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異世界行ってもデイサービスで働きたい!  作者: 硬めのバケツプリン
異世界行ってもデイサービスで働きたい!

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第二話 ここは異世界?

意識が戻ると、目の前には満天の青空が広がっていた。


デイサービスの制服である半袖ポロシャツから出た両腕に、草が触れている。


心地よい微風が吹いていた。


「……ここは、どこだ?」


身体を起こそうとした、そのときだった。


頬に、何かが触れた。


生暖かくて、濡れていて、柔らかい。


そして……動いている。


「……ん?」


ゆっくりと顔を横に向ける。


そこには、不思議な生き物がいた。


白い毛に覆われた小さな身体。


僕の頬をペロペロと舐めながら、心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「……仔猫?」


いや。


猫にしては身体の骨格がしっかりしている。


よく見ると、白い身体には黒い縞模様が入っていた。


「……ホワイトタイガー?」


動物園や動物図鑑でホワイトタイガーの子供を見たことがある。


でも、目の前のこいつは一般的なホワイトタイガーとは少し違う。


赤い目。


左前足には、黒い毛が装甲のように固まっている。


さらに額には、宝石のような装飾まで付いていた。


「……なんだ、こいつは?」


僕は自分の身体を確認する。


デイサービスの制服。


財布もある。


事故に遭う前と、何も変わっていない。


周囲を見渡す。


どこまでも続く草原。


青い空。


心地よい風。



ここに来る前、僕は送迎中だった。


対向車線から大型トラックが突っ込んできて……。


僕はブレーキを踏んで、ハンドルを切った。


その後の記憶がない。


「……僕、死んだのか?」


あんな勢いで突っ込まれたんだ。


普通に考えれば、生きているほうがおかしい。


「まだ25歳なのに……」


将来は結婚して、子供ができたら祖母の墓に連れて行く。


そんな夢もあった。


「……じゃあ、ここは天国?」


改めて周囲を見る。


満天の青空。


一面の草原。


心地よい風。


「……なんか、天国っぽいな」


けれど、目の前には明らかに普通ではない生き物がいる。


僕は仔虎を見つめた。


「……まあ、考えても仕方ないか」


仔虎は僕の頬をもう一度ペロッと舐めた。


「ふふっ」


くすぐったさに、思わず笑ってしまう。


敵意はまったく感じない。


むしろ、身体を擦り寄せてくる。


「……可愛いな」


僕は今まで犬派だった。


犬は人間に懐いてくれる。


その媚びてくれるような仕草が可愛いと思っていたからだ。


でも――


目の前のこいつは、猫科のような見た目なのに僕にべったりだ。


「猫科も、いいかもしれないな」


そんなことを考えている場合ではない。


「お母さんとはぐれたのか?」


言葉が通じるはずもない仔虎に問いかける。


すると仔虎が首を横に振った。


……いや。


ただ毛をブルブルと震わせただけかもしれない。


「……お母さん、一緒に探そうか」


僕が立ち上がると、仔虎も立ち上がった。


そして、僕の後ろをついてくる。


だだっ広い草原を見渡しても、母親らしき生き物の姿は見当たらない。


「どこから来たんだろうな……」


しばらく歩いていると、遠くに建物が並んでいるのが見えた。


「……街?」


人が住んでいる場所かもしれない。


街に行けば、ここがどこなのか分かるかもしれない。


もしかしたら、この仔虎を保護してくれる人も見つかるかもしれない。


僕は街に向かって歩き始めた。


すると――


目の前に、白い球体のようなものが現れた。


「……なんだ、あれ?」


直径四十センチほど。


タンポポの頭のような見た目で、綿毛のようなものに覆われている。


ふわふわと宙に浮かんでいた。


風が吹いているのに飛ばされない。


まるで意思を持っているかのように、ゆっくりと僕へ近づいてくる。


「……?」


その瞬間。


「グルルルル……」


隣にいた仔虎が、綿毛に向かって威嚇を始めた。


「どうした?」


僕には、とても危険なものには見えない。


むしろ、ただの綿毛にしか見えなかった。


そして――


白い綿毛が、僕の腕に触れた。


「――ッ!」


ズキッ!!


右腕に鋭い痛みが走る。


「痛っ!」


反射的に腕を引く。


右腕を見ると――


無数の切り傷ができていた。


血が流れている。


「えっ……?」


ただの綿毛じゃない。


僕が後ろへ下がった、その瞬間だった。


ゾゾゾワァァァン!!


紫色の光が、横から一瞬で飛んできた。


「へっ?」


振り向く。


そこには、大きく口を開けた仔虎がいた。


仔虎の口から放たれた紫色の光が、白い綿毛を直撃する。


シュボッ!


白い綿毛は、一瞬で消滅した。


「…………」


僕は、その場で固まった。


今……何が起きた?


仔虎が、口から紫色の光を出して……僕を助けた?


「……やっぱり、ファンタジーすぎる!!」


すると仔虎が、僕の足元へ駆け寄ってきた。


そのまま僕の身体をよじ登り、出血している右腕を舐め始める。


「痛っ!」


最初は痛みを感じた。


けれど――


数秒もしないうちに、その痛みが和らいでいく。


「……え?」


右腕を見る。


傷口が、みるみる小さくなっていく。


そして――


跡形もなく消えた。


「……治った?」


僕は自分の腕を何度も確認する。


傷はどこにもない。


仔虎は僕の肩まで登ると、今度は僕の頬をペロッと舐めた。


そして、


ピョンッ。


地面へ飛び降りる。


何事もなかったかのように、街へ向かって歩き始めた。


「……ありがとう」


僕が声をかける。


すると仔虎は足を止め、振り返った。


……少し笑った?


そう見えた。


仔虎は再び前を向き、街へ向かって歩き始める。


僕もその後を追った。


目の前で起きた出来事を、まだ頭の中で整理しきれていない。


口から光を放つ仔虎。


宙に浮かぶ謎の魔物。


傷を舐めただけで治す不思議な力。


こんなもの、日本にいるわけがない。


僕は遠くに見える街を眺めながら、呟いた。


「……ここは異世界だ」




+画像閲覧ページURL+

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