8、何を言っているんだお前は
セドリック用の稲藁ベットが完成して、リペルは夕飯の支度に取り掛かった。
「セドリック、こちら空腹で海に落ちて衛兵に拾われて居たうっかりさんことソウさん」
「どうも、ソウです」
「ソウさん、こちら仕事中毒者に片足を踏み込んでいるセドリック」
「こちらこそ、仕事に追われているだけのセドリックと申します」
さりげなく仕事中毒者の部分を否定した。
「さて、ソウさん、種族ってなんですか?」
「セドリック!?」
いきなり踏み込んだ質問をするセドリックにアイザックは驚く。そしてセドリックを腕で捕縛してから部屋の隅で話し合いをする。
「いきなりそこまでの質問しなくても」
「いや、海から落ちて門番に拾われたとあるなら気になるし、それにあそこまで流されて生きているのも不思議だからな」
「それはそうなんだけどさ、」
まず、一般人であるならば深海三百メートルの水圧に耐えれないだろう。それで平然と荷物がびしょ濡れになった、なんて話しているのはおかしいと言えばおかしいのだ。
「えーっと」
様子見で二人がソウの方を見るとソウの背中から大きな一対の白い翼が器用に服を破らず生えていた。それは一つも汚れが無い、大きく白く美しい翼であった。
「これでいいかな?」
「「おお!!」」
二人は好奇心につられて目を輝かせながらソウの翼を隅々まで観察する。それぞれの部分で大きさ長さ、形の揃った羽がびっしり生えていてふわふわしている。
「翼か! 翼だと鳥系の獣人とかか?」
「だとすると海鳥とかの水に潜れる系の鳥だと思うな」
「ならあそこまで潜っても平気だったのは分かるな」
「獣人だと現実にいる生き物と似た性質があったけど真っ白の羽の海鳥っていたっけ?」
「それこそ新種かもしれない」
「なるほど」
「ふーたーりーとーもー?」
「「はい」」
リペルの一声で二人はおとなしくなった。先ほどのことが効いているのだろう。かなり控えめになった。
「お客さんを困らせない!」
「「失礼しました」」
少し動くだけで収めるのだから良妻や領主の素質があるのかもしれない。
「おにい、ご飯つけるの手伝って」
「分かった」
アイザックが立ち上がり、台所の方へリペルと共に去っていった。
「………………………………」
「………………………………」
緩衝材の役割をしていたアイザックが居なくなり、二人の間には長い沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのはセドリックであった。
「姉上の同業者の方ですか?」
「んなっ」
仕事を明かされるとは思っていなかったのだろう。少し抑え気味で驚いた声が出た。抑え気味であるのは何も知らないロベック兄妹がいるからだろう。
「軽くだけ聞いてます」
「なるほど」
それだけでソウは理解した。
「多分、姉上はあなたが来たのを察知して俺を追い出したんじゃないかと思ってますよ」
「それほど信用されて無かったかなぁ」
おそらくアサカが持ってきた手紙に書かれていたのではないかと思われる。もしくは門番からの連絡か。
どちらにしても対策の監視役としてセドリックを家から追い出したのだ。悪い方面の信頼はあるだろう。
「まあ、警戒はされているんじゃ無いですか?」
「俺は何もしないよー」
「そういう安っぽくて裏がありそうで軽薄な態度だからじゃないですか?」
「うーん、後で抗議しようかな」
「お好きにどうぞ」
自分には関係がないとでも思っているのかソウの言っていることを流した。
「本当は真面目なんだぞー」
「そうですか」
「これは信じてないな」
その通りである。セドリックの前やリサからの話ではいつもチャラけたにいちゃんみたいなことしかしていないのである。どうして信じられるのだろうか。
ふと、セドリックはソウがここに居ることが不思議に思った。確か姉がアウトルック邸で働いていた。
「サラさん、今うちで「ふたりともー!」
話の途中でリペルが割って入る。夕飯ができたのだ。
「ご飯できた、よー。…………何してるの?」
「「なんでもない」」
じとーとセドリックとソウを見ていたが、飽きたように一度台所へと戻って行った。
「こちら昨日の夕飯の残りのカレーときゅうりのお酢の和え物と焼きナス」
「焼きなすか。結構シンプルだな」
セドリックの一言でリペルの黒い笑顔が深くなった。
「うん。急に人数が倍になったから軽く作れるものしかないんだー」
その言葉はリペル以外の男衆に刺さった。原因が明らかに自分達にあったからである。
「事前連絡もなしに来た人と、相談も無しに拾ってきた人がいるからあんまり手の込んだ料理はできてないけど。元々用意していた天ぷらができなかったんだー。食材も衣をつけて揚げるだけだったのに…………」
「申し訳ございませんでした」
「俺たちが悪いです」
「よろしい」
リペルの発した言葉によってズタボロにされたアイザックとセドリックが土下座をして謝れば、リペルは許した。
「ソウさんも食べます、よね?」
「ハイ、いただきます!」
「それはよかった!」
ソウの慌てた返事にリペルは手を叩いてニッコリ笑った。
「せっかくのご飯が無駄にならずに済んだ!」
ねっ、と目が一切笑っていないリペルが頭を傾げる。
にこにこの笑顔だったのならば可愛いと評価されるだろうが、ニッコニコの笑顔ならば怖いと評価されるだろう。現在は後者の方である。
「もしかしてリペルちゃん、だいぶ怒ってる?」
「だろうな。テンションがおかしい」
「何か文句でも?」
「「いいえ、ありません!」」
このメンツの中で一番怒らせてはいけない、逆らってはいけないのは貴重なまともな料理が作れるリペルである。アイザックでは栄養分重視の薄味、セドリックがすると火を使ってもいないのに火柱が立ち、台所は滅茶苦茶になるからだ。
下手に刺激させると夕飯が食べられなくなる。
「じゃ、ご飯食べようか」
「「いただきます!」」
「いただきます」
そうしてアイザック家の夕食は始まった。
そして結局、セドリックは二泊だけして帰って行った。




