第十一話 帰還
1時間以上の死闘の末、ヴァルディオンを討伐した。
しばらくすると、ロアーさんが僕のところへ歩いてきた。
その表情は、先ほどまでの戦闘中とはまるで違っていた。
「和くんに助けられたね。本当にありがとう!」
「和くんがいなかったら……全滅だったわね」
僕なんかでも、みんなの力になれたことが嬉しかった。
でも――誰か一人でも欠けていたら、勝つことはできなかっただろう。
「いやいや、ロアーさんの斬撃がなければ、僕も攻撃できませんでした。それに、ブレイさんの指示と守りがなければ、どうにもなりませんでした。ミューミューさんの守護魔術がなければ、最初の攻撃で壊滅的な被害を受けていたと思います」
「和くん……ごめんね」
「え?」
「今日は見学だけって話だったのに……新人の和くんを危険に晒してしまった」
ロアーさんは俯いた。
「私の責任だわ」
「みんな、生きていて良かった……」
そう呟いたロアーさんは、安堵したように微笑んだ。
その頬を、一筋の涙が伝った。
「ロアーさん……」
「言い訳をさせて」
ロアーさんは涙を拭いながら続ける。
「今まで送迎で、ヴァルディオンほど強いモンスターに襲われることなんてなかったの。この辺りに出現したという記録もない」
「完全に想定外だったのよ」
ロアーさんは、倒れているヴァルディオンへ視線を向けた。
「冒険者だった頃に戦闘経験があったから、よかったわ」
「冒険者……?」
僕が聞き返すと、ロアーさんは頷いた。
「私とブレイは、昔、同じパーティで冒険者をしていたの」
そして――
「その時にも、ヴァルディオンと戦ったことがあるわ」
「そうだったんですね……」
ロアーさんの言葉に、僕は静かに耳を傾けた。
「その時、パーティの仲間を一人失ったわ」
すると、ブレイさんがゆっくりと起き上がった。
「ユーリ・フロストヴィル……」
「ブレイ! 大丈夫?」
「……大丈夫です」
ブレイさんはそう答えると、話を続けた。
「三年以上もパーティを共にした、大切な仲間だ」
「冒険中、ある山の麓でヴァルディオンとの戦闘になった。苦戦を強いられる中、全員が疲弊し、油断が生まれた。その時――ユーリに、あの青白い炎が直撃した」
「ユーリは、近くにあった森へ吹き飛ばされたんだ」
「仲間が吹き飛ばされた怒りで、死に物狂いになってヴァルディオンを討伐した」
「翌日から森の中を一か月ほど探索した。だが……見つかったのは、ユーリが使っていたこの髪飾りだけだった」
ブレイさんが、その髪飾りを見せてくれた。
ジャスミンの花をモチーフにした髪飾り。
「……ユーリは、見つからなかった」
その髪飾りを見つめていると、僕はふと、どこかで見たことがあるような気がした。
……気のせいか。
「……そんなことがあったんですね」
仲間を失う経験を――。
冒険者という仕事が、とても過酷なものなのだと知った。
ブレイさんは、ミューミューさんの回復魔術のおかげで、なんとか動けるまでに回復していた。
「今日の戦いですが、ロアーさんのせいではありません」
「誰も予測できませんでした」
「でも……」
「それより――」
ブレイさんは、倒れているヴァルディオンへ視線を向けた。
「ヴァルディオンの素材を持ち帰りましょう」
「素材?」
僕が聞くと、ブレイさんが説明してくれた。
ヴァルディオンからは、鱗、肉、骨、血液、皮、翼膜、眼球、爪――。
その身体のほとんどが、素材になるらしい。
武器や防具を作るための素材として利用できるだけでなく、売却してもかなりの高値になる。
「一人であれば、一生暮らせるほどの金額になる」
「……一生?」
思わず聞き返してしまった。
そんなに高いのか。
一人と言ったが、そもそも、この災厄級のモンスターを一人で倒せるような強者などいるのだろうか。
みんなの力があってこそとはいえ、討伐できた相手がそれほどの価値を持っていることに、僕は少しだけ喜びを感じた。
ちなみに、送迎中にモンスターから取れる素材や、鉱石、植物などの採取は、施設のルールで認められているとのことだった。
採取した素材の一部は、施設でも職員の装備強化や食材、薬の精製などに使われるからとのこと。
ミューミューさんの回復魔術によって全員の治療が終わると、僕たちはヴァルディオンの素材を採取した。
そして僕たちは、ヴァルディオンとの戦闘の地を後にした。
残りの三人の利用者はというと、御者が他の送迎チームへフォローを要請したとのことだった。
送迎中に戦闘が発生し、時間を要する場合は、他のチームがフォローに入る。
お互いに助け合う。
それが、この施設での送迎だった。
討伐対象がヴァルディオンほどのモンスターとなれば、なおさらだ。
僕が以前勤めていたデイサービスでも、同じように送迎を職員同士で助け合っていたことを思い出した。
そして、僕たちは施設へ帰還した。
施設に到着すると、僕たちの帰還をスタッフのみんなが待ってくれていた。
ロアーさんがスタッフたちに送迎中の出来事を話すと、みんな僕たちを称えてくれた。
そして――
茉椰先輩も、他の班での送迎業務を終え、僕のことを心配して待っていてくれた。
「和くん!」
茉椰先輩は、潤んだ瞳から涙を流しながら、僕に抱きついた。
「心配したんだからね……! モンスターにやられて、もう会えなくなっちゃうかもって思ったんだから! 生きててくれてよかった……」
「先輩……」
茉椰先輩を不安にさせてしまった。
僕たちは、二人だけでこの異世界に来た。
もし僕が先輩と同じ立場だったら、きっと心が張り裂けるほど心配する。
そして、もし先輩が死んでしまったら――。
この世界でたった一人の同志を失ってしまう。
そう考えると、胸が締めつけられた。
「すみません、先輩……。なんとか、生きて帰ってきました」
死ぬわけにはいかない。
強くならなきゃ。
先輩と再会したことで、僕は改めてそう思った。




