第三話 街へ
今目の前で起こった出来事に、疑いは確信へと変わった。
「……ここは異世界だ」
僕はそう呟くと、仔虎を追うように街へ向かって歩き出した。
それからしばらく歩いた。
おそらく一時間以上は経っている。
その間、先ほどのような魔物の襲撃は一度もなかった。
ただ、ひたすら草原が続いていた。
そしてようやく、遠くに街の門が見えてきた。
高い石壁に囲まれ、その入口には人が立っている。
金属の甲冑のようなものを身につけた兵士だ。
「……やっぱり異世界だよな」
街の入り口を、何から守っているのだろうか。
僕は通してもらえるのだろうか。
そもそも、日本語は通じるのか?
そんな不安を抱えたまま、とうとう門の前まで来てしまった。
「止まれ!それ以上近づくな!」
ですよねー。
一度体の動きを止め、隣の仔虎を紹介しようとすると。
「手を頭の後ろに組んで膝をつけ!」
これまた、厳重だ……。
「……はい」
僕は素直に従う。
「貴様は何者だ?人間か?」
わー!日本語だ!
思わず心の中で叫ぶ。
言葉は通じるらしい。
「人間です!名を和-なぎ-と申します!怪しい者ではありません!ここを通していただけないでしょうか!」
「怪しい者ではないだと?そのような奇怪な服を着て、怪しくないと言うのか?私を侮辱しているのか?」
やっぱりそう来るか。
奇怪な服?
ポロシャツとチノパンはこの世界にはないらしい。
「何をしに、どこから来た?」
「それは……」
言いかけて、言葉に詰まる。
交通事故。
気づいたら草原。
そして仔虎。
説明しても理解してもらえる気がしない。
「ここを通してもらえないでしょうか!」
「質問に答えろ!」
「えっと……この子供の白虎が迷子で、引き取ってもらえればと……」
言いかけた瞬間。
「あれ……いない!?」
仔虎が消えていた。
また、迷子だ。
「どこから来たのかも分かりません!」
「分からないだと?」
空気が一気に張り詰める。
そのときだった。
「ちょっと待て。その男に話がある。俺に代われ」
低い声が響いた。
誰だこの人。
門番よりも圧が強い。
身長は高く、がっしりとした体格。
鋭い目つきに、左頬には大きな傷跡。
長い髪を後ろで束ねている。
そして、明らかに位の高そうな服装。
「しかしバウワウ卿!こやつには私で十分であります!」
バウワウ卿?犬の鳴き声みたいな名前だな。
「俺に代われと言った」
「……はっ!」
門番が一歩下がる。
「にいちゃん、すまなかったな。俺についてこい」
「は、はい……」
助けに来てくれたのか?
僕はその男――バウワウ卿という人物についていくしかなかった。
「にいちゃんはどこから来た?」
「交通事故に遭って、気づいたら草原で……」
「OKだ。もういい」
「え?」
「昨日の夜にも、お前と同じ服の女がこの街に来た」
「……女?」
先輩だ。
デイサービスの送迎車には、僕と先輩も一緒に乗っていた。
「そいつは門番に斬りかかってきてな。今は牢に入れてある」
「えっ……」
「交通事故がどうとか言ってたな。お前と同じだ」
やっぱり先輩も……。
「その人に会わせてもらえませんか!」
「分かってる。お前たちの話を聞くために、俺が預かったんだ」
そう言って歩き出す。
街の住人たちが、こちらを見てヒソヒソと話している。
その視線を感じながら、僕は後を追った。
やがて、石造りの大きな建物に着いた。
中に入るとすぐ階段があり、地下へと降りていく。
そこは――牢獄だった。
鉄格子が並び、薄暗い空気が漂っている。
「この一番奥だ」
「その人は、なんで捕まったんですか?」
「なんでって……見たこともない刀で暴れて門番を伸しだからだ」
「あの門番を、伸した!?」
そして一番奥の牢へと案内された。
そこにいたのは――
両手を鎖で縛られた先輩。
牢の外には、刀が置かれている。
あれは――日本刀だ。
「……茉椰-まや-先輩っ!」
その瞬間。
彼女の目がこちらを向いた。
今まで見たことのない、獣のように鋭い眼光だった。




