第一話 僕はデイサービス職員
僕は25歳。デイサービスで機能訓練士として働いている。
デイサービスは、高齢者の方が住み慣れた自宅で生活を続けられるように、日常生活の支援や身体機能の維持・向上を行う場所だ。
僕はこの仕事に誇りを持っている。
ずっとデイサービスで働きたいと思っている。
僕にとって、この仕事は仕事以上のものだと考えている。
朝は利用者さんを迎えに行き、自宅の玄関や廊下、ベッド周りなどを確認する。
「ここ、ちょっと段差が高いですね」
「この向きなら、もっとベッドから起き上がりやすそうです」
自宅での生活を想像しながら、リハビリに必要な情報を集める。
デイサービスに到着すれば、バイタルチェックをして、体操を行う。
その後は一人ひとりに合わせたリハビリ。
肩や腰、膝の痛みを改善するためのものから、立ち上がりや歩行、トイレや入浴など、実際の生活動作を改善するためのものまで様々だ。
昼食では食事中の姿勢や動作を確認し、午後は残りのリハビリやレクリエーション。
そして最後は、利用者さんを自宅まで送り届ける。
一見すると、毎日同じことの繰り返し。
でも、僕はこの仕事が好きだった。
利用者さんが今までできなかったことを、少しずつできるようになる。
「家でも少し歩けるようになったよ」
「お風呂、一人で入れた!」
好きなことを続けていける。
「ここで体操してるから、まだまだ畑もできる!」
「また、街まで買い物に行って来られたよ!」
そんな言葉を聞けることが、何より嬉しかった。
僕がこの仕事を続けている理由には、もう一つある。
高校生のときの、祖母との出来事だ。
祖母が癌になり入院中、お見舞いに行ったときのこと。
4人部屋の右奥。
そこが祖母のベッドだった。
閉じたカーテンの前で、僕は祖母に声をかけた。
「入っていい?」
「ちょっと待って!」
いつもなら「いいよー、来てくれてありがとう。」と言ってくれる祖母だった。
だから、どうしたんだろう?と思った。
すると、看護師さんがやってきた。
「ちょっと待っててね。」
カーテンの中から弱々しい祖母の声が聞こえてきた。
「立てなくなっちゃって…ごめんね。」
ベッドすぐ横にあるトイレから立てなくなったのだろう。
きっと、そんな姿を僕にみられたくなかったのだ。
僕はその時、祖母をトイレから立たせてあげることすらできなかった。
何もできない自分が、とにかく悔しかった。
その後の悔しそうな顔でいつもより口数の少ない祖母の様子が忘れられない。
その一ヶ月後、祖母は65歳の若さで亡くなった。
世界で一番大好きな祖母だった。
僕を叱ることはなかった。
スーパーに行けば、毎回「何か一つ好きなの買っていいよ」と言ってくれた。
父と母が喧嘩して辛いとき、祖母に電話するといつも僕の話を聞いてくれた。
そんな祖母に、僕は何もしてあげられなかった。
最後まで、何一つ。
あの時トイレから立てなくなった祖母を、僕は助けることすらできなかった。
悔しかった。
今でも悔しい。
だから僕は、理学療法士になった。
祖母にできなかったことを、他の誰かにしてあげたかった。
ある日のデイサービスの送迎中。
事件は起きた。
運転手は僕。
天気は小雨。
僕は8人乗りの大きな車の運転を担当していた。
同乗者は添乗を務める介護士の先輩と6人のご利用者。
デイサービスを出発してすぐ、少し細めの道を走行中だった。
車内ではおしゃべり好きなおばあちゃんたちが楽しそうに会話している。
先輩も会話に入り、賑やかな様子。
すると、対向車線から大型トラックが突っ込んできた。
中央線を大きくはみ出している。
僕は思いっきりブレーキを踏みハンドルを左に切った。
ドンッ!!!!
凄まじい衝撃。
そして僕の意識は途切れた。
意識が戻ると、目の前には満天の青空。
デイサービスの制服の半袖ポロシャツから出た両腕には草が触れる感触。
心地よい微風が吹いている。
ここはどこだろう。
ん?
何かに頬を舐められている?
「………ん?」
ゆっくり顔を横に向ける。
そこには、
不思議な生き物が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
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