第79話 vsペアン
時は少し遡り、翔太とローザがクーパーと会う前こと。
ーーー受付け兼警備室
まず目に入るのは大きな窓ガラス。そこからは先ほども見た十字架が見えている。
おそらく中庭で遊ぶ子供達を見守るためだろう。
中はそこまで広くはなく十畳と少しといった感じだ。
場所が場所だからだろうか、物も少なく小さい一人用の机が一つと数脚のイス。あとはロッカーが数個ある程度だ。
「…そろそろ出て来てはいかがですか?」
部屋ある程度探した。あと探索してないのはロッカーのみ。理由は至極単純、殺気がするから。
グラナートが目を向けるは壁に複数列ぶロッカーの中でも一番奥。
「………気配は消してたはずなんですが、まさかバレるなんて…。貴方、殺しますよ?」
ロッカーから出て来た姿を現したのは、腰まである灰色の髪と、少しつり上がった瞳は髪と同じ灰色。服装は何故かメイド服の女性。メディカルシーザーズの一人である“ペアン”。
「いきなり物騒ですね…。
色々と聞きたいことはありますが、先に答えておくと気配を消してもさっき出してちゃ意味ないですよ」
「なんですか、私に助言ですか?殺しますよ?」
「聞きたそうでしたので。あ、俺はザクロです。貴女は?」
「教えてませんよ、今度はナンパですか?殺しますよ?
いえ、殺します」
五メートル離れていた二人の距離をペアンは一歩でグラナートの懐に入り顔を殴る。グラナートはすんでの所で顔を傾け躱す。
「ッ!?」
頬に鋭い痛みが走る。
即座に彼女から距離を取り、頬を触る。そこには完璧に躱した頬から微かに血が流れていた。グラナートは「どういうことだ」というような表情がを彼女に向ける。
「そんな顔向けても教えませんよ」
「じゃあ吐かせるしかないですねッ!」
グラナートがその場から消える。彼が姿を現したのはペアンの背後。彼は掌底を構え打ち込む。
完璧な奇襲。普通なら防ぐ事も出来ず骨が折れるほどの一撃。
そう“普通”なら。
「それで死角を取ったつもりなんて、舐めてるんですか?殺しますよ?『咲斬花』」
「なッ!?くっ…」
突如彼女の背中から無数の剣が針山のように現れる。驚愕を露わにするが、グラナートは冷静に攻撃の体勢から防御の体勢に変える。
しかし相手の背中から出て来た武器はどれも鋭利な物。それを受け流すではなく防御してしまった為、彼の身体には無数の切り傷ができていた。
しかしわかった事もある。おそらく彼女は
「文字通り身体の中に武器を隠して戦う…貴女は暗器使いですね?」
「…まさかバレる日が来るなんて思ってもいませんでした。アハハ、楽しい…。私の名前ペアンです。貴方が言った通り私は暗器使い。魔法は苦手ですが暗器なら誰にも負けません!」
今まで無表情だったペアンは、ここにきて初めて表情を変えた。
「奇遇ですね、俺も魔法は苦手です。それにしてもさっきは教えないと言っていたくせに、どういう風の吹き回しですか?若干キャラ変わってますし…」
「気分がいいんです!二回も貴方を殺し損ねた。こんな経験は一度としてありません。きっと貴方となら“一方的な殺戮”じゃなく“殺し合い”ができる気がするんです!アハハハハハッ!!さぁ始めましょうォ、殺し合いをォ!『胡蝶嵐』!」
今までとは違い、この生死をかけた戦いを愉しむペアン。それは戦いにも現れているようで今の彼女は、洗礼された今の彼女の動きはまるで、ダンスをしているようにすら見える。
しかし洗礼された動きとは逆に攻撃は猛々しさを増していった。
ストレートがきたと思ったら拳から駒爪が。回し蹴りがきた思ったら脹ら脛から鎌が。
一度と隙をついてカウンターを入れようとしたが躱された。
掌底をだと思ったら毒針の飛来が。そしてそのまま肘鉄。中段蹴りがきたと思ったら靴底から刀が。
それも伏せて躱しカウンターです下段蹴りをしたがこれも躱された。
止むことのない蓮撃は名前の通り、蝶のように優雅に舞いつつ、それでいて嵐のような荒々しさも持ち合わせた攻撃。
これではグラナートも迂闊に手が出せず、彼女の間合いにも入れない。そんな彼は一定の距離を保ちつつ攻撃の回避に徹していた。
「アハハハハハッ!スゴイ!スゴイです!私の攻撃が全く当たらないなんて!こんなスゴイ人を殺せたらきっと気持ちいいのでしょう…。楽しい…楽しい楽しい楽しい楽しいッ!!
さぁ!貴方も逃げてばかりじゃなくて攻撃をして来てください!私をもっともオオオォォォオオと楽しませてくださいィ!」
「では、お言葉に甘えて…ッ!」
「…?私に攻撃が当たらないから机にあったってるんですか?」
グラナートは彼女の言葉を無視して室内にある机、椅子、ロッカーを次々と拳で破壊していく。
「………。私を無視して無機物の破壊に夢中なんて…そんなに私をバカにして楽しいんですか…。やっぱり貴方も他の人間と一緒なんですか」
ペアンの先ほどまでのテンションは何処へやら。口調も最初の頃に戻っている。
「もういいです、さっさと殺されてください。『刃乱』」
無数の斬撃がグラナートを襲った。
煙で見えないが手応えはあった。これで終わりだ。
両手首から生えた二本の剣をしまうと踵を返す。
「ゲホッゲホッ…どこいくんです?まだ終わってませんよ?」
煙のの中から聞こえるはずのない声が聞こえ、思わずペアンは歩みを止め振り返る。そこには先ほど舞い上がった砂塵によりローブが多少汚れているが、『刃乱』によるダメージは全くなさそうなグラナートがいた。
「さぁて、最終ラウンドといきましょうか」
そういうとグラナートを片足を高く上げ、地面に向けておもいっきり落とす。
『震脚』
それによりグラナートが今まで破壊してきた、机だった物や椅子だった物が一斉に浮き上がる。
震脚により浮いた色々な部品を……
蹴る!蹴る!蹴る!ペアンに向けて。
「生きてたのには驚きでしたけどそれだけです。こんな悪足掻きなんの意味ありませんよ。全部着ればいいだけの話です。『刃乱』」
再び現れる無数の斬撃。途端グラナートが蹴り飛ばした破片は全て塵とかした。
この時ペアンは気付いた。
ザクロが居ないッ!?それに気付いた時には遅かった。
「貴女は強い、なので手加減はできそうにありません。
一発、たった一発貴女にコレを叩き込めるだけの隙が欲しかった」
彼の声が聞こえた。何処から?
視界に彼の姿ない。つまり死角にいる。マズい“間に合わない”!
「終わりですッ!」
そんな思考の中腹部にくる強烈な重い痛み。
グラナートが彼女に腹部に掌底を打ち込んだ。腹部に掌底がついたと同時に手首を捻る。
ペアンの腹部には掌底をだというのに巨大な猛獣にでも引っ掻かれた様な傷が渦状にできていた。
「ゴフッ…どうして……私の…じゃ、弱点…が……ゴフッゴフッ…ハァハァ…わかった…んです……」
「最初に俺がおかしいと思ったのはペアン、貴女が肘鉄をやってきた時です。あの時貴女は暗器を使わなかった。次にカウンターの時です。あの時2回とも貴女は暗器を使わず“躱す”という方法とりました。最初の奇襲の時は使っていた暗器を何故ここでは使わず、躱すという手段を選んだのか。
ここで俺は視点を変えて見ることにしました。暗器を“使わなかった”んじゃなく“使えなかった”のでは?と。
ここである仮説が立ちました。
それを立証してくれたのが、2回目のカウンターです。
ペアン、貴女は暗器を使ってから次の暗器を使うまで少しインターバルがある。そうですね?」
もう喋る気力すらないのか、彼女は辛うじて頷くだけだった。
「おそらくあのインターバルは、貴女の体への負担を最小限に抑える為に必要だった」
グラナートは横たわる彼女に目を向けるが彼女から返事が返ってくることはなかった。




