第十四話 僕は機能訓練士
「和くん」
浴室の入口から、ロアーさんの声が聞こえた。
「……はい」
振り返る。
「ちょっと話があるんだけど」
……ほんとに怒られるかも。
「いってらっしゃいっ!」
茉椰先輩は、いつもの笑顔で僕を送り出した。
「こっちだ。実は相談があってね」
「相談……ですか?」
ロアーさんについていく。
「さっき、ターディスさんを歩かせてたじゃない?」
「はい」
「あれはどうやったの?」
ロアーさんは、興味津々といった様子で僕を見る。
「どんな魔術を使ったの?」
「あれは魔術ではありません」
「え?」
「僕は銃を握ったときしか魔術を使えないので」
ロアーさんは少し考えるように腕を組む。
「じゃあ、どうやって?」
「ターディスさんの身体を支えながら、少し手を引いてあげたんです」
「それだけ?」
「はい。歩くために足りなかった部分を、少しだけ補ってあげたような感じです」
「……なるほど」
ロアーさんは、納得したように頷いた。
「ターディスさんに限らず、やり方によっては、今まで歩けないと思われていた方でも歩けるようになる可能性はあると思います」
「そんなことが……」
「それと、歩くことに限った話じゃないんですけど」
「ご利用者から、自身でできることを奪ってしまってはいけないと思います」
「……できることを、奪う?」
「はい」
介護をする側にとっては、何気ないことだったとしても。
全部やってあげてしまえば、その人が自分でやる機会はなくなってしまう。
「今できることを、これからも続けられるように手伝ってあげる。できることなら、今よりできることを増やす手伝いをしてあげる」
ロアーさんは、黙って僕の話を聞いている。
「僕は以前、そんな仕事をしていました」
そして――
「もし、自分がご利用者の立場だったらって考えてみてください」
「……」
ロアーさんはしばらく黙り込んだ。
やっぱり、余計なことを言ったかもしれない。
「もっと私たちにできることがあるのかもしれないね」
ロアーさんの表情が、少し柔らかくなった。
「……あっ!」
僕は慌てて頭を下げる。
「雇ってもらって、まだ見学している立場なのに、こんなこと言ってすみません!」
「いやいや」
ロアーさんは笑った。
「むしろ、こちらから頼みたい」
「え?」
「和くん。力を貸して!」
「……!」
思わず顔を上げる。
「はいっ!」
「僕にできることなら、何でもさせてください!」
「ありがとう」
ロアーさんは、嬉しそうに笑った。
「それで、ひとつ提案なのですが」
「うん?」
「僕は以前、ご利用者の身体機能の維持や向上を目的に、体操やトレーニングをしてもらうことをメインとする仕事をしていました」
「体操やトレーニング……」
「はい。機能訓練というのですが、ここでもそういう仕事をさせてもらいたいんです」
「もちろん構わないよ」
即答だった。
「ありがとうございます!」
「僕と一緒に運動をしてもらうことで、ご利用者一人一人の身体の状態も把握しやすくなると思うんです」
「なるほど……」
「なぜ歩けないのか、なぜ立ち上がれないのか、それに必要なものはなにか」
「そういうことを一人一人確認して、その人に合った訓練を考えたいです」
ロアーさんは少し考えたあと、笑顔になった。
「決まりだね」
「今日から和くんには、ルーエ・ガルデンの機能訓練を担当してもらおう!」
えっ、まだ新人なんですが。
「本当にいいんですか??」
「大丈夫。和くんが何をしてくれるのか、私も楽しみだからね」
「……はい!では、楽しみにしていてください!」
異世界に来て、まだ数日。
この世界で、機能訓練士として働けることとなった。
「和くん!ちょっときて!」
茉椰先輩がただならぬ表情でやってきた。
今度はなんだろう…?




