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「あの!いきなりな話なんですけど、私に稽古をつけてくれませんか?」
「稽古?まあ、そうだな。別に構わないが――」
「やったー!ありがとうございます!」
「いや、最後まで話を聞け。別に構わないが、俺から学べることなんて何一つとしてないと思うぞ?」
「そんなことないはずですよ」
二人は静かなカフェで話をしていた。
酒場にいると絡まれてしまうからここにいた。
普段は完全防備のフランも、ここではラフな格好だった。
しかし、それでもちゃんと、その懐にはピストルを隠し持っていた。
カフェの名前はフェアリー。その名前からもわかる通り、このお店は全体的にファンシーな装飾によって囲まれていた。ある意味ではコンセプトカフェのようでもあった。
そして、そんな店であるがゆえに、店主も変人だった。
そんな変人な店主が二人の元へやってくる。
「ヒラヒラヒラー。ご注文のホットコーヒーと、カフェラテですよー?」
「え、あ、はい。あ、ありがとうございます」
明らかに困惑しているのはスカル。
なんでもないようにそれを受け入れていたのはフラン。
フランはこの店の常連客だった。
店主がこんな感じということもあって、この店は常に人がほとんどいなかった。なので、非常に静かで過ごしやすかったのだ。
「ヒラールさん。今日もありがとう」
「どういたしましてなのです。ありがとうございますなのです」
「それではまた。ありがとう」
不思議な店主は二人の元から去った。
未だに困惑したままの彼女は、何が起こっているのかわからない。
それでも、状況を把握しようとするのだった。
「な、なんですか?あの人は?」
「別に好きなように生きているだけだろう。気にすることでもない」
「でも、結構おじさんでしたよね?」
ヒラールはおじさんである。五十代後半のおじさんであるのにも関わらず、妖精の格好をして、カフェを開いているのだった。だからこそ、ここはコンカフェみたいな場所だった。
この世界においてもこのおじさんは特異点のような存在だ。
が、ハンターとしての能力が異常に高いので虐げられることはなかった。口答えしてきた者たちは、みんな、彼の狩りの餌食になってしまった。
もはや汗すら流して困惑しているスカル。
そんな彼女のことなど知らないような顔で、カフェラテを飲むフラン。彼は甘いコーヒーが大好きだったので、カフェラテを好んで飲んでいた。
「そんな小さなことを気にする暇があったらハンターとして成長できるように頑張った方がいい」
「そ、それはそうかもしれませんけど」
「どちらかと言えば、俺の弟子になるよりも、ヒラールさんの弟子になった方がいいはずだ」
「そ、それはちょっと」
「そう言うと思った。まあ、俺は別にスカルのことを稽古するのは構わない。しかしながら、それが自分のためにならなかったとしても俺に怒るなよ?」
「そ、それは当然ですよ」
自然と日常へ戻る二人。
スカルはどうしてもホットコーヒーを飲むのが躊躇われた。
あんな人間が淹れたコーヒーなど飲みたくなかった。
そんなわけで、喉が乾くことになってしまう。
それを不思議そうに眺めるフラン。
彼にとってはそこまでの異変ではなかった。
だから、ここまでスカルが反応するのが意外だった。
「どうして飲まないんだ?せっかく頼んだのなら飲んだ方がいい。そんなに長居をするつもりもないぞ?」
「いやぁ、でも、どうでしょうかね?」
「怪しんでいるのか?だとしたら、俺がこれを飲んでいることをなんと思っているんだ?」
それを言われてしまうと何も返せない彼女。
仕方がないので、一口、それを飲んでみることにした。
すると、独特の酸味と苦味。そして、その完璧なバランスとどこまでも深みを感じてしまうほどのコク。それら全てが口の中で調和して。
つまりは、めちゃくちゃホットコーヒーは美味しかった。
それがわかったので、二口、三口と進んでいく。
さっきまでの躊躇いはなんだったのかと思えるほどに、彼女は、そのホットコーヒーに魅了されていた。
コーヒーなんてどれも変わらない。
そんなことを思っていたスカルだったのに、変わってしまった。
明確に美味しいコーヒーを飲んだことで、価値観が変化したのだ。
「ちゃんとした店だ。そんなに気にするようなことじゃない」
「そ、そうですね。そうでした。ちょっと、反省です」
「もしも、ここが嫌だと言うのならば、これからは別の場所で集まることにするが?」
「いや、大丈夫です。ここで集まりましょう。コーヒーありがとうございます。めちゃくちゃ美味しいです」
「それならよかった」
こうして、フェアリーにやってきたスカルはこの店に魅了されることになった。こんなに奇妙な店なのにそれなりに長く続けられているのは、味が確かだからだった。
ヒラールはなんでもかんでも凝るタイプだった。
だからこそ、ハンターとしての腕前が超一流なのである。
その上で自分というものを持っていた。
誰に何を言われても、ヒラールは自分のやりたいこと、やらなければならないことをやるのだ。それが彼の一番強いところだった。




