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戦えない落ちこぼれは知力で成り上がる  作者: 加藤 成
第3章 生きる傀儡篇
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第80話 VSケリー&メイヨー

時は同じく、子供達の寝室を調べていたヤーデとヴァイス。しかしグラナートと同様、犯人の姿は愚かめぼしい情報一つ無い。

そんな彼女ら今、左右にある一番奥の寝室を調べ終えた所だった。



「こっちは何も収穫ナシや。ヒスイはんの方は?」



「こちらも同じだ。そしてこれが最後…」



ヤーデとヴァイスが見る先には廊下の最奥、突き当たりにある未だ調べていない扉。ここは今までの一枚扉の引き戸と違い、二枚扉…所謂、観音扉というやつだ。



「寝室……では無いやろな」



「おそらくな。だが、入ってみないことには分からん」



ヤーデが観音扉の取っ手に手をかける。そして開けた。



「これは…………体育館か?」



広々とした空間。床はフローリングになっており、所々剥がれてはいるがコートラインがある。大きな窓ガラスは無く、有るのは壁の下の方にある小さな小窓のみ。



此処には居ない。



一歩踏み入れた瞬間、二人はそう確信する。

理由はただ一つ、空気が汚すぎる。此処数年換気をしていなかったのだろう、埃っぽく少しカビ臭い。正直人が住める様な場所では無かった。



人は居ないが訪れるかどうかはまた別。



「だから言ったのだ、我は此処が嫌だと。何故我がこんな汚いところに来なければならんのだ、しかも貴様なんぞと共に!」



聞き覚えのない声。場所はおそらく体育館の奥にポツンっとある扉から。非常用ドアだろうか。

予想は当たり独りでに扉が開いた。



「クヒッ、僕だって不本意さ。けどドクターの命令だからね、従わないわけにはいかないよ。クヒヒヒッ」



「貴様にそんなこと言われんでも、わかっておるわ!………ん?」



「さすがドクター、ぴったりだね。クヒッ」



非常用ドアから姿を現したのは一組の男女。

この場に不釣り合いな黒のパーティードレスを纏った我が強そうな女性は、黄色を主に毛先だけが黒色をした長い髪。鋭い瞳は左右で色が違い左が青色、右が赤色となっている。

かたや独特の笑い方をする少年は、ローブを頭から足首まで隠す様に被っている為よく見えないが、チラリと見えた瞳は暗い紫色をしていた。何より気になるのが手で大事そうに抱えているクマの人形。



「そうか、貴様等がドクターに仇なすものか。死ね」



彼女がその場から消えた。比喩では無く文字通り消えたのだ。少なくともヴァイスの目にはそう映った。

こんなこと出来るのはローザくらいしか知らない。彼女と同じ系統の魔法なのか?

そんな一瞬とも言える思考に終止符をうったのは、一つの甲高い音。



振り返ると、ヒスイのダガーと我の強そうな女性の長すぎる爪がつば競合いになっていた。



「ほう、この暗闇で我が見えたのか」



「ナメクジより遅く見えたぞ?

ヴァイス、お前はあのローブの少年の方を任せる」



「…了解や」



ヴァイスは上部では冷静を装っているものの、内心すごく焦っていた。

ヤーデは『遅く見えた』と言った。という事は、奴はただ移動しただけという事だ。それも消えるほどの速さで。



「相変わらず速いね。速すぎてキモいくらい。そっちの人もそう思うでしょ?クヒヒッ」



彼女が速いと感じるのは自分だけではないと分かり少しホッとするヴァイス。



「せやなぁ。正直全く見えんかったわ」



「普通はそうだよ。ま、でもケリーの速さについていってる彼もキモいけどね。クヒッ」



どうやらヤーデと戦っている女性はケリーというらしい。

チラリと後ろを見ると、二人の姿は目で追えない程の速さで斬り合っていた。改めてヤーデに任せ良かったと思う。

さて、訂正しようか迷ったが、ヤーデには今しがた助けられた恩がある。仇で返すなんていう恩知らずにはなりたくない。ここは彼女のメンツの為にも訂正するとしよう。



「あー、言いにくいんやがな…。『彼』やのうて『彼女』やで」



「………。お兄さん嘘をつくならもう少しまともな嘘をついたら?だってーーー無いじゃん、何がとは言わないけど。クヒッ」



「それでも女なんや…」



メイヨーは、もう一度しっかりヤーデを見ようと其方に顔を向けたが、やはり目で追えないだろう、すぐ視線をヴァイスに戻す。

するとメイヨーの横にケリーが戻ってきた。ヴァイスの横にもヤーデがいつの間にか居る。お互い所々切り傷は有るものの致命傷は無いようだ。



「メイヨー、貴様いつまでそうしておるつもりだ?」



「今からヤろうと思ってたんだよ煩いな。

ってなわけで死んでねお兄さん。クヒヒッ光属性上級魔法『ツインライトレーザー』」



光属性の二本の極太のレーザーがヴァイスを襲う。

しかしなるほど、この子は魔法か。なら問題はない。

ヴァイスは焦る事はなかった。



「魔法で安心したわ。ただのう、魔法が得意なんはジブンだけや思うたらーーー」



太い二本のレーザーがヴァイスに当たる直前、左右に曲がった。



「ーーー大間違いやで」



水属性の壁を張り向きを変えたのだ。



「!?…そっか、入り口にかけといた僕の魔法を破ったのはお兄さんだね。クヒヒヒ」



「せやで、まぁ見破ったんは別のやつやけどな」



「そうなんだぁ。じゃあ本気で戦っても問題いないね。クヒっ水属性中級魔法『迷鏡止水メイキョウシスイ』」



ヴァイスを中心に半径5メートルの周囲に水で出来た鏡が十枚現れる。向きは全てバラバラだ。



何のつもりや?『迷鏡止水』は相手も攻撃を無効化する魔法。

こんなに無差別に出しても魔力の無駄遣いやないか…。



「何の為にって顔だね、クヒッ。それはね、こうするためさッ!クヒヒヒッ。光属性属性中級魔法『光針十刺コウセントシ』」



メイヨーの背後に十ほどの光の針が出てきた。



「“派生”ーーー『光槍百貫』ッ!行け!クヒヒヒ!」



光の針が百はあるのではないか、という程の槍へと変化した。



ここでヴァイスはやっと気付いた。鏡の意味を。



「クヒヒヒッ!躱せるかなぁ?この“反射”してる光槍の檻からさァ!早く何とかしないと…」



「うぐっ!」



「穴だらけになっちゃうよぉ。クヒッヒャヒャヒァ!」



ヴァイスの周囲にある水の鏡に反射するように光の槍が不規則に変化している。

その一つがヴァイスの肩に刺さった。ヴァイスは呻き声を上げその場に片膝をつく。



「ほぉらほら、膝ついてる暇なんて無いよ!クヒッ!」



「アイヤアアアァァァァア!」



ヴァイスの視界が光へと包まれた。



ーーーーーーーー



「死んだな、貴様の仲間は」



「叫びがどう聞いてもギャグじゃないか」



ヤーデとケリーは斬り合いながらの会話とは思えない、コミカルな会話を繰り広げていた。



「それにしても驚きだ。本気では無いにしろ、この我の速さについて来れるとはな」



「ナメクジがイモムシの変わったくらいで何の変化があるんだ」



「ふんっ、へれず口が。『矛爪ムソウ・三の型。華火ハナビ



ケリーは一度ヤーデから距離を取り、両手の親指と小指のみ合わせ器のような形を作る。

そのまま突撃。更にそこに回転を加える。

ヤーデはそれを正面から迎え撃つ。

ヤーデのダガーとケリーの爪がぶつかる。何のても加えずただ受けるのみのヤーデと、手を花のようにし回転を加えたケリーの突貫。いうまでもなくヤーデが力負けをする。ケリーはニヤリと笑うが、ヤーデは押されるとわかると体を捻り攻撃を受け流した。



「チッ、上手く躱したな。だが、あまいな」



ヤーデの脇腹には深めのキズが見られる。他にも顔や腕にも無数のキズができていた。



「ッ!流しきれなかったか…」



「貴様が我の速さについてこれない証拠だ。ふむ、メイヨーの方ももう直ぐカタがつくようだ。このまま我に斬り刻まれろッ!『矛爪』二の型。双爪飛燕(ソウソウヒエン)



右手の五爪、左手の五爪…計十爪の斬撃がヤーデに飛来する。



「…なるほど、凄まじい数の斬撃だな。これは捌き切れん」



「そのまま死ぬがいいッ!」



「つくづくコクヨウには感謝してばかりだ…。

クロッ!私を助けてくれッ!!」



「任せぇや、お姫様!土属性上級魔法『土堤壁(ドテイヘキ)』派生ーーー『岩堤山(ガンテイザン)



光の槍により姿は見えなかったが、ヤーデはヴァイスが生きていることを確信していた。

だからこそ助けを求めた。自分では出来ないこと。



ヤーデの考えた通りヴァイスは、彼女の頼みをしっかりと聞き入れ果たす。ケリーの十爪はクロの防御魔法を突破することはできず、半分ほど抉り霧散した。



「な、何で生きてるのかな?クヒヒヒ」



「今、ワイの周りでおきとる事をそのまましただけや。

お、お姫様おかえり」



「その呼び方止めてくれないか、姫なんて柄じゃない。

それよりクロ、相手はどうやって凌いだかまだ分かってないみたいだぞ?いいか少年、こいつは少年と同じように迷………やっぱり後の説明は頼んだ」



「なんでそこまで言ったんやったら最後まで言わんのや。つまりや、ワイは自分の周りに『迷鏡止水』を張って反射させ、他の光の槍にぶつけてたんや」



「そんな事ーーー」



「おい、メイヨー。貴様が相手を殺し損ねたせいで邪魔されたではないか」



「ーーーッ!?それについては謝るよ。クヒッ

でもこれで終わりだ。光属性初級魔法『サンライト』水属性上級魔法『迷鏡止水』」



メイヨーのサンライトにより体育館全体が明るくなり、上空に浮くサンライト少し下には直径二十センチ程の迷鏡止水が無数に浮いていた。



「混合上級魔法ォ!『ラァス オブ ゴッド』ォォォオオ!クヒヒッ!」



光を吸収した水の鏡がそのままレーザーとなる。それが全て雨のようにヴァイスに降り注ぐ。



「ほう、貴様もやれば出来るではないか。だが、少し暑いな。サンライトのせいか?

まぁいい、我も終わりにしよう。『矛爪』終の型。滅爪!」



爪の突き。しかし一つだけではない。ヤーデの周囲に全てからの攻撃。もはや逃げることも防ぐことも間に合わない。

そして攻撃が着弾した。土煙りが舞う。



初めに違和感を感じたのはケリーだ。

手応えが無い?

離れた場所から見ていたメイヨーは気づくのに遅れた

土煙りが晴れると二人はいない。



どこだ?

辺りを探すケリーの胸から二本のダガーが生えた。



「なっ!?ゴフッ…。どうやって…」



ケリーは目だけメイヨーの方に向けると、彼は心臓部に風穴が空いていた。

あれはもう助からない。



「蜃気楼や。あんさんのお仲間がサンライトを付こうてくれたさかい、咄嗟に風と火属性の魔法で空気中の密度を弄り蜃気楼を見せた」



「土煙りが起きたところで私の影魔法で移動。そしてこうなるという訳だ」



「ま、だ…奥の手を……もって…おったと…は………」



ヤーデは息を引き取った、ケリーの胸に刺さっているダガーをゆっくり抜く。



「ふぅ…ちょっと休憩だな」



「賛成や…」



二人はその場に座り込む。

休憩中、さきほどの戦いの中ヴァイスが大きな声で魔法名を叫んでい事をヤーデにいじられたが、それはまた別の話。

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