急襲
草木が生い茂るジャングルの中にフィンドは立っていた。太陽はやや西に傾き、真上からの光を受けた木々は嬉しそうに葉を揺らす。
ピピッ……この音は……
バロンからの着信だろう。急いで、肩にかけたショルダーベルトから、セムをはずし、電話に応じる。
「もしもし?」
「バロンです」
「それは知ってる。これからどうすればいい?」
「失礼いたしました、私の声を忘れていらっしゃるかもしれないと思いまして」
「忘れねぇよ、少なくとも鶏よりはマシな頭してるから」
「失敬失敬。では、フィールドに来たことですし、あなたには三法を覚えてもらいましょう」
「サンポウ?なんだそれは?」
「三法とは、これからあらゆる場所に行くに当たってその場所についての、情報を増やし、戦いを少しでも有利にするために研究され、今では能力者の子供には、生まれつきその能力を植え付けるようになりました。実際にいつその能力を引き出すかは教育者次第ですが。まぁ、いいでしょう。では、まず、三法の名前を教えてしまいましょう。〝知〟〝防〟〝放〟です。では、次に、それぞれの説明をしましょう。知は文字通り、その場を知る事です。大地を感じて、フィールドの全貌、敵の数、場所などを知る事が目的です。フィールドをより、自分が使いやすいものになるように、自然の摂理に反さない限りで、物を動かす事が出来ます。まぁ、簡単に言えば、念力のようなものです。上達すれば知を使った感覚で、攻撃を加える事も可能になります。防は、いわゆる、よろしくお願い申し上げます。鎧のことですね。これは、人によって個性があるのと同じように、生まれつき持ったその人のイメージと合致する、鎧になります。経験を積むにつれ、使える防の種類は増えて行きます。その、鎧の出現のさせ方ですが、まず、名前を呼びます。これをコールといいます。以上です」
「まずって言ったから難しいことを予想した俺がバカだった……」
「まぁ、実際出現させるのは、少し大変かもしれませんけどね。では、次に。放は解放を意味し〝知〟が完全な時(フィールドを知り尽くし、すべての環境が整った状態)に能力を使うことにより、〝解放〟(リベレイション)を行うことが出来ます。このように知•適•放は、それぞれが孤立している訳ではなく、複雑に絡み合いながら、存在しているのです。また、最も重要なのは、リベレイションは単体で使用する事が出来ないという事です。もともと、能力者の持っている力に付与される形になります。そのため、リベレイションを行う事により、得られる能力は、使用者の能力や、技量によって異なります」
少しの間があり……
「申し訳ありません。あなたに、能力の使い方をお教えするのを忘れておりました。まぁ、やろうと思えば簡単なんですが、はっきり言って感覚ですね」
「感覚ねぇ……オレニワカルトオモッテタ?」
「いいえ」
「だよねぇ……」
「まぁ、実践第一です。やってみなけりゃわかりません。まずは声を出して見るのが良いでしょう。ちなみに、あなたが今使える呪文は……」
バロンがボードを見る。そして
「カリカリ……」
今のは斜線を引いた音だろうか?
「今使って良い呪文は、〝クール〟〝ホット〟〝ウィンド〟です」
「君の言わんとすることはわからなくなくもない」
なんせ、一般人なら、普通にわかる。〝クール〟〝ホット〟〝ウィンド〟なんて、そのまま、あそこの国の言葉じゃねぇかよ。それに、あの斜線を引いた音のようなものと、バロンが言い換えた、使って良いに変えたのにも、なにか、関係がある気がする。
「ポイントはとにかく、声に出すことです。そして、思うことです。想像力があればあるほど、威力は強まります」
その時、バロンの言葉が途切れた。いや、正確には、もう、話すことはなかったのだが…
いや、いい。いま、注目すべきことは、木だ。なぜ木なのか?理由は簡単だ。今までそれと思っていたところに得体の知れない怪獣が立っていたからである。怪獣はその、恐ろしい目で凄まじいプレッシャーをかけて来て、今にも殴りかかって来そうだ。
「なんて、ピッタリのタイミングなのでしょうか。とりあえず、今はもう、話すことはありません」
バロンは微笑んだ。
「健闘を祈りますー」
「え……ちょ……」
通信は切断された。「でけぇなぁ。一口で人何人食えるんだろ……」そんなことを考えながら、ぼうっとしていると、いきなり怪獣は、手に持った斧を振り下ろしてきた。
「やべぇ」
フィンドは思考をフル回転させる。どうする……
そして、三つの選択肢が、思い浮かんだ。
一、逃げる
二、逃げる
三、逃げる
「よし、逃げる‼」
間一髪、フィンドは、攻撃を避けた。怪獣の、斧は刃渡りおよそ一メートル、地面を見ると、三メートルはゆうにいった、亀裂が入っていた。
「衝撃波か?…」
普通に考えればわかる。普通の人間なら刃渡り一メートルの斧で三メートルの亀裂なんて作れるはずがない。だが、これは、例外だ。
なぜなら、こいつは、〝人じゃない〟からだ。そんなことを考えている間にも、怪獣は斧を地面から引き抜き次の攻撃をするために、構え始めた。
次は、横だ。今度はどう避けるかなんて考える暇はなかった。
伏せた。
すると、今の今まで、フィンドの顔があった、場所に斧が通り、その後ろにあった木は綺麗に二つに切れ、ゆっくりと倒れて来た。うん、やはりおかしい。怪獣から、フィンドまでの間合は、およそ、三メートル。さっき言った通り、怪獣の斧は一メートル。いや、やはり、説明はもういい。要は、フィンドの後ろ、およそ、五メートルまで、木が真っ二つになっていたということだ。
「これは、マズイなぁ……なんとかせねばならない。」
このままでも、仕方が無いので、ひとまず、怪獣が後ろを向いた隙に、茂みに身を潜めた。
「とりあえずは……」
フィンドは、大きく深呼吸した。
「よし‼」
フィンドは、怪獣の真後ろに飛び出た。これには怪獣も、少し驚いた様子で、少し引いた。『チャンスはいましかない‼』
フィンドは、握った右手を前に突き出した。
「クール‼」
すると、手に温かい感触がまわり、手が青白くひかりはじめた。
「やった‼いっけぇーー‼」
勢いよく腕を曲げ、伸ばした。
すると、青白く輝いた光は、フィンドの手をゆっくりとはなれ、怪物に命中した。
〝命中した〟
が、怪物は微動だにしない。そう、効き目ゼロだ。その他の、わざも相手の隙を狙ってすべて試したが、一つも効かなかった。
フィンドは悟った。
「こんなやつ、まともに相手したら絶対に勝てない…方法を考えないと…」
フィンドは戦線離脱した。




