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異世界行ってもデイサービスで働きたい!  作者: 硬めのバケツプリン
異世界行ってもデイサービスで働きたい!

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第十三話 入浴

挨拶が終わると、次は入浴の時間になる。


僕は茉椰先輩と二人で、ロアーさんについて見学することになった。


ロアーさんは浴室へ向かう前に、タンカを用意している。


……お風呂に行くのにタンカ?


そんな疑問を抱きながら、僕たちはご利用者のもとへ向かった。


「ターディスさん、お風呂行きましょう」


声をかけたのは、先ほど僕の年齢当てゲームで見事正解したお父さんだった。


「今日は具合が悪いから、やめておくよ」


「血圧も体温も問題ないですよ。行きませんか?」


「行かないと言っているだろ!」


「お風呂に入ってもらわないと、こちらの仕事が終わりません。お願いします」


「…………いやだ」


意欲低下。


高齢になると、身体が思うように動かなくなり、そこから何をするにも億劫になってしまうことがある。


認知症の症状としても、意欲が低下することがある。


何もしたくない。


そんな気持ちになってしまうのだ。


「この人はいつもこうなんだ」


ロアーさんがそう言うと、ブレイさんに声をかけた。


「ブレイ、グラウル。頼んだ」


すると、グラウルさんがタンカを床に置く。


そしてブレイさんと二人で、ターディスさんの身体を押さえようとした。


「ちょっと待ってください!」


思わず僕は声を上げた。


「お仕事の流れを止めてしまって、すみません。でも……」


「嫌がってるじゃないですか」


今日はあくまで見学。


それなのに、僕は我慢できずに口を挟んでしまった。


茉椰先輩が僕を見る。


「耐えられなかったかー」


ご利用者が嫌がっているのに、無理やりお風呂へ連れていく。


介護の仕事をしている僕には、どうしても受け入れられなかった。


僕はターディスさんの前にしゃがみ込んだ。


「ターディスさん」


「ん?」


「お洋服、少し汚れていますね」


ターディスさんの服を見る。


「最近は暑くなってきましたし、たくさん汗もかいていると思います」


そして、少し微笑んで続けた。


「このまま汚れたお洋服を着ていたら……ターディスさんほどの男前が台無しですよ」


「ハハハ! そうかそうか!」


ターディスさんは楽しそうに笑った。


「じゃあ、着替えようかな」


「はい! 僕も一緒に行きますから」


うまくいった。


どんな声かけをしても、誘導に失敗することもある。


それでも、本人が納得できるような声かけを心がける


それが僕たちのデイサービスの仕事だ。


「すごいな」


グラウルさんが感心したように言った。


「タンカを使うか? 一緒に運ぶぞ」


「いえ、大丈夫です。ターディスさん、歩けるので」


先ほど、足踏みの運動をしていたときのことを思い出す。


ターディスさんは、力強く足を踏みしめていた。


あれだけの筋力があれば、少し手を貸すだけで、すぐそこの浴室まで歩くことができるだろう。


「ターディスさん、立ちましょう」


僕が手を差し出す。


ターディスさんは、その手をしっかりと握って立ち上がった。


僕はターディスさんの左側に立つ。


転倒しないように注意しながら、片手でターディスさんの手を支え、もう片方の手で脇の下から身体を支える。


「ゆっくりで大丈夫ですよ」


「ハハハ! 手伝ってもらえば、俺もまだ歩けるなぁ!」


「これだけ歩ければ、散歩もできそうですね!」


ターディスさんは嬉しそうに笑っている。


もしかしたら、久しぶりに自分の足で歩いたのかもしれない。


浴室へ到着すると、ベンチに腰をかけてもらう。


すると、グラウルさんが感心したように口を開いた。


「すごいな! ターディスさんを力ずくでもなく、精神魔術を使うでもなく、浴室まで誘導するとは!」


精神魔術???


とんでもない物騒ワードだ。そんなものなるべく使わせないように頑張ろう。


するとグラウルさんがターディスさんの服に手を伸ばした。


「ターディスさん、服を脱がしますよ」


「えっ」


脱がすって……そんなに強引に?


「いえ、グラウルさん」


僕は慌てて止める。


「ターディスさんは自分で服を脱げます」


できることまで僕たちが奪ってしまったら徐々にできなくなってしまう。


「ターディスさん、服を脱いだら僕に声をかけてくださいね」


「わかった」


僕は周りを見回す。


「あと、ブレイさん、グラウルさん服を脱ぐところをそんなにジロジロ見ないでください」


「和! 脱いだぞ!」


「はい! じゃあ、シャワーを浴びましょうか!」


僕がターディスさんのところへ向かう。


すると今度は、ブレイさんが口を開いた。


「和! タンカを置いておくぞ」


「あ、いりません」


タンカ、タンカって僕たちはコントでもしてるのか。


これが、この施設では当たり前なのだろう。


「ターディスさん、お身体で洗いにくいところがあったら教えてくださいね」


「おう」


そう声をかけ、僕はターディスさんが身体を洗う様子を見守る。


洗体中にバランスを崩して転倒することもある。


何かあったときにはすぐに支えられるように。


「和!」


「はい?」


「背中が届かない。洗ってもらえるか?」


「もちろんです!」


僕はターディスさんの背中を洗う。


「ありがとな」


「いえいえ」


身体を洗い終えると、次は湯船へ。


「ターディスさん、次は湯船に浸かりましょうか」


「おう!」


そのとき、またブレイさんが口を開いた。


「和! タン――」


ブレイさんが途中で言葉を止める。


「……いらないか」


「はい」


「手が必要だったら呼んでくれ」


「ありがとうございます」


どうやら、少しずつ分かってきたらしい。


僕はターディスさんを支えながら、ゆっくりと湯船へ誘導する。


「ゆっくり入りましょう」


ターディスさんが湯船にゆっくりと入る。


「はああぁぁぁーー……」


ものすごく気持ちよさそうな声が浴室に響いた。


「和……あったかくて気持ちがいいなぁ」


「そうですね」


ターディスさんは湯船に浸かりながら、ぽつりと呟いた。


「俺、ほんとは風呂好きなんだ」


「そうなんですね」


「でもな……ここの連中は、こっちの気分も考えずに無理やり風呂に入れようとするからな」


「…………」


やっぱり、お風呂が嫌だったわけじゃない。


無理やり連れていかれるのが嫌だったんだ。


「……ですよね」


僕は苦笑する。


「すみません。これからは、また気持ちよくお風呂に入れるように僕も頑張りますね!」


「ありがとな」


ターディスさんが笑う。


その笑顔を見て、僕も自然と笑顔になった。


やっぱり、ご利用者さんから感謝されるのが一番嬉しい。


……ただ。


今回は、かなり自分勝手に動いてしまった。


見学の立場なのに、仕事の流れまで止めてしまった。


僕はターディスさんを見ながら、少しだけ不安になる。


「……怒られないかな」


その瞬間だった。


浴室の入口から、ロアーさんの声が聞こえた。


「和くん」


「……はい」


振り返る。


「ちょっと話があるんだけど」


ほんとに怒られるかも。

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