第十話 ヴァルディオン
ヴァルディオンがこちらを向く。
その青い眼光が、僕たちを見つめていた。
「……来る」
ヴァルディオンが大きく息を吸い込む。
「みんな、構えて!」
ロアーさんが叫んだ。
次の瞬間――
ゴォォォォォォォォォ!!
青い炎が、広範囲に放たれた。
「――ッ!」
ロアーさんとブレイさんが前に出る。
「ぐっ……!」
二人が炎を受け止める。
それでも、すべては防ぎきれない。
青い炎が僕とミューミューさんへも直撃した。
「ぐあぁぁぁっ!」
身体全体が焼けるように痛い。
僕はその場に倒れ込みそうになる。
「ミューミュー! 和くん! 大丈夫か!」
ロアーさんが叫ぶ。
「だ、大丈夫です……!」
僕は必死に答えた。
しかし――
「……」
ミューミューさんから返事がない。
ヴァルディオンによる青い炎での攻撃は終わった。
隣を見る。
ミューミューさんは地面に倒れたまま、動けずにいた。
守護魔術を使ったばかりで、まだ新たに守護魔術を使える状態ではないのだろう。
「ミューミューさん!」
僕が駆け寄ろうとした、その時。
「来るぞ!」
ブレイさんが叫ぶ。
ヴァルディオンが再び翼を広げ、こちらへ向かって飛び込んできた。
「和! 下がれ!」
ブレイさんが僕の前に立つ。
ヴァルディオンの爪が振り下ろされた。
ガキィィィィン!!
ブレイさんがハンマーで受け止める。
しかし――
「ぐっ……!」
その身体が大きく吹き飛ばされた。
「ブレイさん!」
「私はいい! ロアーさんを援護しろ!」
見ると、ロアーさんも満身創痍だった。
それでも立っている。
手には、まだ巨大な光の大剣。
「……和くん!」
ロアーさんがこちらを見る。
「もう一度、行けるかな?」
「……」
怖い。
一度失敗した。
また失敗したら、次はないだろう。
つまり、みんな死ぬ。
しかし、僕がやらないと。
「……はい!」
僕はノクターンを握り直した。
「今度は……必ずコアを破壊します!」
ロアーさんが微笑んだ。
「よし!」
そして――
「次は決めるぞ、和くん!」
「はいっ!」
ロアーさんがヴァルディオンへ向かって飛び出した。
僕もノクターンを構える。
さっきの攻撃ではダメだった。
なら――
もっと強く。
もっと鋭く。
僕はノクターンへ魔力を注ぎ込む。
ワタクサと戦った時のノクターンに魔力を流し込んだ感覚。
さらに強く。
銃弾に魔力を集中させる。
銃弾を鋭い形に変形させる。
石のように硬いものを貫き破壊するイメージを!
しっかりとノクターンを構えた。
「行けます!いつでも打てます!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお――!!」
ロアーさんが大剣を振り下ろす。
「――ッ!」
ズバァァァァァン!!
ヴァルディオンの胸が大きく切り裂かれた。
一撃目ほど深くはない。
それでも――
傷口からコアが露出した。
ブレイさんが叫ぶ。
「和! 今だ!」
「はいっ!絶対に破壊してやる!!!」
自分に言い聞かせる。
心臓の鼓動が速くなる。
怖い。
手も震えている。
それでも――
今度は、失敗しない。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええっっ!!!」
トリガーを引く。
一発目とは、明らかに違う感覚。
銃弾が飛び出した瞬間――
クフォーン!!
紫色の閃光が一直線にコアへ向かっていく。
そして――
スタァァァァ――ンッ!!
銃弾がコアを貫いた。
一瞬、時間が止まったように感じた。
次の瞬間。
コアに亀裂が走る。
ピシッ!
そして――
カシャァァァァン!!
ヴァルディオンのコアが、ガラスのように砕け散った。
「……やった」
僕が呟いた。
ヴァルディオンの身体から力が抜けていく。
その巨大な身体が――
ゆっくりと地面へ落下する。
ズドォォォォォォン!!
大地が大きく揺れた。
僕はヴァルディオンを見つめる。
「……倒した」
ロアーさんが呟いた。
そして――
その身体は、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「ロアーさん!」
僕も駆け寄ろうとした。
しかし、僕も身体に力が入らない。
ダメージと魔力切れで、立っているのがやっとの状態だった。
「……はぁ……はぁ……」
身体中が痛い。
魔力もほとんど残っていない。
その時。
「……よし」
ミューミューさんが、ふらつきながら立ち上がった。
「ミューミューさん、大丈夫ですか?」
「ウチは……なんとかね」
ミューミューさんは自分自身に回復魔術を使う。
そして、ゆっくりとブレイさんのもとへ向かった。
「ブレイ……!」
ブレイさんは、うつ伏せに倒れたまま動かない。
「……大丈夫。息はあるわ」
ミューミューさんはそう言って、ブレイさんへ回復魔術をかけ始めた。
ハールさんと仔虎も問題ないようだ。
僕たちは、みんなボロボロだった。
とてつもなく過酷な戦いだった。
今回のヴァルディオンは、たまたま現れた想定外の敵。
でも――
もし、こんな戦いが日常的に起こるのなら。
僕は、この世界でやっていけるのだろうか。
命がいくつあっても足りない。
これから施設に帰って、介護の仕事ができるのだろうか。
不安は、たくさんある。
それでも――
ヴァルディオンのコアを撃ち抜いた瞬間。
今まで感じたことのない達成感が、身体の奥から込み上げてきた。
そして、自分が少しだけ強くなった。
そんな感覚が――
たまらなく嬉しかった。
怖かった。
死ぬかもしれないと思った。
それでも――
「……もっと強くなりたい」
自然と、そんな言葉が口から漏れた。
この世界で、まだまだ頑張ってみたい。
そのためには――
「たくさん鍛えないとな」
僕はそう呟き、どこまでも広がる異世界の青空を見上げた。




