第83話 ドクター
その後翔太達はヤーデを先頭にゆっくりと地下に続く階段を降りた。
ちなみに若干四名の頭の上にはタンコブができている。その四人はヤーデから少し離れた所でコソコソと彼女に聞こえないように話し始めた。
「イッテェ…。アレ本気でしたよ、僕タンコブ出来ましたもん…」
「何で……私まで…」
「彼女の本気はこんなもんじゃないですよコクヨウ。彼女が本気でやると地面にメリ込みます」
「そういやザクロはん、一回そんなことあったなぁ」
「どんな怪力してるんですか!?だから浮いた話がないんですよ…」
「どうやらもう一発欲しいようだなァ?コクヨウ」
「げっ…!?ヒスイさん…先に行ったんじゃ…」
「あまりにも遅くてクロの魔法が届かないから待っていたんっだッ!」
固まって歩いていた為に前を見ていなかった翔太達。そのせいで彼女が止まって待っているのも気づかずそのまま話を聞かれてしまった。この後翔太の頭にもう一つタンコブができたのは言うまでもないだろう。
「自分で言うのも何ですけど、ホント緊張感ないですよね僕たち」
「このくらいが丁度いいだろう、ビクビク怯えていたら其れこそ相手の好きにしてくださいと言っているようなものだしな」
「…そう…。堂々…且つ……大胆…が……大事…ッ!」
「モモ…ガッツポーズして意気込むんはええけど、それどっちも似たような意味やで…。
にしてもホンマ気ぃ抜けそうやわ」
「此処で気を抜かれるのは困ります。この扉の向こうでもう一戦待ち構えてるんですから。
抜けないように栓でもしといて下さい。というかそろそろ開けませんこの扉?」
「そうだな、じゃあ決めた通り“成り行き任せ”で!」
翔太の第二タンコブから数分、彼らは地下への階段を降り終え扉の前で談笑していた。
談笑といったが別段面白い話をしていたわけでは無い。これまでの戦闘によるキズの確認、今後の戦闘態勢を決めていた。
その結果が“成り行き任せ”である。
“コンッコンッ”
「失礼しましーーー」
ヤーデはわざわざノックし開け
「誰だね?此処は今使用中だよ」
「ーーーましたッ!」
閉めた。
「いやいやいや!なんで閉めたん!?」
「何をいってるクロ!“扉・ノック・使用中”といったらお手洗いのことだろう。きっと此処はお手洗いなのだ、どこかで道を間違えたらしい…」
「一本道ィィィィ!!この階段此処にしか繋がってへんわァァァアア!それにこんな地下にトイレがあってたまるかいな!
ええから早よ開けぇえやァァァァァァ!」
ヴァイスのツッコミが部屋中に木霊するのだった。
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「いやはや、素晴らしいツッコミをするね君は。
そうそうノックの回数は大事だ。二回がトイレ、三回が親しい人、そして四回が初対面の人と会う時だよ。一般常識だから覚えておくようにね」
「じゃかあしいわ、そんなんどうでもええねん。それよか、あんさんが今回の黒幕かいな?」
「あぁそうだよ。僕はシェルト=グランツェ。みんなからは親しみを込めて“ドクター”と呼ばれているよ。でもまぁ君たちが来たということは彼らは死んだかな?」
翔太達が入った部屋には大きな手術台が二つそして奥に扉が一つ。決して大きくは無い部屋だ。
そして手術台に足を組み座る一人の男性。彼が今名乗ったシェルト=グランツェである。
金色の短い髪に碧色の瞳。髪はオールバックにしている。服装、普通の私服にドクターコートという不釣合いな組み合わせをしていた。
この世界にいそうな見た目だ。ヤーデ達はそう思ったが、明らかにこの世界無いものを身に付けていた。
ドクターコートもそうだが、彼の目の前にあるもの。翔太だけが何か分かるもの。メガネをしていた。
みんながメガネを警戒するなか、翔太は少しでも情報を得ようと行動する。
「えぇ、とっても“手アツイ”歓迎でしたよ。
それで、ドクターさんの目的は?」
「そうか君はクーパーと闘ったのか。彼はいい奴だった、特に…
頭の中を好きなだけ弄らせてくれる所とか、ね。なんせ弄っても戻るんだよ!スライムの細胞を持ってるからね!いやぁ彼のおかげで僕の技術が進歩したと言っても過言じゃない」
シェルトは手を高らかとあげ喋り出した。
狂ってる。それを聞いていたヤーデ達は皆同じことを思う。
「あ、僕の目的だったね。誰とは言えないが頼まれたんだよ、この国が魔王と結託して世界を破滅に追い込もうとしてる。
だからから助けてくれ。なんでもしていいからってね」
「ッ!?マジですか、そっちですかぁ…。もう動き出しやがったんですね…。てっきり何処かの国が勇者召喚でもしたのかと思ってたんですが」
シェルトの言ってる意味がわかった翔太のみ頭を抱える。
「どういう事だコクヨウ。お前の口調もだが、召喚されたんじゃないのか?奴は何なんだ?」
「ドクターさん、貴方いつ頃“死にました”?」
死んだ?今目の前に生きているじゃないか?
ヤーデ達は翔太が何を言ってるのかさっぱりだった。しかしシェルトは違う、驚き目を見開いている。
「なぜ…」
シェルトが発したその二言と表情だけでヤーデ達は察する。この前に座っている男は一度死んでると。
「言い方を変えましょうか、誰に“転生”させて貰ったんです?」
「………君、まさか」
「僕のことは今はいいです、会話のキャッチボールをしましょうよ。今聞いてるのは誰に転生して貰って、誰に頼まれたか。
貴方が“何処に”じゃなく“誰に”と答えた時点で国じゃないのは分かります。そして“いつ死んだか”と聞いた時、貴方は表情を変えた。つまり貴方は転生者。
あぁ、言っちゃうと“死にました?”までは僕の演技です。推測で話してました。
まぁそこはどうでもいいか…つまる所そんな生死を超越したことを出来るのは誰なのか?
それを聞いてるんですよ」
「………ッ!」
翔太はニヤリと笑う。
逆にシェルトはヘラヘラとした表情から一変、掌の上で転がされたことに気づきグニャリと歪む。
「よく分からんが詳しいことは捕まえてからでも遅くないだろうッ!
よくも私たちをハブったなッ!」
「えええぇぇぇえ!?八つ当たりィィィィ!?」
「「「「死ねぇ!」」」」
「殺しちゃダメだからねェェェ!?」
ヤーデは一瞬で手術台の上に移動し両手のダガーで切り裂こうとし、同時に左側ではグラナートがシェルトの横で拳を構え、右側はローザが空間を繋ぎ魔光銃を突きつけ、ヴァイスは翔太の後ろで様々な属性の魔法の準備をしていた。
そして全員同時攻撃。部屋の中が煙で覆われる。
「「「「ふぅ、スッキリ!!」」」」
「アホかァァァァァァアアアアア!」
いつの間か戻ってきたヤーデ達は、一仕事終えたような爽快感に得ていた。
《何とか間に合いましたわ》
「!?何だ、頭の中に声が」
「落ち着いてくださいヒスイさん、皆さんも。
ただの負け犬です」
《負け犬とは失礼ですね。
大丈夫ですかシェルト=グランツェ》
煙が晴れた先は透明なカーテンが覆ってる無傷なシェルトの姿だった。
「助かりました“女神様”」
女神様ーシェルトがそういうと彼の横で目も当てられぬほどの光が瞬く。
翔太達は咄嗟に目を覆い隠した。そして光が止み次に目を開けた時には白い絹を纏った金髪金眼の美女がそこにはいた。
ヤーデ達が初めて女神を見た瞬間だった。




