42 理由
「あぁそれなら、街の裏道を道なりにいけばある湖だな」
宿のフロントでふと聞いたら、サラッと結論に辿り着いた。
どうやらここは湖の最寄りの街なようで、普段なら観光客で賑わっているらしい。昼間は墓へ向かう直通の馬車も出ていたとのことだ。
しかし最近になって、国から御触れが回ったようで、観光客は激減。街の活気は減り、宿はキャンセル続きで困っているようだ。
「御触れの内容は?」
横で金勘定をしていたジースが割って入る。フロントに肘をついて店主を威嚇するものだから、またもアヴィに叱られている。
「単純さ、墓に近寄るな。全く商売あがったりだよ」
これはいよいよ怪しくなってきた。理由も述べずに立入禁止の御触れを出すだなんて、何か大事なものを守りたいようだ。
――例えば、勇者の遺物とか。
勇者の遺物に魅入られた王が、観光客に奪われると変な妄想を起こして発表した。剣が王気を狂わせたと言う話を信じるのであれば筋が通る。
「あー! なんでオバサンと王子様は一緒のお部屋に入ろうとしてるんですかぁ!?」
「そーだぞカズヒロォ、フツーに考えて男男・女女だろーが」
ジースと合流してからだいぶ経つのに、ふたり旅の気が抜けていなかった。アヴィ以外をまだ信用していなかったからなぁ。未だにジースには寝首をかかれるのではと心配だし。
ていうかアヴィも言えよ。俺が恥をかいただけじゃないか。
「ボーッとしていた。アヴィはマルンと寝てくれ」
「……………………わかりました」
すごい溜めたな? そんなにマルンが嫌いか……。一応仲間になったんだから、もう少し仲良くして欲しいものだが。
女の子同士のギスギスは怖くて俺にはきつい。
翌朝――
湖に向かうには格好の天気。晴天である。ここからの道のりは馬車がないため徒歩になる。それであればもちろん晴れに越したことはない。
「晴れてよかったね! 王子様♡」
宿を出てすぐ、マルンが俺の腕にしがみついてくる。ジースは楽しそうににやつているし、アヴィからはものすごい負のオーラが滲み出ている。
にしても王子様っていうのはやめてもらえないか。世間知らずそうだし、本名を教えても問題はないだろうか。
「おい、その王子様っていうのはやめろ」
「えー! だってマルン、王子の名前知らないもん」
「はぁ、カズヒロだ」
そのまま本名を伝えると、「ちょ」だとか「え……」と言った声がアヴィとジースから飛んでくる。
そしてすぐにジースが俺に近づいてきて、マルンと俺を強引に引き離した。そのジースの顔はひどく怒っているように見えた。
俺を引っ張って、マルンには声の届かない場所まで連れてくる。そうして耳打ちをしながら、怒りをぶつけた。
「おい! ペラペラ本名教えていいのかよ!」
「どうせ分からないだろ……」
「お前なぁ!?」
どちらにせよ奴隷契約を結んだうえに、俺の復讐が完遂するまでは手放す気はない。逃げようものなら洗脳してでも俺の下にいてもらう。
マルンの力は未知数だが、彼女の持つ盾は今後必ず必要だ。
そのためにも、俺に不都合のあるように動くのであれば、なんとかする。
それになんと言っても、マルンは俺に心酔しているように見える。なのであれば、裏切る寝返るそんなことを心配するのは杞憂だろう。
「じゃあさ、カーくんは」
「カーくん!?!?!?!」
「オバサンうるさーい!」
また喧嘩が始まった。さっきまで俺に怒っていたジースはひたすらそれを見て笑っているし、無法地帯か。俺はため息をつきながら、「なんだ」とマルンに聞いた。
アヴィがまだ抗議をしたそうにしていたが、頭をポンポンと撫でてそれを制止する。
「気にしたら負けだぞ」と小声で話したが、アヴィはまだまだ悔しいようだった。
「それで?」
「えっとね、カーくんはなんで剣がほしーの?」
その発言に俺達は一気にシンとした雰囲気になった。アヴィも真顔になったし、ジースもだ。話していなかった俺達が悪いが、巻き込んでしまったただの町娘には、俺の復讐は重すぎる。
今のうちにでも言っておいた方がいいんだろう。
「……悪かった」
「なんで謝るの? マルンが何でもするって言ったんだよ」
「……」
純粋で真っ直ぐな瞳に見つめられる。彼女がまだ幼く世界を知らないことを表している。きっと裏切りだとかそんなことは経験したことがないんだろう。
あったところで、遊ぶ約束を友達がすっぽかしたとか、そんな可愛い範疇なんだ。
一気におふざけムードから暗い雰囲気へと変わった俺達。そんな中で俺は、マルンに言わねばならなかった目的を話し始めた。
「これは俺の復讐の旅だ。アヴィもジースも、この先の過酷さに同意して付いてきている」
「ふくしゅう……」
俺はポツポツと話し出す。マルンは珍しく、言葉を遮ることなく最後まで真剣に聞いていた。
俺はそれだけではなく、アヴィやジースに起こったことも話をした。彼らは少し驚いていたが、今までのマルンのふざけた言動を見兼ねての発言だ。
もう少し二人に興味を持ってもらう。彼らにも事情があること。一番知ってほしかったのは、彼女が一番馬鹿にしているアヴィのことだ。
今まで家族に包まれて何不自由なく暮らしてきただろうマルンとは、真逆の生活を送ってきた。それは俺と同じだ。だから余計知って欲しいという気持ちがつよかった。
いわばただのエゴだ。
「……と、いうわけだ。俺はお前を利用したに過ぎない」
最後に残酷な事実を添えて。いつまでも俺はマルンの理想の王子ではないことを理解して貰いたかった。
マルンはいつになく真面目な顔で何かを考えていた。
「カズヒロ様、いいのですか?」
「この子はまだ小さい。ついて来られないなら、ここで置いていく他ない」
洗脳なんて豪語したが、最悪彼女には盾を死守してもらい、旅には同行しないでもらえれば良い。盾以外を集めれば、国を攻めるのは難なくできるだろう。……多分。
「決めた!」
マルンが満面の笑みを向けて叫んだ。両手を固く握りしめて、まるでぶりっ子ポーズのように。
彼女の決断がどうであれ、俺達はそれに従うだけだ。
「マルンね、カーくんについてくよ!」
「おい?」
「王子様を助けるお姫様がいたって、ヘンじゃないと思うの!」
「……好きにしろ」
本当に変なやつだ。何だか面白くなってきた。
……なんて喜んでいると、表情の曇ったままのジースがやってきた。
「お話中のところすまんが、悪い知らせだ」
先日はおやすみを頂いておりました。
今更ながら一人称視点やめとけばよかったななんて思いながら書いております。




