7、急遽設立お泊まり会
「帰れ」
「いやいや、泊めてくれよ!」
家に泊めてほしいセドリックと家に泊めたくないアイザックの攻防が玄関の扉で行われている。そろそろドアが悲鳴を上げ始める頃だろう。
「な、いいだろ! 泊まるなって今更のことだろうが!」
「うるさい。今お前にやる布団はない」
布団はないと聞き、誰かが家に来ていることを知った。
「誰か客人がいるのか?」
「さっきまで拾ってきたことでリペルに正座させられてた」
アイザックが事情を簡単に話すとセドリックはジト目になった。
いくつかある前例を知っているし、その現場に居合わせたこともあるからだ。そして揃ってリペルに叱られたこともある。
「またやったのか」
「………………反省はしてる」
「後悔はしてない奴がいうセリフだろ!」
気まずそうにアイザックは苦し紛れの言い訳をして明後日の方に目を逸らす。その後ろからリペルが顔を出す。
「セドリックさん?」
「やあ、リペルちゃん。こんばんわ」
「こんばんわ、何があったんですか?」
ひょこひょことリペルがアイザックとセドリックに近づく。
「姉上が帰ってきたと思ったら今日はロベック医官のとこに泊まってこいって言われて追い出された」
「それはまた、」
「まあ、久しぶりにこっちにくるのもいいなと思ってね。あと正式ルートで行ってくれとも言われたな」
久しぶり、と言えども半年前にも泊まりに来ていた。
セドリックはそのことを思い出し、げっそりしたような顔になった。
「だから渋々、門のところを通ってきたのさ」
「ああ、転移は疲れるから使いたくない、と」
「あと、海の中を通るのも後始末面倒だからやめろって言われた」
「「なるほど」」
海底都市の名だけのことはあって、海底に沈んだ都市を結界で保護することで一般人でも結界中でなら生きていけるようになっている。その結界を突き破ることになるのでよっぽどの異常事態でない限りは使ってはいけないと決められている。
「泊まるのは今日だけ?」
「分からない」
「分からない、とはなんだ」
アイザックは微妙な顔をした。
「今日だけとも言われてないし、仕事はやりに来いって言われてるし」
「これが噂の仕事中毒者か」
「中毒と言われるほど仕事が好きじゃないからね! 嘘情報を言わないでね!」
「そうか」
セドリックは心外だとばかりに声を上げる。
しかし、片足の膝までは浸かっている。でなければ仕事で徹夜なんてしないだろう。
「そのうち本当になりそうなのが気になるな」
「そんな予言は聞きたくない!」
予言ではなく第三者視点から客観的に見た結果である。決して予言ではない。
「でもセドリックさん、あの仕事の仕方だとそう思われますよ」
「マジか」
たまにアイザックによる強制睡眠を取らされるような仕事の仕方である。いつか体を壊しかねないのだがそこは一族の健康体を引き継いでいるらしくまだ壊していない。まだ、であってそのうちあるかもしれない事をアイザックは危惧しているのだが、やる事が多いせいで心配は加速している。
「仕事体制見直そうかな」
「そうしてくれよ。でないとまた強制睡眠させるハメになるんだよ」
「あれは二度とごめんだ」
「なら直してくれよ」
ちなみに強制睡眠はアイザックがセドリックに手刀を叩き込む、ではなく強烈な睡眠薬を無理やり飲み込ませるという荒技である。それは徹夜二人である場合のみ発生するようなやり方である。決して真似してはいけない。
「忙しくてやってられないんだよ」
「だからそれを見直せって言ってるんだよ」
こんなコントのような会話はいつものことだ。
「まあ、そんなことはさておき、布団無いしわら布団作るか」
「そうだな。寝るところは別に草性のむしろでもいいのだが」
「いや、流石にほぼ床に寝かせる訳にもいかないから」
「するんだったら畑じゃないところでお願いー!」
「了解ー」
アイザックとセドリックは裏口から家の外に出て、準備を始める。
準備、と言っても地面に栄養剤代わりのアイザック特製薬を混ぜ込み、独自で改良した種もみ状態の米を小袋一つ分用意するだけである。
気になったソウが裏口に立って様子を見守る。
「畑?」
「そうそう。畑。しばらく地面の栄養があやふやになって野菜の成長に悪いから空き地でやってもらってるんです」
「へぇー」
どうやら準備は済んだようである。
アイザックが空き地につながる小道に立ち、セドリックはそこから少し離れた場所に立ち、リペルは家の裏口の戸口に立っている。
「始めるぞ」
その合図と共にアイザックは握った米を混ぜ込んだ土に向かって蒔いた。米が地面に触れた。
ただ、土に触れただけで芽が出た。そこから通常の成長スピードとはかけ離れた速さで成長していく。
二十秒もせずに花が咲いた。
それを見たリペルがつむじ風を起こして受粉をさせる。米の花粉が渦となり、蒔かれた範囲を渦巻いている。
すぐに花が枯れると実がなっていき、黄金の稲穂へを姿を変えていく。
それを確認したセドリックが低温の炎の三日月型の刃で根本から刈り取る。そしてその刈り取った稲をリペルが風で回収していく。
「なんだ、これは」
「リペルー」
「はいはーい」
アイザックに呼ばれたリペルは遠心分離機の要領で稲を実と藁に分ける。そして実をアイザックの袋とまた別の大きい袋に入れる。藁はそのまま空中で保ち、風で2階にある窓を開け、その窓から室内へと運び入れる。
「これでいいかな」
「うん。ありがとうリペルちゃん」
「いえいえー」
そんな会話の片手間にセドリックは稲が生えていた部分を焼き払い、アイザックは灰を肥料として木の根を器用に使い、土に混ぜ込んでいる。
「お夕飯作ってきますねー」
「ええぇ」
リペルは何てことないように台所へ向かって行った。
あまりにも早く、目を疑うような展開にソウはついていけなかった。




