法陣がいっせいに浮かんだ。普通の旅行者ならばこの魔法は解けまいと踏んで掛けたのだろうが、俺にかかれば容易なことだ。

物理的なスリやピッキングなどの技術はジースの足元にすら及ばないが、魔法なら別だ。


「あらら……」


 魔法陣は砂のように崩れ落ち、そして扉がギィと開いた。俺が進むとアヴィ、ジース、マルンと当然のように中へと侵入していく。

そして少女(こちら)も当然のように俺について来た。


「……何故ついてくる?」

「面白そうなので!」


 にっこりと微笑む少女に少し苛立ちを覚えた。それを察知したのか、アヴィが腰の戦斧に手を掛けている。心配するな、と目線で訴えると警戒を解かぬまま、戦斧から手を離した。


「悪いが帰ってくれ」

「どうしてです?」

「お前は子供のようだし、それに――」

「それに? あなたが()()()()()()()()?」

執筆……趣味用にタブレットを新たに購入しました。

Winタブです……。

もう……これは仕方ない癖なのです……。

あ、もう片方の筆がいい感じに乗っているので、もしかするとしばらくお休みするかもしれません。あしからず。

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